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スイス最高裁、中期中絶に父親の発言権認めず 「被害者ではない」

裁判所の入り口
ローザンヌにあるスイス連邦裁判所(最高裁) Keystone / Laurent Gillieron

妊娠中期に中絶した女性を元恋人の男性が告訴した事件で、スイスの連邦裁判所(最高裁)は25日、男性は「被害者」に当たらないとして訴えを却下した。合法な中絶と認められる限り、父親に発言権はないとする内容だ。

スイスでは、妊娠12週までの中絶は合法だ。 12週以降(妊娠中期)に中絶すると、緊急事態でないと判断されない限り、女性は3年以下の懲役に処せられる。

👉スイスの中絶に関する規制について、詳しくはこちらの記事へ

スイス西部フリブール州に住む男性が、妊娠中期以降に中絶した元恋人の女性を告訴した。担当医師が女性には精神的な緊急性があったと擁護。このため検察は訴訟を取り下げた。

これに異議を唱え、男性は最高裁まで上訴した。中絶された胎児の父親は法律上「被害者」に当たると主張した。

最高裁は25日の判決外部リンクで、妊娠中期以降の中絶を禁止するのは胎児の保護が目的であり、男性の保護ではないと明言した。出生前の胎児には法人格がないため、父親を被害者とみなすことはできず、男性は告訴の資格がないと述べた。

バーゼル大学のBijan Fateh-Moghadam教授は「父親の立場は極めて弱い」と指摘する。「妊娠を終わらせるかどうかを決めるのは、母親だけだ」

同氏は後期中絶に父親が関与する必要もないとみる。法律がパートナーからの圧力から母親を守ることは正しいと考える。

人権団体「アムネスティ・インターナショナル・スイス」のCyrielle Huguenot氏は 「妊婦の決断に第三者が反対する権利を持つべきではない」と強調する。ここで問われるのは妊婦の決定だけだという。

アムネスティは中絶の完全な合法化を求め、後期中絶であっても女性が処罰されないようにすべきだと訴える。

だが合法化には政治的な議論が必要だ。最高裁の判決は、当局が中絶を合法とみなした場合、父親に発言権はないことを明らかにしたにすぎない。

スイスの男性・父親団体「männer.ch」も最高裁判決を歓迎する。Markus Theunert代表は「この判決は正しい。実際、他に選択肢はない」と話す。

同団体は父親の発言権向上を求めてはいるが、「「父親の発言権を強制する唯一の可能性は、男性が女性の身体的完全性を判断することに帰結せざるを得ない」ため、容認できないと強調した。

独語からの翻訳:ムートゥ朋子

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