不気味に増える二酸化炭素が、地球を温め続ける
海洋生物が、地球の温暖化によって受ける影響は、これまで考えられていたよりずっと深刻らしい。
新たな研究結果によると、今後、地球温暖化によって海の中の珊瑚やプランクトンなどの海洋生物が減少し、危機的な状況に陥る。今までも騒がれていたことだが、今回の発表は、今までの楽観的予測をくつがえすことを証明した。
海水の二酸化炭素(CO2)が増えることによって、プランクトンや珊瑚が急速な勢いで減少している。石油産業など、二酸化炭素を撒き散らす存在が巨大化する一方で、二酸化炭素を吸収してくれる海洋生物のような存在が瀕死の状態にある。しかもプランクトンは、地球の生態系を支える重要な存在だ。
生態系の危機
この深刻な状況を前にして、国際プロジェクトが組まれた。スイスからは、ベルン大学の「気候と環境物理学部」が参加した。南極海においてCO2の吸収にどのような変化があったか、1995年から2002年まで国際チームが追った。
名づけて海洋炭素サイクルモデルの相互比較プロジェクト(OCMIP:Ocean Carbon-Cycle Model Intercomparison Project)。欧州、米国、日本、オーストラリアの科学者で編成されている。この研究結果は有名な英科学雑誌、ネイチャーに掲載された。
地球の温暖化によって、温かい海水が通常より多くのCO2を吸収してしまう。この反自然的な現象が、海洋生物には害になるわけだ。
プランクトンは、海洋の生態系全体を支える貴重な餌だ。プランクトンを食べる小さな魚が、より大きな魚の餌になり、それがまたより大きな魚の餌になる。底辺のプランクトンがいなければ、クジラだって飢えて死んでしまう。
プロジェクトに参加した科学者、ジアン・カスパー・プラットナー氏は警告する。「CO2の増加は、海洋の状態に信じられないほど悪影響をもたらす可能性があります。もちろん、一つの研究結果が出たからといって、海が死に絶えるとまで言い切れないとは思いますが」
今までの見通しが甘かった
これまで同じような研究で、正反対の研究結果も出ていた。海が温暖化したからといって、数世紀の間に特別な影響は出ない、というものだ。
しかし、温かい水は冷たい水より多くのCO2を溶かしてしまうという動かしがたい事実から、OCMIPの研究結果は今までの楽観的な予測をくつがえし、環境の変化は今後50年から100年の間に非常に深刻な結果をもたらすと結論づけた。
プラットナー氏によると、今回のOCMIPの研究結果は、世界に対して「CO2排出を少なくする努力は、すでに一刻の猶予も許さない状況にある」と伝える役割をしたという。すでに、大気中のCO2をこれ以上多くしないようにしたとしても、元の状態に戻るまでに何世代もの努力が必要なのだ。
NGOも深刻さを実感
世界最大の自然保護 NGO、世界自然保護基金(WWF)も、今回の研究結果を評価している。彼らは自分たちの経験から、地球が直面している問題を肌で実感しているようだ。
「近年の環境の変化が、海洋生物に非常に深刻な影響を与えているということは、はっきりしています」と、WWFのアドリアン・シュティーフェル氏はスイスのタブロイド紙ブリックのインタビューに答えている。
海は、地球上で排出されるCO2の4分の1を吸収してくれると言われている。このまま海洋生物が死滅し、海がCO2の吸収を止めたらどうなるか。今日も、大気中のCO2は不気味に増加して、年々地球を温め続けている。
swissinfo、 マシュー・アレン 遊佐弘美(ゆさひろみ)意訳
OCMIPのプロジェクトは、1995年に着手され、2002年に最終結果が出た。
プロジェクトは、欧州、米国、日本、オーストラリアの科学者の混合チームで編成されている。
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