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新型コロナ感染 なぜ3月に急増したか

Staff attend to a Covid patient at Lausanne University Hospital (CHUV) on January 11, 2022.
ローザンヌ大学病院(CHUV)で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の患者に対応する病院スタッフ。2022年1月11日 © Keystone / Gaetan Bally

フランス、ドイツ、イタリア、英国、スイスなど欧州の多くの国でいったん落ち着いた新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の新規感染者数は再び増加傾向を示した。アジアも同様だ。この大幅な急増の背景には何があるのか、私たちはどの程度心配するべきなのか。ジュネーブ大学の感染症専門家、アントワーヌ・フラオー教授に話を聞いた。

世界のCOVID-19新規感染者数は1月以降、着実に減少し続けていたが、3月に入ると再び増加傾向に転じた。スイスでは2月17日にほぼ全てのCOVID-19パンデミック(世界的大流行)規制が解除され、4月1日からは全て撤廃された。一方、1月下旬のピークから着実に減少を続けていた新規感染者数は、2月下旬から再び上昇し始めた。

swissinfo.ch:3月初めに世界保健機関(WHO)はCOVID-19パンデミックの終息は程遠いと警告し、観測されている新規感染者は「氷山の一角」に過ぎないと付け加えました。最近の急増について、どうお考えですか?

Antoine Flahault, director of the Geneva Health Institute.
ジュネーブ大学グローバルヘルス研究所長アントワーヌ・フラオー教授 Antoine Flahault

アントワーヌ・フラオー:COVID-19の波が来る度に、政治家やジャーナリスト、一般市民、それに多くの専門家までも、これが最後の波だと信じたがります。今来ているオミクロン変異株の波についても同じで、「これで終わった」と言っていますが、そうではありません。

仏パリ・デカルト大学で医学博士の学位取得後、1991年仏パリ・ディドロ大学で生物数学博士号取得。

現ジュネーブ大学グローバルヘルス研究所所長。ベルギー・ブリュッセルにある公衆衛生教育認定機構(APHEA)の代表と欧州学術グローバルヘルス連盟(EAGHA)の共同代表も務める。

感染症の監視に尽力し、フランスの国家疾病監視ネットワーク(レゾ・センチネル)設立や、仏領西インド諸島のデング熱とインド洋地域のチクングニア熱のウイルス感染症対策のタスクフォースの組織化などでも主導的役割を果たす。

現在、感染者数が大きく上昇しています。スイスの発症率は高く(過去14日間の人口10万人あたりの発症率は3月24日時点で欧州上位の3843件)、入院患者数はデルタ変異株やオミクロン変異株亜種BA.1型と同レベルに達しています。単に人々がこの高い数値に慣れてしまっているだけです。

ただし少なくとも欧州諸国は、香港や韓国で今起きている深刻な合併症で苦しむ状況には陥っていません。ですからこの波は、少なくとも現時点では、欧州は東南アジアなどの世界の他の地域ほど深刻ではないようです。

にもかかわらず、ほぼ全ての欧州諸国で死亡率が高く、COVID-19による死亡率は全死因の上位に来ています。これは容認できません。私たちはもっと効果的に対応できるかもしれないのに、新たな死因順位に直面しながらもそれを甘受しているようです。

swissinfo.ch:この感染者再増加の背景には何があるのでしょうか?政府が公衆衛生上の規制を緩和したことを非難する人もいますが、単に、オミクロン株の前の亜種BA.1型よりも約30%感染力が強いという新たな亜種BA.2型が原因ではないでしょうか?

フラオー:良い質問です。最初は反射的に予防対策の解除が早過ぎたからだと考えるでしょう。スイスやオランダの場合がそうでした。しかし、イタリアやフランスなど、対策を解除していないのに同様に上昇に転じている国もあります。このことから、再増加の原因は対策解除だけでは説明できないだろうと言えます。

私は(感染増加が)屋外の大気汚染と関係するという仮説を立てています。ジュネーブ大の気候学者との共同研究をまとめた共著論文外部リンクで、冬の大気汚染と微粒子のピークが観測された2、3週間後にCOVID-19のピークが現れ、両者のピークは関連することを報告しました。欧州ではこの数カ月間とても穏やかな気候が続いていますが、このような気候は高レベル微粒子汚染と関連します。これが感染再増加のきっかけになった可能性があります。

swissinfo.ch:最近の感染増加は心配すべきでしょうか?

