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エメンタールチーズの危機

良質のエメンタールチーズは3年間以上貯蔵が可能。熟成が進むとナッツに似た甘い香りが強くなる Keystone

「スイスのチーズ」と言えば穴がたくさんあるあのエメンタールチーズ(Emmental Cheese)だ。総生産量の約7割が輸出され、いわば「スイス大使」の顔を持つ。しかし今、多くの製造者の存続が危ぶまれている。

このコンテンツは 2011/08/31 15:00
濱四津雅子(はまよつ まさこ), swissinfo.ch

価格の暴落に加え、ユーロ安・フラン高という打撃、さらにはイタリア市場で模造品が後を絶たないからだ。しかし新製品の開発やアジア市場の開拓など、まだ希望が失われたわけではない。

次々と廃業

エメンタールチーズの卸売価格は、2010年には1キロ当たり7.2フラン(約690円)だったが、現在は5.5フラン(約530円)と暴落。「これではやっていけない」と首を振るのは、若手のチーズ職人クリストフ・レッツ氏(38)だ。

祖父の代から家族経営を行い、従業員は平均的規模の4人。独自に青かびのチーズやヤギ乳のチーズも手掛け、自宅兼製造所の表に構える直売店では販売もしている。

「伝統を継承することにとても誇りを感じているし、この仕事が大好きだ」と語るレッツ氏なのだが、一方「来年もチーズを作っていると断言はできない。我々のような小規模製造業はどこも同じような状況に置かれている」と、ため息を漏らす。

スイス・エメンタールチーズ組合(Emmentaler Switzerland)の広報担当クリストフ・シュターデルマン氏によると、6月の1カ月間だけでも5軒のエメンタールチーズ製造業者が廃業した。「苦しい選択を迫られる製造者は今後も増えるだろう」と、厳しい状況を示唆する。

製造者の苦悩

エメンタールチーズは、グリュイエールチーズと並んでスイスの「ハードチーズ」の代表的存在だが、ここ数年はソフトチーズの人気が高まり、とりわけエメンタールチーズは苦戦している。2010年には1年間で2万7058トンを生産したが、2011年に入ってからの生産量は減っており、前年比で毎月8~9%減少している。

こうした状況にあってチーズ製造者は、市場競争に見合う低価格を要求する流通業者などとも対立せざるを得ない。

「良質のチーズを作り続けたい。しかしそれには良質の生乳を使いたいし、勘が頼りの手作業の労力も惜しみたくない。こうした経費は節約できないのに、最近はあちこちで価格を抑えようとする圧力が強まってきている。それが一番苦しい」とレッツ氏。

大量生産により安価な製品を供給できる企業とは異なり、小規模のチーズ製造所は、生乳を納入する酪農家、チーズを買い取る流通業者、価格に敏感な市場の間に挟まれ苦境に立たされる一方だ。

輸出への打撃

そしてさらに大きな打撃となっているのが、スイスフランの高騰とユーロの下落だ。

もともと生産量の約6~7割が輸出されるエメンタールチーズは、主にヨーロッパ市場の需要が高い。したがってユーロ安は直接的な打撃だ。2011年1月から6月にかけ、7548トンのエメンタールチーズが輸出されたが、これは昨年同期比でおよそ17%の減少にあたる。

「現在スイスチーズは、国外市場で価格高騰の痛手を負っている。販売価格が1キロ当たり20ユーロ(約2200円)にまで近づいた市場もある」とシュターデルマン氏は説明する。

こうした状況でとりわけ懸念されるのがイタリア市場だ。イタリアへスイスから輸出するチーズ総量の7割をエメンタールチーズが占めているが、これはエメンタール全輸出量の3分の1にもあたる。

ところがこの最大の輸出国であるイタリアで問題なのは、エメンタールチーズの模造品が非常に多いという点だ。シュターデルマン氏は、「結局、ユーロ安とイタリア国内の長引く不景気もエメンタールチーズの輸出が減少している要因だが、安い模造品がスイスのエメンタールチーズの売れ行きをさらに圧迫している」と強調する。

日本は成長市場

しかしこうした危機的状況にあって、望みがまったくないわけではない。

例えば新たな試みとしてエメンタールチーズ組合は、新製品「ラームタールチーズ(Rahmtal Cheese)」を提案した。これはソフトチーズの人気上昇にヒントを得て研究を重ね、16世紀のチーズを復活させたクリーミーなものだ。「従来の製造量の2割だったら」と製造に乗り出す業者も増えている。

またアジアへの進出にも本腰を入れるという。これまで、未知の新市場開拓は経費がかかるため、結局採算が合わないだろうという不安があったために手つかずだった市場だ。

「日本への輸出量は2010年にはわずか140トンだったが、2011年上半期ですでに2割も増した。これには注目している」と、シュターデルマン氏。

レッツ氏もこうした話を受け、「日本人がチーズを好むとは知らなかった。日本でも我々が作る良質のチーズを食べてもらえるなら、それはものすごく嬉しいことだ」と期待に顔をほころばせる。

エメンタールチーズ

13世紀エメンタール地方に起源を持つスイス最古のチーズ。現在はエメンタール地方以外でも生産され、脂肪分の高いハードチーズに分類される。

チーズ1kgに必要な生乳は約12ℓ。生成過程のチーズは円盤型で、直径80~100cm、高さ16~27cm、重量は75~120kg。熟成が進むにつれ乾燥し軽くなる。

ナッツ風味の「クラシック」や「マイルド」といわれるものが一番好まれ、これらは貯蔵庫で最低4カ月間熟成させたもの。8カ月間以上熟成させ完熟した製品もある。良質のものは3年以上貯蔵が可能。

食感は弾力性があり、見た目は熟成度により象牙色から黄色までさまざま。パンに載せたり、コルドンブル(Cordonbleu、薄切り肉にチーズを挟んで揚げたもの)や、ワインと共にデザートチーズとして食される。粗くおろしたチーズは、グラタンなどの料理に合う。

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模造品との闘い

エメンタールチーズは、従来の製法でフランスやイタリアでも作られる。そうした場合「フランス産」などと表示する義務がある。ところが、こうした方法で作られていないにもかかわらず、エメンタールチーズと表示され市場に出回る模造品も多い。世界市場でのおよそ1割がコピー製品。本物より4割安い模造品がある一方で、本物同様の値段で売るケースもある。イタリアが最大の模造国。

消費者が本物を識別できるようにするため、スイス産農業製品の製造元と品質を保証する制度として「AOC(原産地統制呼称)」があり、厳格な基準が設けられている。

スイス産エメンタールチーズの基準は、1.原料はエメンタール地方(またはルツェルン、フライブルク、チューリヒなどの指定州)の干し草を餌とした牛の生乳、2. 搾乳後24時間以内の生乳を使用、3.添加物は一切使用しない、4.指定された発酵菌を用いる、5.最低5.最低4カ月間発酵させる、など。

さらに連邦農業局研究機関「アグロスコープ(Agroscope)」は、ある乳酸菌をチーズに混ぜて熟成後に検査するDNA鑑定に似たシステムを導入。この検査は2011年夏以降に始まる。

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チーズ輸出量の内訳(2010年)

全体:約6万3608トン(t)

フレッシュチーズ:約4609t

ソフトチーズ:約1747t

ハーフハードチーズ:約1万3246t

ハードチーズ:約3万5397t

その他:約8608t

出典:関税監督局(OZD)

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輸出ハードチーズの内訳(2010年)

全体;約3万5397t

エメンタール:1万9227t

グリュイエール:1万1967t

スイッツァランドスイス:1438t

その他:2476t

出典:関税監督局(OZD)

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