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世界のビオラ奏者今井信子、「その人独自のビオラを探究するエネルギーを」



「ビオラの音はものすごく表現力があり、心にぐっとくるもの」と今井信子氏

「ビオラの音はものすごく表現力があり、心にぐっとくるもの」と今井信子氏

「若い人達のエネルギーが一体となった演奏だった。若い人達は素晴らしい。プロではあり得ないものだ」と、世界のビオラ奏者今井信子氏(68)はジュネーブで10月8日、緊張度の高いシェーンベルクの「浄夜」の演奏後にこう語った。

 これは、自ら企画した第1回目の弦楽四重奏マスターコース最終日の演奏会だっただけに、観客の熱い拍手に心から満足し「来年も9月に第2回目を開催する」と力強く話した。

 「ビオラの音に出会ったときの感動というのは、ちょっと口では言えない。天命のようなものだった」と今井氏は言う。

 華やかなバイオリンの影に隠れがちな楽器ビオラ。しかし形が「太ったのやら、小さいのやらいろいろある」が故に、音色も多様で、使いこなすのにも時間がかかる。だからビオラ奏者はみんな、大器晩成型なのだと言う。

 ビオラ奏者だったポール・ヒンデミットが創設した「ヒンデミット財団」は、レマン湖を見下ろす丘の上にある。「ビオラ奏者にとって憧れのこの場所で、ビオラを含む弦楽四重奏のマスターコースをやりたいと長年思っていた」今井氏は、ようやく今年それを実現した。

 深紅のダリアが咲き乱れる傍の練習場を訪れると、腕を組み天井の1点を見つめ生徒の出す音に集中し「全身を耳にした」今井氏がいた。が、次の瞬間、音の強さに合わせながら右腕を振りつつ動き出し、ほぼ「ダンスしている」といったふうに動き回った後、はたと止まるや自分のビオラを抱えて「ここはこう」と弾いてみせる。

 ビオラの魅力と特殊性。その特殊性故にか生まれた「その人独自のビオラを探究していくエネルギーを教えたい」という今井氏独自の教育理念などを聞いた。

swissinfo.ch : ビオラは自分の内面や感情などが出しやすい楽器だと、ある生徒が言っていましたが。

今井 : それは彼女にとってそうだということで。つまり、ビオラが自分の内面を出しやすい楽器だと感じる人がバイオリンからビオラに移ったのだと思います。

けっこう体質的なものがあって、ビオラがぴったりとくるというケミストリー(化学的反応)がある。絶対に。

 

私自身、ビオラと出会ったときの感動というのは、ちょっと口では言えない。ビオラがあんな音を出すのなら、バイオリンを一生弾いていたくはないと思ったのです。天命というか(楽しそうな笑い)。

だからその瞬間ですべてが決まってしまって、それからずーっと弾いているわけです。

swissinfo.ch : ただビオラは一般的に、バイオリンの影に隠れがちな気がしますが・・・

今井 : ビオラの音自体はものすごく表現力があり、心にぐっとくるものなんです。けれど結局、ビオラのためにいろいろな曲が書かれていないとか、全部が編曲ものになってしまうとか、それから楽器自体が大きいから、大変です。

swissinfo.ch : そうした中で、今井さんはビオラのソロを世界的に確立された方です。ビオラ用の曲を作ったり、考えたりしていらっしゃいますか。

今井 : ビオラのソロを世界的に確立したというのは、ちょっと大げさですが(笑い)。フルートの曲や歌を聞いても、これはビオラにできないかとか、いつも考えています。

例えば歌をビオラで弾いてみるとうまくいかないときもある。でもやってみる。また、いろいろなコンビネーション、ビオラ2台または3台でできるかな、とかそんなこともいつも考えていて。

結局、自分で探しているものがあり、それを自分のものにしていって、一歩ずつ歩んできた感じ。それが、たまたまみんながやっていないことだったりしたのです。

珍しいなんて言われたりしますが、実は自分の好奇心を満たしているだけの話なんです。新しいことを取り入れたいという人間なのです。

swissinfo.ch : 今度は教育について伺いたいのですが、今回マスターコースを始められました。例えばビオラでは、今井さんのように好奇心を持ち独自な道を進む生徒を育てたいということでしょうか。

今井 : それは、そう思います。みんな独自の道を行ってほしい。

その道とは、バロックのビオラだったり、クロスオーバーのようなものだったりするかも知れない。とにかく自分の興味のあるものに行って欲しいということです。

そういう意味で、「フリーダムを与えたい」とも思っています。私自身、初めの頃間違ってしまったこともあるし、今でもありますが、そういうものを乗り越えていく情熱も、余裕があれば自然に育ってくるし・・・

swissinfo.ch : ビオラ奏者として、自分がこうだと思うビオラの道を行かせてやりたいと・・・

今井 : まさにその通りです。それは、また(カルテットなど)グループの一員ではあるけれど、自分の「個」というものを求めていくということですね。

本当にやりたいことをやってくれないと意味がないと思います。

またビオラは可能性があるもの。やっているうちに(やりたい自分の道が)どんどん出てくるもの。

メナヘム・プレスラーという素晴らしい世界的なピアニストがいますが、指導者でもある彼が、「山に登って回りも見えなく、一生懸命上って一つの頂上に来たら急に下が見下ろせる。今までどうやってきたのかという、もっと広い世界が見えてくる」と言いました。そしてまた次に一つ上がっていくわけですよ。

