スイスの牧場にクローン牛の子孫が…

スイスで初めて、300頭の牛にクローン牛を母に持つ雄牛の種(精液)が人工授精された。
このこと自体は法律に違反していないが、牛の畜産家協会がこの動きを「意味がない」と批判している。
今春、人工授精を専門としているセレクト・スター社(ジュネーブ)が米国のレッド・ホルシュタイン種の種子を輸入した。この雄牛の母牛がクローン牛だった。通常、美味しい牛乳を生産することで知られているホルシュタイン牛は白と黒だが、この牛はレッド・ホルシュタインであり、クローンの母親の赤の斑がある、半クローン牛というわけだ。
スイス農業にダメージ?
「“自然に近い農業”というスイス農業のイメージを壊す」と怒っているのはスイス畜産協会の理事長マルクス・ツェンプ氏だ。そのうえ「畜産の目的は常に牛の質を向上させることにある。けれども、クローンは単なるコピーなので質の向上には繋がらない」とこの技術の生産性への疑問をバウエルン・ツァイトゥング紙(農業新聞)に語っている。
また、同氏は畜産農家にクローン牛の子孫を使用した畜産物はそれをはっきり表示するように呼びかけている。牛の血統書は3世代に遡り出生が判るのでクローンの血統は判るが、半クローンの牛乳など商品の場合は判らない。
一回限り
輸入元のセレクト・スター社は「このケースは一回限りであり、この雄牛が選ばれたのは母親がクローン牛だからという理由ではなく、質が良い牛乳を多く生産する血統だからだ」と説明し、「あくまでも1回限りの実験」と強調している。
確かに、この方法が効果的であるかどうかについては4年後まで待たなければならない。これら300頭の牛たちが産んだ子牛、それも雌牛が多量の牛乳を出すかどうかが判明してからでないと有効性が判らないからだ。
スイスでは合法
連邦農業局によるとスイスではクローン動物やその子孫の種を使用することは違法でないため、阻止することができないという。しかし、同局は畜産農家にこのようなやり方を避けるように呼びかけている。
なお、スイスでは今までクローン技術で牧畜動物が誕生したことがない。
swissinfo 外電、屋山明乃(ややまあけの)
<クローン技術について>
- イギリスで世界初の成体の体細胞を使ったクローン技術を用いて1996年7月、「ドリー」というクローン羊が誕生。6年後にドリーは老化が早かったため安楽死させられた。
- 1998年7月、2頭のクローン牛が日本で誕生。
- 以来、世界各地で牛、豚、ネズミ、羊や猿などの動物がクローン技術で誕生している。
- クローン技術が哺乳類に成功したことから人への適用の是非が世界中で論議されている。
- 「クローン」とはつまり、「遺伝的に同一である固体や細胞」を指す。クローン技術では親から生み出された子同士は同じ遺伝的特徴を持つ。哺乳類のクローンを生み出すには受精後発生初期の細胞を使用する方法と成体の細胞を使う方法に大別される。
(科学技術庁のサイトを参考)

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