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スイス 武装した永世中立国 −4− 非常時の食糧

量、栄養のバランス、美味しさをモットーにスイス軍のお食事は用意される

(Keystone)

湾岸戦争が勃発した際、スイスでは買いだめ現象が起こった。9・11テロ発生やイラク戦争の際には、連邦国内補給局に家庭での食糧の保存方法などについて、電話での問い合わせが急に増えたという。

スイスへの侵略戦争は可能性が低く、国外で起こっている戦争が、直接スイス国内の非常時にはつながりにくいと市民は現状を判断しているものの、非常時が絶対来ないと考えているわけではない。

 「災害は忘れたころにやってくる」が、スイス人はこれを忘れないらしい。

 政府は非常時を外国での戦争や紛争によるスイスへの大量難民流入、テロ、自然災害などを想定している。

 スイスの家庭の地下倉庫には、常に保存食が山積みされているらしいというのは本当か。非常時における国民への食糧調達を、政府はどのように考えているのだろう。

 一方で、兵役たちは普段どのような食事をしているのか。最近、軍隊の食事レシピが出版になり、市民からの購入の希望も多くあり、版を重ねているという。スイス軍は、軍隊の食事をどのように捉えているのだろうか。「スイス 武装した永世中立国」のシリーズ第4回では、スイスの非常時に対する考え方と食糧調達について探った。

非常時でも十分あるが贅沢はできない

 スイス軍のロジスティック担当者ルネー・シャンツ氏によると「観光客などがいるので平時においてさえ、総人口数よりも毎日120万食分多く、スイスでは食糧が消費されている。非常時になっても、パンを作る小麦もオーブンも十分ある」と非常時にはいますぐにでも、対応できるという。政府の計算では、非常時となれば、現在の3倍の生産量を賄える製粉設備とオーブンがあるという。
 
 非常時に対応するための食糧の保管は、非常時発生直後の国民の胃袋を賄えば十分と、必要最小限に留まっている。それには3つの方法で食糧を調達することを想定。まず、軍用、市民用を問わず、非常時でも外国からの輸入は続くと考え、輸入で全国民の消費エネルギーの3分の1は賄う計画である。

 また、民間企業には小麦、米、砂糖、食用油、コーヒー、抗生物質の保管が義務付けられている。企業の保管食糧は、非常時発生後4カ月の間の必要量の3分の1が賄える計算だ。医薬品が保管対象外になるなど削減され、企業の負担は軽減される傾向にある。企業の負担は商品の価格に上積みされるが、消費者が間接的に負担しているこうした企業の貯蔵コストは、1人当たりにして99年には23.50フラン(約2000円)、02年には13.95フラン(約1200円)となっている。

 そして農耕地。現在ある農耕地をフル活用すれば、輸入などに頼らなくとも、実際は必要最低限は賄えると政府は計算している。

 「国からの配給は必要最低限であり、国民が希望する食事が取れるというわけにはいかない」と、非常時の食糧調達を説明する政府のサイトには繰り返し但し書きがある。政府によると、必要最低限とは、一人当たり1日食糧2300Kcalと水2.5リットル。8%のたんぱく質、50%炭水化物、15%脂肪が摂れれば十分という。非常時に国民が飢えることはないが、贅沢はできそうにない。

家庭での食糧確保の意味

 家庭で食糧を非常時に備えて蓄えることは義務ではない。しかし、政府はパンフレットなどを印刷して、これを奨励している。
 
 「冷蔵庫や冷凍庫ではなく、普通の棚に置けるような保存食のほうが意味があります。缶詰や瓶詰めはお勧めです。紙で包装されている砂糖や小麦粉は、放射能に汚染されないよう、さらに上からプラスチックで包装しましょう。沢山保管しても無駄です。一人当たり60X45X35cmの容量で十分です」などと細かいアドバイスが載っている。

 連邦経済省国内補給局のシモン・シュレッピ情報担当官によると「あくまでも奨励だ。非常事態が起こってから国民に食糧が分配されるまでの間のつなぎくらいの意味。精神的な支えとなることも大きい」非常時には買いだめに走る消費者が必ず出る。スーパーマーケットの棚はすぐ空っぽになり、価格も上昇する。これが、国内不安を助長すると見るからだ。

兵士の食事はモラル向上につながる

 普段の兵役にある兵士の食事は比較的良い。今年4月にはスイス軍の食事レシピが発行された。バリエーションに富み、美味しく、栄養のバランスが取れ、1日3500Kcalが取れることなど基本的なことに加え、新しいレシピで特に工夫されているのは、若者の食事の好みに合わせて、国際的なメニューにしたこと。「イタリア語圏の兵士は、兵役中に一回はパスタを食べたいと思うはず」と先出のシャンツ氏。「個人的には、たとえば寿司でも構わないのです」1日1兵士当たり8.50フラン(約740円)の予算内であれば構わないという。

 たとえば米軍では、ハイテクなレトルト食品で、水を入れると中身が温まる食事も配膳になるという。しかし「スイス軍では野外戦の訓練でも、米軍のような食事ありえません」屋外でも料理ができるように、改造されたトラックがある。トラックの中では、4人の兵士が料理を作る。米軍風の食事は実践的だがコストも高く、保管場所も必要になるため、スイス軍では導入しないという。さらに「メンタリティーの違いかもしれないが、良い食事は兵士の士気に深く係わるので、大事にする」とシャンツ氏は語った。

 お土産にもらった長期保存用のビスケットのお味のほどは、平時でも十分美味しく食べられるものだった。

swissinfo、佐藤夕美(さとうゆうみ)

補足情報

<非常時の食糧配給量>
− 一人当たりの食糧 1日2300Kcalと水2.5リットル
− 8%のたんぱく質、50%炭水化物、15%脂肪
− スイス兵士一人当たりの食料配給量は1日3500Kcal
<調達方法>
− 保管倉庫 輸入 民間企業の保管義務 農地のフル活用による自給。
− 各家庭における食糧保管も奨励される。 

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