フラオー:過去2年間の経験から言えることは、COVID-19については常に心配すべきだ、ということです。COVID-19はインフルエンザでも風邪でもありません。入院や死亡につながる可能性のある病気です。長期の後遺症もあります。だから私たちは常に心配し、合併症リスクの高い人たちを守らなければなりません。

一方、COVID-19にかかっても多くの人は重症化しないことも分かってきました。そのためさほど大した問題ではないと考え、あまり心配していない人も多くいます。しかし、リスクの高い人たちに共感し連帯感を持とうとするなら、自分自身と、より弱い人たちをウイルスから守る行動をとるべきでしょう。

ウイルス量は感染の重症度を左右する大変重要な要素です。つまりリスクがあってもたくさんのウイルスに接していなければCOVID-19で重症化する可能性はずっと低くなります。接するウイルス量は例えばマスクを着けることで格段に少なくできます。

swissinfo.ch:スイスのCOVID-19の現状(下記囲み記事参照)についての見解をお聞かせください。

フラオー:成功とは常に不安定なものです。韓国は最もうまくCOVID-19に対処してきた国の1つです。国民の約87%がワクチン2回接種済みで、64%は追加接種(ブースター)済みです。

死亡率の指標を見れば、非常にうまく対処されてきたことが分かります。韓国のCOVID-19による死亡率は世界中の多くの国よりも、特に欧米諸国よりも格段に低い値を示しています。ところが現在、韓国の状況は悪化しています。感染率は世界トップではないとしても最も高いレベルです。最近では集中治療室が必要な入院数が急増し、死亡率にも大きな波が来ました。ですから、オミクロン株亜種BA.2型の症状は軽いと断定するのは早計に過ぎると思います。

連邦保健当局は3月22日の記者会見で、より感染力の強いオミクロン株亜種BA.2型の影響で今後数週間、スイスの新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染者数は増加し続けるだろうとの見方を示した。入院数や集中治療件数、死亡者数も増加し、高水準が続いている。しかし連邦担当官らは同記者会見でさほど心配している様子を見せなかった。連邦内務省保健庁(BAG/OFSP)危機管理部門長のパトリック・マティス氏は「高い免疫レベルのおかげで、今は感染者数が多くても医療機関への負担を再び増やす危機を回避できているので大丈夫だ」と語った。

同記者会見の前週末には保健当局の高官が、スイスの実際のCOVID-19新規感染者は報告件数よりもはるかに多い可能性があるとの懸念を示した。 州衛生当局トップのルドルフ・ハウリ医師は、1日あたり新規感染者の公式発表数(2万5千人から3万人)に対し、実際の感染者数は約15万人と推算。ウイルスがこれほど活発ならば、ワクチン3回接種済でも感染し、入院が必要になることもあり得ると警告した。

連邦政府は今月1日には公共交通機関でのマスク着用を含む残り全てのCOVID-19公衆衛生対策を解除。4月以降は感染者数など統計データに関するBAGからの発表は毎日ではなく週1回となる。

BAGと連邦予防接種委員会は現時点では2回目の追加接種(ブースター)は推奨していない。

このパンデミックに対してスイスは当初から欧州諸国の中で最もうまく対処外部リンクできている国の1つです。今後も続くかどうか、それは分かりません。スイスで最も多く使われている米モデルナ製mRNAワクチンに成功の一因があると考える人もいます。つまりスイスが入院率や死者数を制御できたのはモデルナ製ワクチンのおかげかもしれないという見方です。

しかしこの良好な状況も免疫力が低下すれば続かないかもしれません。スイスはワクチンの接種率(69%)の点で守りは十分ではなく、不安定さが依然として残ります。韓国の例のように高い入院数と死者数を伴う高感染状況に転じる危険性は常にあります。私は決して、このパンデミックを軽視しません。

(英語からの翻訳・佐藤寛子)

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