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スイスの政党資金 不透明さに批判の声

選挙日が近くなると、スイスでは候補者たちの看板がいたるところに掲げられる。チューリヒ州など人口の多い選挙区では、候補者が選挙活動に費やす資金はほかの選挙区に比べて多いとされる(写真は前回2011年の選挙戦の様子) Keystone

今秋に予定されているスイスの連邦議会選挙では、各政党が選挙戦に費やす資金が過去最高になる見込みだ。スイスでは、政党は資金や献金者の名前を公開する義務はなく、国外からは「政治資金の流れが不透明だ」と批判されている。しかし政府や主要政党の多くは特に対策を打つつもりはないようだ。

 スイスインフォが主要7政党にアンケートをとった結果、各政党が今年10月18日に行われる総選挙に向けて用意している予算は、公式には前回4年前の総選挙とほとんど変わらない(囲み記事参照)。予算を明らかにしなかった政党は、最大与党の右派国民党だけだった。しかし、実際に各政党が用意する選挙資金は、アンケートで答えた額をはるかに超えるとされる。

各政党の選挙戦向け予算

国民党 回答なし

社会民主党 140万フラン。2011年と同額。

急進民主党 300万フラン。2011年とほぼ同額。

キリスト教民主党 200万フラン。家族手当の課税免除のためのキャンペーン資金を含む。2011年とほぼ同額。

緑の党 20万フラン。2011年と同額。

市民民主党 50万フラン。2011年より増額。

緑自由の党 30万フラン。2011年の額は20万フラン。

 「全国レベルで政党を支援するよりも、各州の候補者や個々のキャンペーンに支援金が集まる傾向がある。その方が政治に影響を与えられると支援者は考えている」と、スイス第3位の銀行グループ、ライフアイゼンのヒルマール・ゲルネット広報・政治問題課課長は話す。

 政党資金に関する著書を持つゲルネットさんの予想では、今年の選挙戦に使われる政治資金はスイス史上最高額になる。政党や候補者たちは全体で1億5千万フラン(約200億円)から1億7千万フランを費やさなければ、当選が期待できないという。これは前回の選挙より5千万フランから7千万フラン増える計算になる。1999年以降、選挙戦ごとに費用は2倍に増えている。

意見形成をしやすく

 政党資金に関し法規制を行っている3州(ティチーノ州、ジュネーブ州、ヌーシャテル州)を除き、ほかの23州では国にも市民にも、政治資金や献金者について情報開示を請求できる権利はない。

 「欧州評議会加盟国の中で、スイスとスウェーデンだけが政治・選挙資金に関する全国的な法律を定めていない」と、汚職撲滅を掲げる国際NGOトランスペアレンシー・インターナショナル・スイス支部のエリック・マルティン会長は指摘する。

 スイスが世界に向けて民主主義の模範としてアピールしたいのならば、政治資金の透明化に力を入れるべきだとマルティンさん。そうすればスイスの民主制度への信用が高まり、市民が自由に意見を形成する際の手助けになるという。

欧州から批判

 スイスはまた、欧州安保協力機構(OSCE)や欧州評議会の反汚職国家グループ(GRECO)から、政治資金の透明化に関して何も行っていないと度々非難されている。「欧州評議会はスイスに制裁を加えることはできない。せいぜい(スイスが評議会の方針に)沿っていないと宣言できるぐらいだ。だが脱退させることはないだろう」(マルティンさん)

 スイス連邦政府は昨年11月、GRECOが提案した政治献金の法制化を拒否。GRECOは今夏にもスイスの政治献金に関する報告書を発表するとされているが、政府が動く気配はほとんどない。連邦司法省は「連邦レベルでは現在、新しい提案は予定されていない」と述べている。

 左派はこの50年間、少しでも政治献金の流れが透明化されるよう連邦議会に働きかけているが、いまだ成果は出ていない。「大金持ちが政党を『買って』政治に影響力を与えるような『米国風』の民主主義になりたくないなら、スイスは政党資金(の透明化)を保障するような制度を導入する必要がある」と社会民主党は主張している。

 企業家で保守派の上院議員トマス・ミンダー氏は2013年に議案を発議した。議案では上場企業に対し政党や団体への献金を年次報告書に記載するよう求めたが、あえなく廃案となった。

当選にかかる費用

選挙戦にどのくらいの費用がかかるのだろうか?日刊紙ル・タンの調べによると、前回2011年の総選挙では、フランス語圏の州(ヴォー、ジュネーブ、ヴァレー)の候補者は、5万~6万フラン(約663万~796万円)を費やさなければ国民議会(下院)の議席を得られなかったとされる。人口の少ない州では選挙費用(約1万フラン)は下がるが、人口の多いチューリヒ州では20万フランが必要とされる。下院選挙の選挙区は州単位のため、州によってこのように選挙資金が異なる。

