スイスの年金基金、大スキャンダル
スイスファースト銀行 ( Swissfirst ) とベルヴュー銀行 ( Bellevue )合併のニュースはスイスの金融界を揺るがした。ところが現在、合併に関係してインサイダー取引疑惑が持ち上がっている。
いくつかの企業の年金基金が、両行の合併発表直前に、保有していたスイスファースト銀行の株を一斉に売却した。この結果、各社の年金基金は莫大な利益をふいにした。
一方、年金基金を持っていた企業の一つ、リーター ( Rieter ) は、「違法だという証拠は何もない」と発表した。同社の年金基金は、保有していたスイスファースト銀行株を半分も合併直前に売却している。
濡れ手に粟
マスコミによると、複数の企業の年金基金が、9月8日と9日に同時に株を売却した。同じ時期、両行のファンド・マネージャーが個人で株式を購入している。そして、9月12日に両行が合併を発表すると、スイスファースト銀行の株は50%近くも上昇した。ファンド・マネージャー達はこのおかげで莫大な利益を得たと見られる。
ノイエ・チュルヒャー・ツァイトゥング ( NZZ ) 日曜版によると、合併発表前にスイスファースト銀行の株を売ってしまった年金基金は合わせて2000万フラン ( 約19億円 ) 以上のキャピタル・ゲインを喪失したことになる。法廷で初めて、これら年金基金の企業の名前が明らかになった。ジーメンス、ロシュ、コープ、リーター ( Rieter )。スイスを代表する大手企業がずらりと並んだ。
一体、なぜ
問題の核心は、誰が何を知っていて、どんな情報をつかみ、いつ合併が起こるかをつかんだか、そして、なぜ年金基金や個人が、合併発表直前に株を売却したのか、ということである。
証拠を求めてかぎまわっているのは、連邦銀行委員会だけではない。当然、大きな被害をこうむった多くの年金基金も、疑惑解明に乗り出している。チューリヒ州当局とバーゼル州当局は本格的な捜査に乗り出した。
特にやり玉にあがっているのは、スイスファースト銀行の最高経営責任者 ( CEO ) 、トーマス・マッター氏である。彼は今回の株取引で5000万フラン ( 約50億円 ) も稼いだと報道されている。同氏はマスコミの取材に対し、「合併の際の株取引は、インサイダーの疑いがかからないように、ちゃんとチューリヒ州当局から許可を得ていました」と答えている。
ところが、チューリヒ検察局のクリスチャン・ヴェーバー氏は、このコメントについて「まったく事実ではありません」と苦々しい表情だ。「この件について我々が法的な許可を与えたことは一度もありません」
豪邸に引越し
実際の真相はまだまだ闇の中だ。しかし、マスコミはこの不透明な状況をなんとか打破しようと、あの手この手で情報を追っている。中でも最大のスクープを物にしたのは、チューリヒのタブロイド紙、ブリック ( Blick ) だ。
同紙は、リーター社の年金基金マネージャー、ユルク・マウラー氏が昨年末に2000万フラン ( 約19億円 ) の豪邸に引っ越したことをすっぱ抜いたのだ。マウラー氏の課税対象となる資産は1999年では「たった」48万フラン ( 約4530万円 ) 。それが2002年には一気に4300万フラン ( 約41億円 ) 、2004年では6800万フラン ( 約64億円 ) 以上にもなった。
報道によると、マウラー氏は2002年まで税金の申告を行っておらず、このため税務署はそれ以前の資産については手を付けていなかった。これについてマウラー氏は「ただ単純に、忙しくて税を申告する時間がなかったのです」と弁明している。
内閣を構成する7人の閣僚のうち、現在3人が株取引に対する透明性の向上、年金基金に対する監査やインサイダー取引への管理強化などに向け、規制をもうける予定だ。
swissinfo、外電 遊佐弘美 ( ゆさ ひろみ )
スイスファースト銀行とベルヴュー銀行は2005年9月12日に合併を発表した。
スイスファースト銀行の株式取引は、8月末と合併発表の直前に、非常に活発な動きがあった。
合併発表後、スイスファースト銀行の株価は50%近く上昇した。
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