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鉱山開発と人権 資源大手グレンコア 透明性向上への取り組み

採掘現場に立つ男性

コンゴ民主共和国にあるグレンコアのムタンダ銅山で働く労働者。同社の現地従業員約7000人とその家族向けに健康保険制度を提供している

(Glencore)

商品取引および鉱山開発の世界大手であるスイス企業グレンコア。同社を巡ってはいくつもの訴訟が起き、人権問題もしばしば取りざたされている。同社が手がける事業は広範にわたるが、その隅々まで人権を守る「正当な注意義務(デューデリジェンス)」をどう進めるかについて、同社の持続可能な開発担当部門の責任者に話を聞いた。 

鉱物生産、石油取引から農作物までグレンコア他のサイトへは世界50カ国以上で事業を行っている。その中には、オーストラリアなど鉱山開発の歴史が長く規制も整っている国もあれば、コバルトでうるおうコンゴ民主共和国(DRC)のように、リスクの高さから多くの企業が二の足を踏む国もある。 

アンナ・クルティコフさんがサステナビリティー(持続可能性)に関する同社のポリシー作成責任者に就任したのは2016年。スイス政府が商品(コモディティ)取引企業向け人権ガイドラインを作成した際は、その叩き台となる討論セッションにも参加した。商品取引ビジネスはスイスの国内総生産(GDP)の約4%を生み出している。

グレンコアは、スマートフォン、電気自動車、食料品などあらゆる製品に含まれる資源を採掘し、取引を行っている。

アンナ・クルティコフさんは、2012年、英・スイス資本の鉱山開発企業エクストラータ社に入社。翌年同社がグレンコア社と合併したため、グレンコア社員になる。現在、持続可能な開発部門のトップとして、同社の全てのコミュニティ貢献および人権関連問題を統括している

(courtesy Glencore)

スイスインフォ:グレンコアの取り扱う全商品について出どころを把握していますか? 

アンナ・クルティコフ:我々は取り扱う商品を格付けし、リスクの高い商品を優先的に審査している。たとえばコバルトもその一つ。我が社が扱うコバルトは圧倒的に自社生産が多いため、出どころも明確だ。だが、他社由来のコバルトは全て、我々の集中的デューデリジェンスプログラムで審査することになっている。それらはコンゴ民主共和国(DRC)産出である可能性が非常に高いため、ハイリスク商品に位置付けられているのだ。リスクに基づいて商品を調達し、取引先業者らと協力しながら商品の出元がどこなのかを完全に把握するよう努めている。部門横断的で協力関係の強い方法だ。

スイスインフォ:デューデリジェンスプログラムの見直しで難しかった点は? 

クルティコフ:事業の影響が及ぶ範囲がとても大きく、多様性に富むことだ。カナダやオーストラリアには、DRCとはまた別種の困難がある。また、トラック運送会社についての人権デューデリジェンスと、供給業者についてのデューデリジェンスも全く違う。伝統的な仕入れ界隈のデューデリジェンスは確立されていると言っていい。その分野では経験値が高く、多くの枠組みが業界全体で試されてきた。商品取引デューデリジェンスについては先例が少ないため、正式なプロセスを確立したりバリューチェーン(価値連鎖)全般に目を通したりといった面で大変だ。その趣旨からも、スイス政府が作成したガイダンス他のサイトへは実に有用だ。 

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このコンテンツは2018/12/03 11:00に配信されました

スイスインフォ:「コミュニティへの貢献」と「投資戦略」に関するグレンコアの指針はどのようなものですか? 

クルティコフ:我々は、活力のあるコミュニティ作りをサポートしたいと考えている。そもそも鉱山開発というのは有限のビジネスであり、その地域で永遠に事業を続けるものではない。そこで我々のコミュニティへの貢献は、閉山後もコミュニティの繁栄が続くよう、サステーナブルな暮らしの促進とレジリエンス(復元力)向上を念頭に協力していくという形になる。具体的には、我々が事業を行う地域で水道工事や建設業、農業など、鉱山開発とは無関係な業種における職業訓練に多額の投資をしている。たとえばDRCにおける我々の事業の一つがそうだが、鉱山がもともと国営会社の経営下にあったせいで、極端な鉱山依存文化が存在するという点が、問題の一つとしてある。当時はあらゆるものが国営会社によりもたらされていた。店や学校など全てのインフラ、いや、町全体が国営会社によって営まれていたのだ。こういった依存文化が今も残っている。鉱山が全てを賄ってくれるという期待があるのだ。だが、それはサステーナブルではない。 

