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人権 「スイスの存在がなければ、世界は問題が増えていただろう」

Ignazio Cassis

イグナツィオ・カシス外相

(Thomas Kern/swissinfo.ch)

12月10日に採択70周年を迎える国際連合(国連)の世界人権宣言は、現在多くの国でないがしろにされている。そんな中、スイスは今後も人権の保護とそれにつながる民主主義の促進に努める。イグナツィオ・カシス外相はスイスインフォのインタビューでそう語る。

この記事はスイスインフォの直接民主制ポータルサイト「直接民主制へ向かう」#DearDemocracy他のサイトへの掲載記事です。当ポータルサイトで紹介している社内外の見識者の見解は、スイスインフォの見解と必ずしも一致するものではありません。

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スイスインフォ:外国の政治家から、スイスの直接民主制について尋ねられることはありますか?

イグナツィオ・カシス:直接尋ねられることはほとんどない。理由は単純で、「直接民主制」という概念を知っている国や社会はあまりないからだ。だが、スイスの制度について理解や説明が必要なときには、スイス国民の持つ権利についてよく話をする。

スイスでは実際、どんな風にものごとが進むのか。これはスイス国民もよく自問することであり、それに対する答えは直接民主制と深くかかわっていると思う。このシステムは確かに手間がかかり、多大な労力を必要とする。だが同時に、市民と直接つながっていることで、社会的、政治的、経済的な安定性が高まる。だからこそスイスをうらやむ国は多い。

スイスインフォ:このようなシステムは、スイスでしか機能しないものなのでしょうか。

カシス:このシステムができた歴史的背景は非常に特殊だ。スイスには王政も帝政もなかったため、権力の集中があまり見られなかった。しかし、今日では世界の多くの場所で、市民参加や直接民主に対する新しいアプローチや試みがなされている。

(Thomas Kern/swissinfo.ch)

「スイスには王政も帝政もなかったため、権力の集中があまり見られなかった」

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欧州連合(EU)の「欧州市民イニシアチブ」など、その多くはまだ軌道に乗り始めたばかりだ。英国のEU離脱をめぐる国民投票も一つの例だが、その実現については今もまだ争われている。

それに対し、スイス国民は、さまざまな案件について1年に4回投票することに慣れている。そして、投票が行われた日曜日の夜に結果が明らかになると、関係者全員がそれを受け入れる。平凡なことのようだが、世界を眺め渡すとまったくそうではないことが分かる。

スイスインフォ:民主主義の促進は、スイスの連邦憲法で外交政策の重要課題とされています。

カシス:民主主義と人権の促進はどの国でも主に内政の課題であるため、実際の外交ではなかなかそうはいかない。

これがきちんと機能するためには、政治権力のみでなく、マネーも民主化され分権化されなければならない。よく誤解されていることだが、スイスで直接民主制や連邦主義がうまく機能しているのは、共同の公的資金も国民による意思決定や強力な分権化の対象となっているからだ。

スイスインフォ:スイスが民主主義を促進している例をいくつか挙げてもらえますか?

カシス:例えばチュニジアでは、「アラブの春」からこれまでの8年間、ずっと分権化対策の支援を続けている。そうすることで市民参加も必ず強化される。

また、女性の活躍の促進に目を向けることも大事だ。これまでの経験から、多くの国では女性の方がお金の使い方がきちんとしていて、地元民の基本的欲求の充足を第一と考えていることが分かっている。スイスのやり方をそのまま輸出することはできないが、私たちの経験を伝えることはできる。これは大切なことだ。

スイスインフォ:スイス政府の一員として、また外相として、世界中で応用できるシンプルな成功法があるわけではないのですね。

カシス:その通りだ。スイスの影響力を過信してもいけない。分権化には、異なる人間同士または異なる地域間の違いや不均衡を考慮することが欠かせない。

インドを訪れたときに、それを深く実感した。連邦色の非常に強いこの国では、国家はどこまで不均衡を持ちこたえられるのかと問う声が大きくなってきており、政府は税制のゆるやかな調整に乗り出している。スイスはまさにこの分野で非常に多くの経験を積んでいるので、それに関する情報を提供できる。

スイスインフォ:人権侵害、報道の自由の制限、選挙や投票の操作など、民主主義は世界のあちこちで危うくなっています。心配ではありませんか?

