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私は裏切っていない

ユダの福音書』が書かれたパピルス。現在、米国ワシントンで展示されている。 Keystone

『ダ・ヴィンチ・コード』が世界中でベストセラーになり、キリスト教の定説に関する議論が巻き起こっている。今回、また火種を呼びそうな初期キリスト教の福音書が解読された。

今回解読された『ユダの福音書』は、1700年前にギリシャ語のオリジナルから写されたもの。これまでの定説では、キリストの弟子、ユダの裏切りのおかげでキリストは十字架にかけられたが、これは実はキリスト自身の指示だったというのだ。

 解読された文章によると、キリスト教世界で最も憎むべき存在とされていたユダは、イエス・キリストのことを弟子の誰よりも理解していたという。

科学的調査の結果、本物だと判明

 今回のプロジェクトは、2001年にスイスの古美術商が1700年前のパピルスをバーゼルのマエケナス古美術財団に委託したことがから動き出した。米国ナショナル・ジオグラフィック協会の主導で行われたこの国際プロジェクトは、修復・翻訳・鑑定を経て、現在ワシントンのナショナル・ジオグラフィック協会本部で展示されている。

 翻訳プロジェクト・チームを率いたのはスイス人のロドルフ・カッセル博士。古代エジプト語(コプト語)の世界的権威だ。今回のプロジェクトは5年かけて放射性炭素年代測定法、インクの成分分析、マルチスペクトル画像の解析などで徹底的に本物かどうか調査され、西暦300年頃に書かれたギリシャ語の文章がオリジナルで、これはその写本だということが判明、内容も約8割が解読された。

もう少しで砂漠の砂と消えるところだった

 皮のひもで綴じられたこの写本は、パピルスで出来た13枚のページからなり、両面にコプト語が書かれている。ナショナル・ジオグラフィック協会によると、この写本はエジプトの砂漠にある洞窟に1700年以上も忘れ去られて置かれていた。

 1970年代にエジプトのミニヤー地方の砂漠で発見されたが、ニューヨークの銀行の貸金庫で16年間保管されているうちに激しく損傷が進んでしまった。その後スイスの古美術商に買い取られたが、古代パピルスは何百片にも散り散りに破れてしまっており、専門家の手に渡った時には、修復に困難を極める状態だった。

ユダはキリストの指示の通りに動いた

 内容は世界を唖然とさせるものだった。聖書では、ユダはキリストをローマの兵士に銀貨30枚で密告した、全くの裏切り者と描かれている。

 ところが今回プロジェクト・チームが解読した文書には「キリストとユダの秘密の会話」について触れ、キリストがユダに対して「お前は、私が服を借りているこの男の身体を犠牲にすることによって、弟子の誰よりも高い存在となるだろう」と言ったことまで書かれていたのだ。

 今回の解読に対して、キリスト教会はどのように反応したのだろうか。米シカゴに本部を置くカトリック神学連合のドナルド・シニア会長は「この文書は初期キリスト教の豊かな多様性を示している」とのコメントを発表した。「問題になっているのは、ユダのライバルが書いた伝統的な福音書とは同じ意味を含んでいないということだろう」

 写本は今回のワシントンでの展示が終わった後、エジプトに返され、カイロのコプト博物館に収蔵される予定だ。

swissinfo 外電、 遊佐弘美(ゆさひろみ)

‐初めに写本を見つけたエジプトの古美術商は最低でも2回、どこかに売却しようとしたが、失敗した。

‐ニューヨークの貸金庫で16年間眠っている間に損傷が進んだ。

‐スイス・チューリヒの古美術商フリーダ・チャコス氏が2000年に買い取った。

‐チャコス氏はマエケナス古美術財団に翻訳を依頼した。

‐写本を閉じていた皮の切れ端は、放射性炭素年代測定で有名な米アリゾナ州の研究所に送られ、古代エジプト時代のものだと鑑定された。

『ユダの福音書』の写本は、1970年代にエジプトのミニヤー地方の砂漠で発見された。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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