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南極の積氷下の地層を覗くレーダー

グリーンランド航空の通称「ツイン・オッター(Twin Otter)」機にアンテナを搭載して、グリーンランドの氷河を計測する(ESA提供) ESA

スイス連邦工科大学ローザンヌ校が開発したレーダーが、グリーンランドと南極で氷に覆われた岩盤層を探査している。月や火星、あるいは土星の氷も、間もなく計測する予定。地質学者や気候学者にとっては、新たな研究を進めるチャンスだ。

このコンテンツは 2011/07/27 15:00
マルク・アンドレ・ミゼレ, swissinfo.ch

事の始まりは欧州宇宙機関(ESA)からの依頼だった。その依頼の内容とは、氷の中を突き抜けてその性質を解明できるレーダーシステムの開発だった。

天文学者は、惑星に存在する氷に大きな関心を寄せている。地球から遠く離れたところにあるタイタンは、土星の衛星の中で一番大きな惑星で、氷でできている。

タイタンは火星と同じくらいの大きさで、積氷の下に、山、砂丘、そしておそらく大きな海洋があり、さまざまな点で太古の地球と酷似している。地表温度はマイナス180度にも達し、大気中には酸素もなく、火山からは氷が噴出するようなところだが、生命の存在を示す元素の発見に期待を寄せる科学者もいる。

アメリカから打ち上げられた土星探査機「カッシーニ・ホイヘンス・ミッション(Cassini-Huygens-Mission)」は大きな成果を収めた。タイタン着陸に成功したのだ。続いて、種々の方法を用いてこの星を研究し、人類の起源の解明を期待したいところだが、まずは表層の氷を打ち砕くことができなければ話にならない。

入札

ホアン・モジーク氏は、昔から宇宙空間に夢中だった。連邦工科大学ローザンヌ校(ETHL/EPFL)宇宙センターの所長で、同大学の電磁気学・音響学実験室の室長も務めるモジーク氏にとって、欧州宇宙機関との共同作業はこれが初めてではない。

「欧州宇宙機関と共同で、人工衛星のアンテナを既にいくつか開発した。今回は欧州宇宙機関がレーダー用アンテナの開発を公募したのだが、そのアンテナは氷を貫通してその深度を計測し、氷が凍った水なのかメタンなのか、それともほかの物質なのかを地球に送信できるもの、という内容だった。我々は、そうした場合に通常行うように、共同出資者を探し、コンソーシアム(臨時企業連合)を設立し、そして我々の案を提示した」

コンソーシアムは、わずか2団体で構成した。一つはアンテナの設計を担当する連邦工科大学ローザンヌ校の実験室、もう一つはシグナルを解析するデンマーク工科大学だ。これは、アンテナから送られてきたデータを科学者に使いやすい形式に変換する作業で、変換後は、モジーク氏に言わせると「スクリーン上に数字や記号が並んだカラフルなかわいいもの」になる。

氷河飛行操縦士

レーダーの性能テストを行う場所として、モジーク氏とそのチームがまず思いついたのはスイス南部のアレッチ氷河だった。しかしスイスでは、そうした実験の飛行許可を得る手続きは非常に複雑で、許可はまず下りない。

そこで、デンマーク側の提案によりグリーンランドでのテストが決まった。「これも簡単にはいかなかった」とモジーク氏は言う。「アンテナは飛行機の胴体部に接合してあるが、これがもう一つの機首のような働きをして機体に浮力を与え、操縦が難しくなってしまった。飛行初心者には到底無理だ、というのが我々の一致した意見だった」

「気温がマイナス50度以下にもなり得ることは言うまでもなく、滑走路がでこぼこした氷でできているために、離着陸時には機体もアンテナも激しく揺さぶられた。つまり、宇宙空間へ出発する際の条件と似ているということだ」

グリーンランドで2010年から2011年にかけて冬にテストを行った後、スイスとデンマークのレーダーミッションは、南極へと駒を進めた。スイス側は、ここでデンマーク側に指揮権を譲った。

「グリーンランドへは、冒険好きな博士課程の学生を1人送り込んだ」とモジーク氏。「グリーンランドでは、まだかなり文明の利器を利用できたが、南極でのテストとなるともはやデンマークの専門域。デンマークは北極に近く関わりが深い。極地の環境は、いわば肌で分かっている。我々スイス人にとっては馴染みの薄い土地だ」

飛行機は、上空3000メートルを帯状に飛行し、ところどころ氷に覆われた地面の地図情報を正確に捉えただけでなく、氷の厚さと性質も計測した。

凍結恐竜も?

このような計測が行われたのは今回が初めて。南極の白い広大な土地の地勢についてはこれまでほとんど知られていなかった。というのも、人工衛星が撮影する写真は精密さに欠ける上、モジーク氏が言うように「自分の菜園ならともかく、南極で100メートル毎に穴を掘るわけにはいかない」からだ。

グリーンランドは長い間、デンマークの領土だった。デンマークはここへきてこの計画に着手し、この島の北部(北極圏)の地図を作製することにした。「積氷の下を覗く」レーダーの発明チームはまた、7月にスコットランドのエジンバラで行われた「第6の大陸(南極)」に関する国際シンポジウムで、南極での測定結果を発表した。

「気候学者や地質学者、科学者で、我々の発表内容に関心を持つ人はいる」とモジーク氏は考えている。「中には、地図製作に役立つ今回の発明を幅広く応用するために、資金を調達してくれる科学研究所や国際機関もあるかもしれない」

南極大陸の地勢の詳細は、今日まで明らかになっていないが、ボーリング(穴開け)により氷層の下から大きな湖がいくつも発見された。これらの湖は、地殻熱で水が氷にならず溶けたままの状態をとどめているもので、ひょっとすると我々の惑星で最もきれいな水かもしれない。この先新しいレーダーを利用して、さまざまな氷層の解明を手がかりに気候変動の歴史を描き出し、温暖化による極冠(極地の氷原)の溶解がどのくらい速いのかを測定できるようになるかもしれない。

「多くのサイエンス・フィクションのファンは、海に沈んだといわれるアトランティス大陸や凍結した恐竜の群れが姿を現すことを夢見ている」とモジーク氏は言う。そして、そうした本を読んで少年時代を過ごしたことを隠さず話す。「ほかの多くの科学者と同じようにね」

レーダーのしくみ

レーザー光線に似ている 

 

ホアン・モジーク氏の実験室が開発したレーダーは、非常に細い電磁波を放出する。レーザー光線ほど細く集約した電磁波は出せないが、高度3000mから最大で直径10mの対象物を認識できる。 

極超短波

 

レーダーからは、従来のテレビの電磁波に似た450MHzという周波数の電磁波が放出される。この電磁波は、氷の中を突き抜けて計測するのに最適。氷の性質の違いによって電磁波の一部が跳ね返り、それがわずかな振幅の反射波となってアンテナがその反射波を受信する。これがレーダーの原理。 

電磁波が岩石の地層にあたると、反射波は非常に強くなる。さらに、どの物質も性質の違いにより、反射する電磁波の状相を変化させる。このような言ってみれば天然の識別表示と反射波が戻ってくる時間をもとに、物質の種類と氷層の厚さを測定することができる。

  

八つのアンテナ 

受信面積を拡大するために、八つのアンテナを尾翼先端の下に垂直に設置。飛行により、受信面積はさらに縦長に拡大される。複数の小さなアンテナを使用することで、一つの大きなアンテナと同じ性能を生み出す。天文学者もこれと同じ原理を用いて複数の天体望遠鏡をつなぎ合わせ、一枚の巨大な鏡が映す画像と同じ鮮明度を得ている。

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