精神病患者の増加と障害者保険
障害者保険 ( IV/AI ) の受給者がこの10年間で大幅に増加した。理由は精神病患者の増加にある。このため、障害者保険の運営状態が悪化している。
政治家たちはこうした問題とその原因の位置づけで激しく対立している。一方、専門家は、精神病患者の増加は、社会と職場環境の根本的な変化が理由だと説明する。
1997年の障害者保健の受給者は17万3000人だったが、2006年には25万6000人に増加した。理由は精神病患者の増加にある。精神病が理由で障害者保険を受給している人は年間およそ8%ずつ増加している。しかも、障害者保険受給の最も多い理由にもなっている。
ストレスで病気
スイス住む人の10万人に1人が、精神病患者として障害者保険を受給している。精神病患者の増加の原因は何か。右派の政治家たちは、「多くの場合これは『見せかけの障害者』」だという。社会保障を悪用し、保険の財政を悪化させるのが彼らだというのだ。
一方、専門家の多くは、職場環境が急激に変化したため精神病患者が増えたと見る。具体的には「ここ10年、職場での従業員に対する圧力、仕事のリズムがより速くなったこと、仕事における決定の自由が狭まったといったことが挙げられる」とベルン大学労働心理学のアヒム・エルフェリンク教授は言う。
1990年代から国際競争が激しくなり、多くの会社でリストラが進んだ。生産工程の見直しや、従業員に柔軟性が求められ、専門技術が必要でない仕事は消えていった。「世界各国でこのような状況にある。ドイツは特に若者の精神病患者が多い」とエルフェリンク教授は指摘する。
誰の責任?
とはいえ、エルフェリンク教授は右派の政治家たちが主張するように、障害者のふりをする人もいると認める。ただし「見せかけの障害者」という表現には気をつけなければいけないという意見だ。というのも「精神病患者や、医者の診断が難しい病気を病む多くの人が問題を抱えたまま孤独でいる」からだ。かれらは放置され、慢性になってしまう可能性もあると言う。
雇用主が職場での義務を果たさず、従業員を障害者保険の対象者にしてしまうという意見の左派の政治家もいる。これに対してもエルフェリンク教授は「そうした雇用主がいるかもしれないが、大半は違うと思う」と言う。熟練した従業員を退職させ、新しい労働者を受け入れるには会社に大きな負担がかかるからだ。
早期発見が鍵
6月17日の国民投票では、障害者保険改定案の是非が問われる。エルフェリンク教授はこの改定案を支持する。改定案では従業員が精神病にかかった初期段階での発見がより可能になるからだという。「早期発見が解決の鍵だ。この改定案で精神の問題を抱える従業員の退職をなるべく避けることができる。そのためには、関係者全員が同じ目的を持たなければならない。特に雇用主は早期発見に努力し、従業員が障害者となることを避けるようにしなければならない」と語る。
swissinfo、アンドレア・トニア 佐藤夕美 ( さとう ゆうみ ) 意訳
6月17日の国民投票では、障害者保険改定案の是非が問われる。改定案に対してレファレンダムが起き、国民に改定案が問われることになった。主要論点は障害者の雇用促進。改定案の反対意見は、障害者に対するサービスの低下であり、障害者に負担を強いるものという。
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