環境

氷河が解けるとどうなる?

アルプスの氷河が今世紀末までに姿を消してしまうかもしれない。その影響はスイスだけでなく欧州全体に及ぶ可能性がある。

Corina Staffe (イラスト)

氷河が解けるのは何も新しいことではない。1850年以来、アルプスの氷河の体積は約60%減少した。しかし驚くべきは、アルプスの「巨人」が縮小するその速度だ。スイス自然科学アカデミー(SCNAT)によると、2019年の氷河質量の消失は過去最高に達した。スイスの氷河監視ネットワークのマティアス・フス代表によると、夏のわずか2週間の間に8億トンもの雪と氷が消えた。

産業革命以前の時代から、スイスの気温は約2度上昇している。これは世界平均の2倍だ。このスピードで行けば世界遺産の壮大なアレッチ氷河など、1500カ所のアルプス氷河の半分が今後30年で消滅する。そして、温室効果ガス排出削減を何も行わないと、スイスと欧州のすべての氷河は今世紀末までにほぼ消失する、と研究者たちは警告する。

氷河の後退は、地球の歴史で繰り返し起こる。それは長い期間の現象ではあるが、私たちの将来に悪影響を及ぼすのだろうか。これは難しい質問だ。しかし、新しい「シナリオ」への備えはしておかなければならない。

スイスでは、そのような「シナリオ」の1つに、洪水、土石流、地滑りなど自然災害リスクの増加がある。氷河内部で形成される湖は、急に下流に流れ出て、村やインフラを一掃する危険性がある。そして氷と永久凍土層が薄くなることで、山が不安定になる。アルプスの斜面の沈下が、下記の記事の画像ではっきりと分かる。

氷河の融解に伴い、スイスのある主要な貯水池が危機にさらされている。ここは、国内人口の60年分に匹敵する飲料水がある。

もちろん、スイスでは、人口が現在の850万人から2050年に1千万人に増えたとしても、十分な水は確保できる。ただ、連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ)の水文学・水管理に詳しいパオロ・バーランド教授は、水の紛争を回避するためには降水量管理の方法を変え、より氷に依存しない方向にしていく必要があると指摘する。水力発電と農業に新たな活路を開く方法として、氷のない山間部に多目的貯水池を作るという案もある。

欧州、特にアルプスから数百キロ離れた地域ではこの問題がより深刻な影響をもたらすかもしれない。溶けた雪と氷河の恩恵が低いため、欧州の主要河川(ローヌ川、ライン川、ドナウ川、ポー川)の流れは、夏季に大幅に減少する可能性がある。川や湖の水位が低下すると、水上移動やスイスとの間の物資輸送が難しくなる。

スイスの名を世界に知らしめたこの重要遺産を維持するため、研究者たちが時間との戦いに着手した。スイス東部グラウビュンデン州のモルテラッチ氷河では、人工雪で氷河を保護するプロジェクトが始まった。成功すれば、ヒマラヤやアンデスにも活用できるシステムだ。

しかし、温室効果ガス排出量が増え続けると、科学になすすべはなくなる。このため、スイスの氷河保護活動は山よりもむしろ議会、国民投票の結果に大きく左右される。スイスでは2050年までに温室効果ガス排出量をゼロにする「氷河イニシアチブ(国民発議)」が立ち上がっており、まもなく国民投票が行われる予定だ。

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