したがって我々は、経済の多角化や生活全般を鉱山に頼るという依存状態からの脱却を目指し、事業の育成支援と職業訓練の機会提供に焦点を当ててきた。 

スイスインフォ:グレンコアは、現地で上げた収益についてどのように説明し、その透明性を保証していますか? 

クルティコフ:欧州連合(EU)の透明性指令他のサイトへに従い、現地政府への支払いについて年次報告書を公表している。採取産業透明性イニシアチブ(EITI)参加国他のサイトへの国営石油会社への支払いについても、昨年初めて公開した。国営石油会社も当然ながら公共部門の一つであり、責任説明がある、というのが我々の考えだ。 

スイスインフォ:DRCを含め法制度が特に弱いとされる国々では、グレンコアのような鉱山開発企業と争っても、その個人やコミュニティが権利を回復する手段はほぼ無いとされています。これについての意見は。 

クルティコフ:我が社に関して実際起こったことはないが、そういった受け止め方は耳にしている。解決のためには、現地の法体制を強化し、現地政府に責任遂行の義務をより強く働きかけるべきだろう。我々にとって、透明性の原則はそのためにあるようなものだ。我々は現地政府への支払いに関し細部まで公表している。現地の非政府組織(NGO)からも、DRCでこのような情報を入手できたのは初めてだという感想を聞いた。政府にどれだけの金が流れているか、コンゴの人々が知らされることはそれまで無かったのだ。DRCの市民社会の間で進行中の透明性や説明責任についての議論は、こういった情報が支えている。それがコンゴ国内で、今、起きているのだ。このことは、市民社会と政府内の双方に変化を促すという二つの意味で、とても重要だ。 

同様に人権に関する規定についても、現地のシステムを強化しレジリエンスやサステナビリティーを高めることが長期的成功につながる。 

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スイスインフォ:その件に関連しますが、グレンコアの2018年の報告書は、人権侵害事件は無かったとしています。人権侵害事件をどう定義していますか? 

クルティコフ:これまでは、「コミュニティとのある種の相互作用の結果起こった、単発あるいは複数の死亡例」と定義していた。しかし、この定義を改良する必要性を認識している。人権の他の面も考慮に入れ、これについてより幅広い教育機会を提供することを考えなければならない。 

スイスインフォ:NGOのコミュニティや労働組合は、グレンコアの報告書に記載されていない人権侵害事件があるとしています。この食い違いはどこから来るのでしょう?

クルティコフ:そういった特定の問題のいくつかについては、今年5月に公表の人権報告書の中で詳しく報告される。 (編集注:インタビューは4月実施)

スイスインフォ:人権デューデリジェンスが重要性を増していますが、これにどのように取り組んでいますか? 

クルティコフ:顧客サイドからは、バリューチェーン全般でリスクを特定しどこにあるかを把握したいという関心の高まりが感じられる。コバルトにしろ、鉛や銅にしろ、個々の商品について透明性や責任ある企業行動を確認できるよう、各商品に特化した仕組みの重要性が増している。フォーカスすべき点は、取引を始める前に、バリューチェーンを把握し、バリューチェーンの全段階におけるリスクを理解することだ。 

一般に、多国籍企業はこの点を認識している。何かを変えようとする場合、単独では難しいことも、多様な利害関係者(マルチステークホルダー)が参加するイニシアチブやプラットフォームを利用すれば、影響力を強めたり、より広く働きかけたりすることができる。これは今、スイスでもめざましい進歩が見られる点だ。国連の「ビジネスと人権に関する指導原則他のサイトへ」履行のためスイス政府が商品取引企業用ガイダンスを作成した際、我が社も専門家グループの一員として名を連ねた。 

だが、もちろん認められない領域もある。児童労働の投入を止めようとしない業者と一緒に仕事をすることはできない。だが、業者と我々との間に何かしらのギャップが認められた場合でも、長期間にわたり追跡と検証ができることを前提とした一連の改善措置に合意した上で、取引をすることがほとんどだ。これは、商品取引のみならず、繊維業界を始め様々な業界で広く行われているアプローチだ。 

スイスインフォ:グレンコアは、気候変動についての科学的因果関係を認めるとしています。石炭生産から撤退し気候変動問題への取り組みを拡大することについては、どう考えていますか? 

