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16歳に政治参加は早すぎる?

国会議事堂の若者たち
スイス連邦議会では毎年、全国から若者200人を招待して政治討論を行う「若者会期」を開いている Keystone / Marcel Bieri

16歳に選挙権や国民投票への投票権を与えるべきか?スイスでは、選挙・投票権年齢の引き下げ案が繰り返し住民投票にかけられるが、ほとんどは大差で否決される。スイス有権者が心配するように、16歳は政治的に未熟なのか?

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スイス有権者は4年に1度の総選挙のほかに、1年に4回前後の国民・住民投票で票を投じる。こうした投票権を何歳から得るべきかは、繰り返し論点に挙がってきた。

1979年の国民投票では、スイス有権者の過半数が投票権年齢を18歳に引き下げる案に反対票を投じた。今では18歳からの投票権は当たり前だが、当時の議論には現代人にとって古臭く聞こえるような内容も含まれていた。ある上院議員はこう論じた。「今の若者は、昔よりも確実に奔放で早熟であり、例えば性的な面においてこのことは顕著だ。とはいえ、それだけで彼らが政治的・人格的に成熟しているとは言えない」。こうして投票権年齢は20歳に据え置かれた。

だが時代の流れは別の方向に向かっていた。英国では1969年、選挙権年齢が21歳から18歳に引き下げられた。1971年には米国が続いた。オーストラリア、スウェーデン、フランスなどの国々も1970年代に追随した。そしてスイスでは、1980年代になって複数の州が投票権年齢の引き下げに踏み切り、1991年に再び国民投票にかけられた。今度は70%超の賛成で可決された。

成熟度は十分

30年後の今もなお、「適切な」投票権年齢をめぐる議論は世界各地で続いている。だが少なくともスイスでは結論が出たようだ。16歳と17歳にも投票権を与えるという案は繰り返し提起されるが、ほぼ毎回却下されてきた。連邦議会では昨年この案が否決され、これまでに全26州中8州が州民投票を実施したが、いずれも否決されている(直近はルツェルン州)。唯一の例外は、2007年に引き下げたグラールス州だ。

なぜ支持を得られないのか。アーラウ民主主義研究センター(ZDA)が今年5月に発表した調査外部リンクによると、若者自身の政治的成熟度の低さが原因ではないことが明らかになった。スイスの16歳と17歳の市民としての自己認識は、18~25歳とほとんど変わらないという。つまり同じくらい政治参加への関心が高く、同じくらい政治的議論に触れている。また、政治に関する情報の取得量は、むしろ16~17歳の方が多い。

共同執筆者のロビン・グート氏は、調査結果に驚いたという。「16歳と17歳の市民はまだ投票資格がないため、政治への関心が低いと想定していた。だが実際は、年齢層による差は全くと言っていいほどなかった」

16歳の投票率は?

ただZDAの調査は、16歳が自分では「投票する準備ができている」と感じ、投票への関心も高いことは明らかにするものの、実際に投票に行くかどうかは明確ではない。2014年の調査では、スイスの16歳と17歳の大多数が、投票権年齢を18歳で維持することに賛成していた。年に1度開く「青空議会(ランツゲマインデ)」で住民投票を行うグラールス州では、2007年以降の導入以降、若者の政治参加については、好意的な声が寄せられている。だがZDAは、同州でも若者の投票率は年長者より低く、ローカルな議題では特に下がると試算する。

世界を見渡すと、アルゼンチンやオーストリア、ブラジル、エクアドル、マルタが国レベルで投票権年齢を16歳に引き下げた。欧州でも地方・自治体レベルで引き下げた国は多い。引き下げの影響について、研究結果は概ね肯定的だ。スコットランドで2014年に実施された独立をめぐる住民投票では、新たに投票権を得た16~17歳の若者が大量に投票した。それ以後もこの世代は政治への関心を保ち続けており、2021年の住民投票でも高い投票率を示した外部リンク。また欧州評議会の報告書外部リンクによると、オーストリアでは16~17歳の投票率が初めて投票する他の年齢層よりも高かった。