こうして、やっているうちに世界が広がっていく。そして音楽に対する憧憬があるからこそ、上っていけると思うんですね。

ですから、この曲をどう弾くかということより、山を登るエネルギー、突き詰めていく探究心を学んでほしいと思います。そして、最終的には夢だと思います。夢に向かっていくということを教えたいのです。

swissinfo.ch : しかし、先ほど練習を見ていますと、今井さんが「ここはこうして」と弾かれた音は、生徒のものとまるで違うように感じられましたが。

今井 : でも、ビオラというものはどの楽器も違う音を持っているものなんです。チェロやバイオリンはほとんどが同じ大きさですが、ビオラだけが(笑いながら)、太ったのやら、小さいのやらいろいろあるんです。

だから、形が違えば当然音は違ってきます。それにその人の体形もある。小さな人が大きなビオラを抱えたら奏法も違ってくるし。そうすると教え方まで違ってくる。だから楽しいのです。

swissinfo.ch : そんなに違うのであれば、自分に合うビオラに出会ったら絶対に手放さないでしょうね。

今井 : 自分に合うというか、楽器が私に合わせてくれる部分もある。楽器も生き物なのです。初めはだめだと思っているビオラもやっているうちにだんだんとこう、近寄ってきて音を出してくれる。

私の場合、1年ぐらい今のビオラは弾けませんでした。合わないというか。どうやって弾いていいか分からなかったのです。いい音なのに自分の音にならないという悩みがありました。

swissinfo.ch : 楽器が「私はこんなにも可能性を秘めているのに、あなたはそれを引き出してくれない」という感じでしょうか?

今井 : そう、そう、そんな感じ。馬みたいなものです(笑い)。馬も相手を見て、言うこと聞かないですから。

swissinfo.ch : 教えるのも大変ですね。楽器もさまざま、生徒が目指すものもさまざまで、またその違う個性を大切にしたいとなると・・・

今井 : こうしろということは無理なので、こういうこともできるという教え方の場合もあるし。でもある程度の線を引いて、こういうふうに弾かないとダメだと言う場合もあるし。さまざまですね。

生徒さんによっても、そういうことを一人で吸収できる人と全部言われた方がいい人といろいろです。

swissinfo.ch : ダンスのコンクールなどですと、パッと踊りを見ただけで才能があるかないか分かるといいますが、ビオラはどうですか?

今井 : わたしは、この楽器の場合は全員大器晩成だと思います。みんな遅くにビオラに変わったりするし。バイオリンだと16歳でバーッと弾いていないともうダメといったことはありますが、私たちは20歳過ぎてからどんどん伸びていく。

だから一口にこの子はダメとか言うのは、私には合ってなくて。先生によっては、この生徒が好きとかすぐに出る人もいますが、私の場合は全然ちがって、もっとなんか可能性があるんじゃないかとか考えます。

なんかその生徒を信じるというか、そういうのが、私には生まれつきあるんです。

それに、実際教えていて本当にダメな生徒というのはいないと思うんです。それにそう思ったら教えられない。だらか、その人の器の中で一番できるものを出してほしいわけ。

自分の道を行く好奇心とエネルギーを持ってほしい。でも持ちなさいと言っても持てるものではない。だから、いろいろな質問をして、本人がその気になってきたときに動き出すのではないでしょうか。

本番で、あがるなと言ってもあがるし、固くなるなと言えば言うほど固くなるし・・・だから、もっと内面的なものをほぐしていかないとダメだとも思います。

結局決まったパターンはないんですね。生徒の顔見て会話して、その場その場で出てくる。あとは信じるしかない。

swissinfo.ch : こうした哲学はビオラをやっていらしたから出てきたものでしょうか。

今井 : そうかもしれません。私が、ビオラを信じ、ビオラが私を信じてくれたのかもしれません。

今井信子氏略歴

1943年東京に生まれる。桐朋学園大学卒業。   

1967年、イエール大学、ジュリアード音楽院などを経て、ミュンヘン国際コンクール最高位入賞。

1968年、ジュネーブ国際コンクールで最高位入賞

1970年、西ドイツ音楽功労賞を受賞。

1987年、東京でビオラを教える「ビオラ・スペース」を開催。

1995~96年、東京、ロンドン、ニューヨークの3都市で開催された「インターナショナル・ヒンデミット・ビオラ・フェスティバル」で音楽監督を務め世界の注目を集める。

2002年、「ミケランジェロ弦楽四重奏団」を結成。

著書に『憧れ、ヴィオラとともに』(春秋社)がある。1993年エイボン女性芸術賞及び、文化庁芸術選奨文部科学大臣賞、1996年には毎日芸術賞、サントリー音楽賞を受賞。2003年には紫綬褒章を受章。現在はスイスのジュネーブに在住。ジュネーブ音楽院の教授を務めている。

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ラック・レマン・ミュージック・マスタークラシズ(Lac Léman Music Materclasses)

今井信子氏が提案した企画。今井氏が所属する「ミケランジェロ弦楽四重奏団(Quatuor Michelangero)」のメンバーが生徒指導にあたる、バイオリン、ビオラ、チェロの1週間のマスターコース。

2011年10月1~8日、ヴォー州ブロネ(Blonay)にある「ヒンデミット音楽センター(Centre de Musique Hindemith Blonay)」で講習が行われた。

生徒は、日本、韓国を始め、スイス、ドイツ、イタリア、フランス、アイルランド、スペインなどから、32人が集まった。

2012年9月に第2回を予定している。

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