クルティコフ:我々は、我が社が生産する製品は低炭素経済への移行を左右する重要なものと考えている。だからこそ、それを可能にする商品への投資を優先している。石炭については、中期的にはエネルギーミックスの一部としての役割を持つというのが我々の意見であり、国連の「持続可能な開発目標他のサイトへ(SDGs)」が、その目的として受容可能なコストのエネルギーへの幅広いアクセスを掲げている点も評価している。しかし、気候変動との戦いに対する我々のコミットメントの証として、または、我が社のポートフォリオの多角性他のサイトへを強調するものとして、石炭生産を今日のレベルに抑えることに努めると同時に、銅、亜鉛、ニッケル、コバルトなど低炭素経済への移行を可能にする資源への投資を優先している。 

参考資料:「The growing role of minerals and metals for a low-carbon future他のサイトへ(低炭素社会への移行で注目の高まる鉱物や金属の役割について)」 

スイスインフォ:そういった資源の採掘は環境破壊につながる恐れがあります。その点にどう取り組んでいますか?

クルティコフ:我が社の資産には、綿密な環境リスク評価に基づいた環境マネジメントプランが要求される。この環境マネジメントプランは、そういったリスクにどのように向き合い、それを軽減するかという点も対象としている。経営陣は、5年ごとに環境インパクト評価を行わなければならない。もしも、採掘範囲の拡大、あるいは閉山といったプロフィールの変更があった場合は、評価時期を早める。 

スイスインフォ:環境問題が理由で中止、あるいは放棄されたビジネスチャンスや事業はありましたか? 

クルティコフ:はい。環境リスクが大きすぎるとの判断から、合併や拡張プロジェクトをストップしたケースがあった。 

スイスインフォ:最近の例を教えてください。

クルティコフ:残念ながら機密事項に当たるため、それはできない。 

グレンコア社とは 

リスクの高い事業も積極的に手がけることで知られる企業、グレンコアは、紛争地域で物議をかもす政府とも取引を行ってきた長い歴史を持つ。同社の前身は石油王マーク・リッチ氏により設立された。リッチ氏は脱税、詐欺、米国制裁下にあるイランとの商取引など数々の罪状で1983年に起訴されている。 

本社をスイスに置きロンドンで上場しているグレンコアは、2013年に鉱山開発企業エクストラータ社と合併。同社の活動の舞台は全世界に及ぶが、ペルーやコンゴなど複数の国で人権侵害や環境破壊を引き起こしたとして糾弾されている。 

グレンコアの従業員数は全世界で15万8000人。労働組合の国際組織、インダストリオール・グローバルユニオンは、昨年、国連人権委員会に提出した報告書他のサイトへの中で、同社従業員の権利の侵害について懸念を表明した。グレンコアは、特にコンゴ問題に関してインダストリオールと協議を行ったと説明する。 

法的レベルでは、同社がナイジェリアやベネズエラとの間で貿易支援と引き換えに石油の供給を確保するという合意に至った件他のサイトへにつき、米国のマネーロンダリング規制法および連邦海外腐敗行為禁止法他のサイトへ違反の容疑で米国が捜査中だ。 

米司法省はまた、アフリカ最大の銅産出国であるコンゴ共和国(DRC)における同社の活動についても詳細な調査を行っている。グレンコアはDRCでの採掘事業を通じ、銅の副産物であるコバルトも獲得している。 

同社の純益は18年は34億ドル(約3724億円)に減少。商品取引事業は前年比17%減の24億ドルだった。一方、鉱山開発事業は15%増の133億ドルだった。

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世界の商品取引ハブ、スイス 

スイスには約500社の商品取引関連企業がある。全社合わせた従業員数は3万5000人を数え、GDPへの貢献は4%で観光業をしのぐ。

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(英語からの翻訳・フュレマン直美)

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