「自由を守ろうと思えば、常に積極的に闘わなければならない。それを止めたら、負けたも同然だ」

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カシス:自由を守ろうと思えば、常に積極的に闘わなければならない。それを止めたら、負けたも同然だ。自由民主主義の多くが今日危機に瀕している。逆説的だが、それは民主主義が成功している証拠だ。私は医師でもあるので、予防接種と似ているように思う。予防接種は効果が出るほど人々が受けたがらなくなる。病気にかかる可能性があることを忘れてしまうからだ。民主主義も当たり前になればなるほど、人はそれを積極的に支えようとしなくなる。

今はポピュリズムの波が話題になっている。だが、ポピュリストを盾に取って、発言権や分権の向上への要求をはねつけるパターナリズム(温情主義)も再び勢力を盛り返している。こういうこともあって、スイスの自由でリベラルな民主主義に圧力がかかり出した。これは心配なことだ。

Aussenminister Ignazio Cassis


(Thomas Kern/swissinfo.ch)

スイスインフォ:問題がもっと深刻化している国もあり、ジャーナリストが自分の職務を果たしたために殺害されるケースも出ています。スイスの外相として、このような重大な人権侵害にどのように対応しますか?

カシス:憤慨を表明し、具体的な対策を取るという、政治レベルで直接的な対応をする。今ちょうど問題になっているサウジアラビアのジャーナリスト、ジャマル・カショギさん殺害事件を例に取ると、これはゆゆしき人権侵害であり、スイス政府は直ちに、独立した包括的かつ迅速な調査を求めた。これは二国間関係にも影響を及ぼしている。

例えば、サウジアラビアへの武器の部品の輸出を一時停止したほか、政治レベルで接触するときには同国の人権問題を取り上げたりもしている。

「スイスの存在がなければ、世界は問題が増えていただろう」

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しかし、接触を止めることはない。スイスは直接対話を基本としているし、また仲介国という伝統ある役割も大きくなってきているからだ。この役割は、利益代表国の受託などを通じて実行している。もしスイスが存在しなければ、世界が滅びることはないにしても、問題が増えていただろう。

スイスインフォ:しかし同時に、内政上の利益や経済上の利益も考慮しなくてはなりません。対サウジアラビアの軍需品輸出問題は、まさに人権政策と相反しますね。

カシス:確かにそうだ。ここでは二つの目的がはっきりと相反している。だが、スイスの軍需品輸出量は、過去の歴史や民主主義が根底にあるため、EUと比べるとずっと規模が小さい。

連邦憲法では自国の安全と自主性の保障が定められているが、そのためには最小限の軍需産業が必要だ。そしてこういった軍事産業の経済的な理由から、軍需物資を外国に輸出する必要もある。ただし、輸出の相手国が紛争に巻き込まれていないことが条件だ。

スイスインフォ:政府は軍需品の輸出に関する指針の緩和に向けて動いていたにもかかわらず、最近それを断念しました。何故ですか?

カシス:政府はまず、軍需産業の将来を懸念していた上院安全保障委員会の提案に応じた。しかし、それを考慮した改正案を議会に戻すと、人道的な理由で激しく批判された。

言い換えればこれは、スイスで繰り返し見られるように、分権が機能しているということだ。このように対立しあう案件でも、こちらをやってあちらをやらないということはしない。

(Thomas Kern/swissinfo.ch)

スイスインフォ:世界人権宣言の採択は12月10日に70周年を迎えます。このような国際協定は、世界政治の中で中心的な役割を担っています。スイスはこのような民主主義の促進や人権に関する多国間主義をどう受け止めているのですか?

カシス:協定や条約を多国間で取り決めるこのシステムは、小国にとっては非常に大切だ。権力の法ではなく、法の権力が認められなければならない。権力の法が認められてしまえば、スイスの立場は揺らぐ。

「権力の法ではなく、法の権力が認められなければならない」

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スイスは国際法に守られている。しかし、それはできるだけ多くの国際法を利用するということではない。必要な分だけでよく、できるだけ少ない方がよい。それで国家の自主性も十分維持できるのだから。

イグナツィオ・カシス氏

57歳。ティチーノ州出身。2017年11月に外相に着任。大臣に選出され、連邦外務省を担当する以前は、イタリア国籍も所持していた。08年から17年まで連邦議会議員、それ以前はティチーノ州直属の医師。急進民主党に属し、南スイスの町ルガーノに近い小村モンタニョーラに住む。

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世界人権宣言採択70周年

世界人権宣言他のサイトへは1948年12月10日に国連総会で採択された。全30条の中には、「国家の公的関心事の形成に市民が直接かかわる」権利も記されている(21条1)。

国連の世界人権宣言は「ソフトロー(法的拘束力のない決議など)」であるものの、「市民的、政治的権利に関する国際規約第二選択議定書」他のサイトへ「欧州人権条約」他のサイトへなど、数多くの国際的な合意の基礎となっている。

この宣言をもとに、スイスは憲法によって、民主主義と人権の促進を外交政策に組み入れる義務を負っている。

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このインタビューは、スイス政府が国連移民協定への署名見送りを決める以前の2018年11月13日に行われました。


(独語からの翻訳・小山千早)

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