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美しいナイフがスイスに集う

芸術品としてのナイフ swissinfo.ch

展示会といえばバーゼルの時計展示会が世界的に有名だが、毎年、首都ベルンで開かれるナイフの展示会でも、世界中から何百本ものナイフが集合し、職人技を競う。今年は10月1日と2日に開かれた。

スイスの軍隊で実際に使われているスイス・アーミー・ナイフは、お土産としても人気があるが、展示会ではこのアーミー・ナイフはもちろん多様な種類のナイフを見に、コレクターが詰め掛ける。もちろん会場で購入もできる。

 スイスのナイフ職人の歴史は長い。このナイフ展示会の責任者、ハンス・クリューツリさんは、ナイフ職人を代々受け継ぐ家族の5代目だ。クリューツリさんは展示会を国際的に有名にし、「ナイフを造る」という地味な作業を、芸術として世間に広めることに成功した立役者といわれる。

世界の国からこんにちは

 展示会には、非常に幅広い種類のナイフが出展された一方、今年は目玉商品が来場者を喜ばせた。映画や本で有名な『ロード・オブ・ザ・リング』で話題になった刀剣だ。

 「この映画のおかげで刀剣への興味が世界的に広まりました。今では10年前と比べてはるかに多い種類のものが出てきました」。刀剣と共に、『ロード・オブ・ザ・リング』に出てくるようなヘルメットや指輪などの宝石も展示された。

 しかし、なんといっても圧巻は世界から集められたいろいろな形のナイフだろう。「出展者は、スイス、日本、南アフリカ、オーストリア、ドイツ、フランスなどに及びます」とクリューツリさんは語る。「来場者も、10歳の男の子からトラックの運転手、大学教授や医者、弁護士まで多岐に渡りました」

 「来場者は、ナイフの仕組みやデザイン、素材やその時その時の流行などに興味を引かれるようです。金額も5ドル(570円)から1万ドル(114万円)までさまざまです」。しかし、そんな高い値段でナイフを買って、その後どうするのだろうか。

ナイフ収集の魅力

 クリューツリさんによると、買った値段に関係なく、自分で使うためにナイフを買う人もいれば、10ドル(1100円)のナイフをりっぱなケースに入れて眺めているだけ、という人もいるらしい。

 「ナイフは人間にとって、最古の武器です。象徴的な意味合いが沢山あるのです。その意味で、眺めて楽しむ人もいる一方で、便利な道具として日常生活に使う人もいるというわけです」

 「何千種類ものデザインがあり、開閉や安全装置など、何百種類もの技術的な機能があります。それに、時計や車よりも、ちょっと安く集められますし」。クリューツリさんはナイフ収集の魅力を語る。

親方の古き良き時代

 クリューツリさんはナイフ職人の親方でもある。クリューツリさんが子供の時、周りには何かの職人という人が沢山いた。スイスは職人の国でもある。

 「大工、配管工、靴職人、馬具製造職人、肉屋など、誇りを持った職人に囲まれて育ちました。村の子供達は、いつも彼らのプロの技を目を丸くして見入ったものでした。そして、彼らはほんの少し、私たちにやらせてくれたりしたものです。私が人生最初のナイフを作ったのは、たった7歳の時でした」

 自らもナイフ収集家であるクリューツリさんのお気に入りの一品は、自分が結婚する時に妻ベアトリスに贈った「花嫁のナイフ」だ。何しろナイフを代々作ってきた家族だ。ナイフを作ることは、家族の思い出を作ることでもある。

 「私も、曽祖父がやったように、何か特別な物を残したかったのです。そこで、ダマスカス鋼を使った刀と象牙の取っ手で、ペンナイフを作りました。それから彫刻師を見つけて、家族の紋章と二人の名前、結婚した年を彫ってもらったのです」

 「その時、私はナイフ職人のキャリアの中で最も大きな仕事をしたと思っています。良い時代でした」

 スイスの名物職人は、良き時代を感慨深く振り返った。こんな風に思い返せる人生を持てる人は、幸せだろう。

swissinfo、ロバート・ブルックス 遊佐弘美(ゆさひろみ)意訳

ナイフの展示会の発祥地は米国。
スイス・ナイフ展示会は23周年を迎える。
クリューツリさんはスイス全国ナイフ職人親方連盟の会長。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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