
吊り目広告で炎上スウォッチ「若手が理解していなかった」 認識の薄さが示す問題の根深さ

スイスの時計メーカー、スウォッチが自社広告に吊り目ポーズを使い炎上した騒ぎは沈静化しつつある。だが騒動が浮き彫りにした西洋的審美基準の問題の根深さは、何ら解決されていない。

おすすめの記事
「スイスのメディアが報じた日本のニュース」ニュースレター登録
アジア人モデルが指で目尻を細長く引っ張っている――スイスを代表する時計ブランドのスウォッチは8月、中国でこんな広告を展開した。世界中で報じられたように、それは良いアイデアとは言えなかった。
スウォッチは人種差別的な偏見を助長している、と強い批判が巻き起こった。
同社はすぐに全ての画像を撤回し、「混乱や誤解を招いた可能性がある」と謝罪した。
中国などアジア諸国での炎上騒ぎは収束しつつある。だがスイス国内では、スウォッチの売上げをめぐる憶測が飛び交い、救済策まで提案された。
あるマーケティング専門家は、スウォッチのニック・ハイエック最高経営責任者(CEO)が広告の失敗について自ら謝罪すべきだと述べた。

こうした反応は、国民がスウォッチ経営陣に向ける懐疑的な視線を浮き彫りにする。同グループの株価は10年前の最高値から大幅に下落している。
差別の悪循環
炎上から数日経った今も、SNS上の非難は収まらない。スウォッチ・グループは懸念が払拭されたとみなし、中国支社も事態は沈静化したと述べている。本当にことは片付いたのか?
残る疑問は二つ。スウォッチは謝罪に当たり、最も大きく単純な疑問に答えなかった。問題の広告がどうして内部統制をすり抜けてしまったのか、という点だ。
スウォッチはスイスインフォの取材に、この広告は真の広告キャンペーンではなく、むしろ個別の画像を使った社内プロジェクトだったと回答した。
他人事のようなメッセージはこう続いた。「どうやら、風変わりなジェスチャーを捉えることがモットーだったようだ。確かに、被写体はあまり成功しなかった。若く意欲的なチームが仕草の重要性を理解していなかったらしく、それは明らかに失策だった」

中国企業・写真家さえも炎上
二つ目の疑問はもう少し複雑で、「中国における反応をどのように評価すべきか」という点だ。この点については深堀りが必要だ。
まず注目されるのは、「吊り目」で炎上した欧州企業はスウォッチ・グループが初めてではないことだ。それどころか先例は枚挙にいとまがない。
2021年だけで3件の炎上案件が発生した。ドイツの高級車ブランド、メルセデス・ベンツはメイクで目の細さを強調したアジア人モデルが登場する広告動画を撤回した。
フランスの高級ブランド、ディオールは、上海の美術展で使っていた写真を同じ理由で削除した。写真を撮影した中国人ファッション写真家の陳漫氏は、「自分の未熟さと無知に責任を感じている」と謝罪した。
3件目は中国ブランドだった。菓子メーカーの「三只松鼠」は同年、生来目の細いモデルをキャンペーンに起用したことで謝罪を余儀なくされた。
モデルになった菜嬢嬢さんはSNSで「目が小さい。それだけのことで、私は中国人としての資格がないのか?」と嘆いた。このメッセージはさらなる議論の波を巻き起こした。
中国政法大学通信法研究所の朱巍副所長は中国紙「環球時報」のインタビューで、三只松鼠事案の問題はモデルではなく東洋的な物語スタイル、つまり中国人を演じる際に西洋的な視点を採用したことにあったと述べた。
西洋的な視点から逃れるのは容易ではない。特に広告やファッション業界においては、西洋モードは本質的な法則の一つだからだ。一部のブランドは「白人の眼」を持つモデルのみを起用するようになった。
それがさらにヨーロッパの審美基準を助長するとの批判を招く。中国の広告は双方向の差別という悪循環に陥っている。
過小評価された感度
スウォッチ・グループの例は、ステレオタイプに対するアジア諸国の感度がヨーロッパで過小評価されていることを浮き彫りにした。
そこには、ヨーロッパの伝統的な優越思想が人種理論の上に築かれていることに関係があるかもしれない。今ではこうした人種理論は国際条約に違反する。
欧州とアジアの緊張関係は過去のものではない。新型コロナウイルス危機以降、特に中国人に対する反感は高まり、拒絶反応にまで波及している。
スウォッチ・グループの営業は平常運行に戻った。問題は山積みだ。低価格ブランドであるスウォッチが苦戦しているのは最大市場の中国だけではない。
スウォッチ傘下の主力ブランドであるオメガやロンジン、ブレゲも低迷している。一方、ロレックスやパテック フィリップといった高級時計ブランドは非上場ながら好調だ。IWCを傘下に持つ高級ブランドグループ、リシュモンと比較すると、スウォッチ・グループの低迷はより顕著だ。
スウォッチ・グループ広報部は、中国の状況は遺憾ではあるものの「危機」ではない、と断言した。「危機はむしろ、ドナルド・トランプ米大統領がスイスに課した39%の関税だ」
編集:Balz Rigendinger、独語からの翻訳:ムートゥ朋子、校正:宇田薫

おすすめの記事
【友だち募集中】スイスインフォ日本語版 LINE公式アカウント
外部リンク
JTI基準に準拠
swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。
他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。