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スイス絵本作家の原画が世田谷文学館で

ハンス・フィッシャー「こねこのぴっち」から。 Hans Fischer

日本で人気のあるスイス絵本画家、ハンス・フィッシャーとフェリクス・ホフマンの原画に触れられる「スイスの絵本画家 フィッシャー、ホフマン展」が9月7日まで東京・南鳥山の世田谷文学館で開かれる。

ホフマンの特徴は抑えた色調、フィッシャーは美しい線にあると世田谷文学館の生田美秋学芸部長。「フィッシャーの線は生き生きとして珍しく、ホフマンは構成が上手でグリム童話を実に上手く子供の興味を引く場面を絵にしている」と語る。

展覧会の見所

 見所はそれぞれの作家が自分の子供のため作って作品群でフィッシャーの「たんじょうび」など手書きの水彩スケッチ、ホフマンの「ラプンツェル」など文も手書きで創作された絵本が見られる。文学館の学芸部長の生田美秋氏は「何度も読まれた、傷みの激しいものではあるが、製本技術もしっかりしていて非常に完成度が高い」作品だという。

 もともと、この企画は小さな絵本美術館で自分の子供達へ聞かせてあげる手作りの本から市販の絵本になっていった作家に焦点を当てたのが始まり。それを世田谷文学館が引き継いだ。

 ホフマンとフィッシャーのスタイルは異なるものの、「絵本だけではなく、壁画、ステンドグラスを作ったり、舞台芸術を手掛けたりした完成された芸術家だったことに共通点がある」と小さな絵本美術館の館長の武井利喜氏が語る。

 展示では原画と絵本を比べられるようになっているが、原画でないと出ない濃淡の鮮やかさや透明感がわかる。ホフマンの本を出版していたサウアーレンダー氏はインタビュー(「フェリクス・ホフマンの世界」小さな絵本美術館発行)で最初、ホフマンの石版の作品は6色ないし8色刷りだったが、金銭的理由でやむなく、4色製版になったと語っている。
 
日本で人気の理由は ?

 ホフマンの元出版社、サウアーレンダー氏は同インタビューで「ホフマン家に入ってくる印税は日本からのものがほとんどなのではないでしょうか」と話している。実際、日本で入手できるホフマンのタイトルは8冊以上あるが、スイスではほとんどが絶版(独語圏では「七羽のからす」仏語圏では「ねむりひめ」のみ)、版権もスイスのホフマンの故郷、アーラウのサウアーレンダーからデュッセルドルフのパトモス社(2002年3月から)へ移った。

 日本では今もロングセラーの理由としてホフマンとフィッシャーを出版している福音館の田村実絵本編集長は「日本人は評価の確立した、古典的な絵本作品に対する人気が高い。外国ではスタイルが新しくなっているものを好む」と見る。すでに古典の仲間入りをしているこれらの作品は「爆発的に売れるわけではなく、コンスタントに売れている」という。「ホフマンのリトグラフは通常よりも沢山色を使っており、版画に近い形だ」といい、ホフマンをグリムの世界を一番上手く表現していると絶賛する。

スイスと絵本画

 スイスの絵本作家で最も名を得ているのはアロイス・カリジエ、ホフマン、フィッシャーだ。この国で有名な絵本作家がこのように排出した理由として生田氏は「スイスの作家は美術の勉強がしっかりしている」という。武井氏は「この時代、工房があったこと、リト刷りの職人がいたことなどで、多色刷りの美しい本を作ることができた」ことも大きいと分析している。


スイス国際放送、屋山明乃

月曜日休館。観覧料一般300円。7月26日は小さな絵本美術館館長の武井氏が人間的な面のアプローチでスライド講演を。8月16日は児童文学者の松居直が「フィッシャー、ホフマンの世界」講演。参加費500円。事前申し込み制。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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