その本は表紙がまず目を引く。鮮やかなピンクのクロスをあしらった表紙は色彩あふれる内容を期待させ、その期待が裏切られることはない。題名「Blossom(仮訳:花盛り)」も同じく、はじけんばかりの色が小さな花束になったかのようなこの写真集を象徴する。
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1965年スイス生まれ。チューリヒで写真を学んだ後、1989年からフォトジャーナリストとして活動。1990年、スイス人カメラマンの代理店Lookat Photosを設立。世界報道写真財団(オランダ)の世界報道写真コンテストを2度受賞したほか、スイスの奨学金を多数獲得。その作品は多くの展覧会やコレクションで紹介されている。
Anna Halm Schudel(写真)&Thomas Kern(本文)
表紙は必ずしもピンクである必要はなかったのかもしれない。めくってみると、どのページにもパレットに並ぶ全ての色と色調が揃っているからだ。四季の移ろいを映す花々、水面の向こうにたゆたう花束。アナ・ハルム・シューデルのカメラは青虫のように花冠の中に忍び込み、本を手に取った者は花粉に触れられそうなほど花の深部に近づくことができる。
写真は季節の移り変わりのみならず、花の一生をも描き出す。みずみずしく花開いてからしぼむまで、枯れて水気を失う過程を花束や花弁が物語る。
写真集「Blossom外部リンク」に登場する花の一生には何らの奇跡もない。ハルム・シュテーデルは25年前から古典的な題材に取り組んできた。その成果をメギ・ツムシュタインとクラウディオ・バラドゥンのアトリエHi外部リンクが素晴らしい写真集に仕立て上げた。一連の写真は、生を肯定するような明るく色鮮やかな花の中に、色あせ乾ききった花が紛れ込み、誘惑と無常の間を行き来する。メメント・モリ――死を忘れることなかれ、とくぎを刺すかのように。
こうした主題や、花の穏やかな一生の物語に関する余論は、フランツィスカ・クンツェ外部リンクとナディーン・オロネツキー外部リンクが写真集に寄せた随筆でも取り上げられている。
チューリヒ在住の芸術家アナ・ハルム・シューデル(1945年生)はフリーカメラマンとして活動している。スイス西部・ヴヴェイとバーミンガムの芸術デザイン大学で写真を学んだ。その後5年間、チューリヒの写真家ルネ・グローブリのアシスタントとして働いた。
写真集はこの春、チューリヒの出版社シャイデッガー&シュピースから出版された。
(独語からの翻訳・ムートゥ朋子)
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