選挙への不信感

だが投票権年齢の引き下げは、若者の政治的無関心を解決する特効薬にはならない。141カ国の社会経済、市民社会、政治指標を分析した世界若者参加指数外部リンク(GYPI)も、投票権引き下げを特段重視しているわけではない。実際、指数上位10カ国に16歳から投票権を認めている国は皆無だ。

指数をまとめた研究者の1人、米メリマック大学のカースティ・ドブス氏は、GYPIのうち「選挙」は世界的にみて最も弱い分野の一つだったと話す。若者(10代半ば~20代後半)は「選挙にそれほど関心がない」という。

その理由としてドブス氏は、若者には進路探しなど他の優先事項があることや、投票手続きへの信頼が欠けていることなどを挙げている。同氏が中東の民主化運動「アラブの春」後にチュニジアで行った研究では、若者は政治的にやる気があるものの「選挙は汚職にまみれている」と見なしていることが明らかになった。GYPIで14位を誇るオーストリアのような民主主義国でさえ、16歳投票権のもたらす利点は「政党への信頼の低下」に相殺されている。

このためドブス氏は、投票権年齢の引き下げについて、少なくともそれ自体が大きな変化をもたらすことはないと考えている。「素晴らしい政策の始まりだが、その影響は他の要素に左右される」。家庭文化や教育、社会関係資本(地域社会との結びつきの強さ)は極めて重要だ。また政治や政党は、デジタル面で若者に訴求できていないとも指摘する。

引き下げをめぐる議論は、メンタルヘルスなど若者の抱える問題と距離がありすぎることも難点だ。「朝ベッドから起き上がることすらできないのに、どうやって投票を促せるというのか」(ドブス氏)

長老支配を避けるには?

ZDAのグート氏も、投票権年齢引き下げは劇的に状況を変えるものではないとみる。スイスについても同じだ。グート氏の試算によると、引き下げた場合に16~17歳は全有権者の2.4%を占める。割合として小さくはないが、年金改革のように高齢者層に関心の高い議案について投票結果を左右する可能性は低い。

強いて言えば、投票結果が僅差になった時に若者の声が影響を与える可能性はあるかもしれない。2020年に50.1%の賛成票で可決され、現在も議論を呼んでいる新型戦闘機の購入案がその一例だ。

とはいえ、グート氏は科学的観点から「投票権年齢引き下げに反対する根拠は何もない」と総括する。懸念されている障壁は実証的な根拠によるものではなく、むしろ政治的な理由によるものだと指摘する。安全保障政策や気候変動政策、年金改革、医療保険制度などと比べ、投票権年齢は優先順位が低い。若者には強力なロビー団体も資金もない。また、政党間の合意もなく、引き下げは主に左派政党の持論にすぎない。

高齢化に伴い、民主主義における公正性の観点から、選挙権・投票権年齢の問題はますます重要視されつつあるとグート氏は強調する。一方では、年齢を引き下げれば若者の意見が真剣に受け止められているという「シグナル」になる。他方で、高齢者が若者に対して決定権を握っているという問題は、さらに深刻になっている。「投票する年齢の中央値が60歳に近づいているなか、中長期的にはこの問題に取り組まなければならない」

年齢を引き下げても有権者の高齢化は反転できない。わずかに減速させる程度だ。長老支配への処方箋としてグート氏が提案するのは、例えば「家族単位の投票権」や、議案の可決に「40歳未満の過半数の賛成」を要件とすることだ。だが、グート氏自身も認めているように、こうしたアイデアが実現する見込みは、投票権年齢の引き下げよりもさらに低い。

編集:Benjamin von Wyl/sb、独語からの翻訳:ムートゥ朋子、校正:宇田薫

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