選挙戦での資金の使い道で多いのが、メディア媒体の広告や看板、各家庭に配る広告、選挙関連の催しの企画など。11年の総選挙に名乗りを上げた3458人の候補者は、選挙費用に多額の自己資金を費やし、個人献金にも頼った。各州によって選出方法が異なる全州議会(上院)選挙では、選挙費用が下院選挙よりもかかることがある。

兼業政治家がネックか

 政治家や企業家が透明性を確保することが絶対視されている今日、古臭くみえるスイスの現行制度に正当性があるのだろうか?右派や中道派の政党や閣僚の大半は、ヨーロッパが突きつけるような要求はスイスの直接民主制とは相いれないと主張している。「兼業政治家が多いスイスでは、経済人が政治に関与することで民主主義が成立する」というのがその理由だ。

 例えば保守派の急進民主党広報はこう話す。「政治家は、基本的に報酬なしで地域のために働いている」。そのため、政治資金に規制をかければ過剰な官僚主義を生み、政党は弱り、政治家の基本的な権利が制限されるという。「個人が政治キャンペーンに関与すれば、(政治資金は)その個人の責任だ」

 中道右派のキリスト教民主党広報はこう言う。「政治献金に関する情報が公開されれば、一部の人は場合によっては寄付金を受け取るのをあきらめるだろう。献金を透明にしたいかどうかは、献金者が決めることだ」

 国民党は、政治資金が法制化されれば「国が政党に助成金を払うことになるだろう。だがそれはスイスの政治制度と完全に矛盾する」と主張する。

透明な銀行

 保守派や中道派の政党が独自の主張に固執する一方、ここ数年、政治献金の透明化に向けて動いている企業がある。スイスの三大銀行UBS、クレディ・スイス、ライフアイゼンのほかに、食品大手ネスレ、保険会社アクサ・ヴィンタートゥール、航空会社スイス・インターナショナル・エアラインズなどは政治献金に関する情報を公開している。

公的な政党助成金はなし

スイスでは、国から政党への助成金はない。投票用紙の印刷や配布は国の管轄。連邦内閣事務局は各政党を短く紹介した選挙の手引きを作成する。ちなみにスイスの選挙戦では、日本のように拡声器を使った街頭演説や街宣車による候補者のアピールはない。

 「各政党の立場とは関係なく、我々は企業人が政治家を兼業するスイスの政治制度を支持する」と、クレディ・スイスの広報は話す。国内第2位の同行は1年に最大100万フランを献金し、寄付金は議席の多さに応じて連邦・州レベルの各政党に分配している。ただし連邦議会で最低5議席を確保している政党に限っている。

 クレディ・スイスは以前、経済界寄りとされる政党だけを支援していたが、この姿勢に対する批判の声が次第に大きくなったため、3年前から大きく方針転換した。

不透明な製薬産業

 献金を受けるかどうかは各政党の判断による。左派の緑の党は「倫理的な理由から、UBSとクレディ・スイスからの献金は拒否することにしている」。社民党は銀行や保険会社からの献金はほとんど受け付けておらず、拒否した額は年間40万フラン以上になるという。

 企業の中には、政治献金を透明化するつもりのないところもある。経済紙ハンデルスツァイトゥングが今年初めに行った調査では、製薬産業からの抵抗が特に強かった。

 「政治文化の転換は避けられない」とゲルネットさん。「まずは株主に経費について説明しなければならない大企業、その後は政党も含めて方向転換していく必要がある。なぜなら結局のところ、(政治資金の透明化は)スイスの民主主義の信用性に関わることだからだ」

国民党の不透明な政党資金

右派で最大与党の国民党が過去20年間で勢力を強めていることを受け、金と政治に関する議論が盛んになっている。「政党資金に関するテーマはどのテーマよりも熱く議論される。国民党を除き、各政党は基本的に限られた資金しか持っていない。国民党は連邦議会議員の任期ごとにいくつもの国民発議を行い、どのキャンペーンでも完璧に守りを固めている」と、国民議会国政委員会会長で社会民主党所属のチェスラ・アマレレ氏はさまざまな地元紙で語っている。

国民党はこれまで数々の国民発議(ミナレット新設禁止案、外国人犯罪者の強制退去案、移民規正案など)で巨額の政治キャンペーンを行ってきたが、その費用を次のように正当化している。「我が党はメディアで不当な扱いを受けてきた。そのため、(国民党の)主張がみえなくなっている。これを補うために、お金を払って情報公開しているのだ」(シルヴィア・ベア国民党副幹事長)

(独語からの翻訳・編集 鹿島田芙美)

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