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スイスは本当に為替操作国なのか?

SNBのトーマス・ジョルダン総裁にとって新たな紫煙となりそうだ © Keystone / Eq Images / Christian Pfander

米財務省がスイスを「為替操作国」に認定した。スイス連邦政府はこれを否定している。金融政策の専門家ファビオ・カネッジ氏に現状を聞いた。

このコンテンツは 2020/12/18 09:12
swissinfo.ch

米国は今週、スイスとベトナムを「為替操作国」だと公に非難した。米財務省は半年ごとの報告書で、両国が為替市場を不当に操作したと指摘した。スイス国立銀行(中央銀行、SNB)は真実ではないと反発している。SNBは、外国為替市場への介入は国内経済の競争力を不当に操るためではない、と訴える。

swissinfo.ch:SNBはなぜ、それほど積極的に外貨を購入しているのですか?

ファビオ・カネッジ:危機が発生するたびに、投資家は安全通貨とされるフランに資産を移します。これがフランの上昇、スイスの輸出価格の上昇を招くのです。同時に、国外からの製品やサービスはスイス国内で安くなります。

スイスの輸出価格の上昇、国内価格の下落の両方が、SNBを悩ませています。SNBの使命は経済を支え、国内価格を安定させることにあります。こうした背景から、SNBはフランの過度の高騰を抑えるために、外貨を購入しているのです。

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swissinfo.ch: 米国はなぜ、スイスを「為替操作国」に認定したのでしょうか?

カネッジ:米国政府は、国内総生産(GDP)比2%までの為替市場介入を容認しています。そうするとスイスの場合、許容される外貨購入の上限は年間約150億フラン(約1兆6500億円)になります。SNBは今年、900億フラン以上の介入を行ったため、明らかに上限を超えています。スイスはまた、米国への商品・サービス輸出が輸入を大きく上回っているため、米国から「為替操作国」と認定されたのです。

swissinfo.ch: 背景にある米国の戦略とは?

カネッジ:政治的な動機付けから来ています。「為替操作国」というのは、もともとは中国が人為的に人民元の価値を弱めていたことに対する批判がきっかけでした。目的は、自国製品を米国でより安価に販売できるようにすることでした。SNBの為替市場介入はこれとは全く異なり、スイス製品を国外で過度に安く販売することを目的とはしていません。SNBは、スイス製品の価格が国外で過度に上昇することを防ごうとしているのです。

swissinfo.ch: SNBはこれを予期していたのでしょうか?

カネッジ:はい。SNBは米国の今回の報告書に、十分に備えていました。報告書が出た直後、SNBは今後も、為替市場で積極的に行動していくと公表しました。

swissinfo.ch: SNBが外貨購入を停止しなければならない事態が起きたら?

カネッジ:スイスのインフレ率は、ほぼ1年間マイナスの状態が続いています。つまりSNBの目標範囲外です。このためSNBは、インフレがこれ以上下降線をたどらないようにする必要があります。現在の政策金利がマイナス0.75%のため、金利の引き下げはもはや効果がありません。残る唯一の手段は外貨購入です。SNBが外貨の買い入れを減らすことはないでしょう。

swissinfo.ch: SNBが取りうる代替戦略はあるのでしょうか?

カネッジ:いいえ、ありません。短期的に見ると、スイスの通貨を安定させるためには、SNBが為替市場で必要に応じ積極的に行動することが求められます。そうでなければ、価格が下落し続けるデフレのリスクがあります。

中期的には、米連邦準備制度理事会(FRB)や欧州中央銀行(ECB)と同様に、SNBは金融政策の根本的な見直しを検討する可能性もあります。インフレ目標をより高く設定することで、フランに対する慢性的な上昇圧力を軽減できるでしょう。

swissinfo.ch: スイスにとって、考えられる最悪のケースは何でしょうか?

カネッジ:はっきりしません。最初の一歩としてはスイスと米国の二国間協議でしょう。それから、米国法によるスイスへの対抗措置ですね。どういう措置が発動するかは、スイスがいかにして為替市場介入の必要性を訴え、米国を解き伏せられるかにかかってくるでしょう。この点においては、国際決済銀行(BIS)がスイスを支援しています。「中央銀行の中央銀行」として知られる同機関のアグスティン・カルステンス総支配人は、10月にNZZ(独語圏の日刊紙)のインタビューで、SNBは為替操作国ではないと明言しました。

swissinfo.ch: 強いフランはどれほど深刻な問題なのでしょうか?

カネッジ:強いフランは、輸出品の価格を上昇させ、さらにスイスのインフレ率を低く抑えるため、依然として問題となります。これがスイスの経済発展を遅らせるからです。SNBは定期的に、為替市場で積極的に行動する意志を示しています。ただここ数カ月間は、フラン下落策を何も行っていません。

金融政策エコノミストのファビオ・カネッジ氏は、スイス国立銀行ゲルツェンゼー研究センターのリサーチフェロー。同研究所では、中央銀行職員と国内外の経済学博士課程の学生を対象とした基本・応用教育コースを提供している。

米国の「為替操作国リスト」

米財務省は16日に発表した為替報告書で、スイスとベトナムを為替操作国に認定した。対米貿易黒字の解消などが進まなければ、米国の経済制裁を受ける可能性がある。

米中貿易戦争が緊迫化した2019年8月以降、為替操作国リストに新しく国が加わるのは初めて。

米財務省他のサイトへは、スイスとベトナムが今年6月まで為替市場に介入し、国際収支の効率的な調整を妨げたと批判した。

これを受け、スイス国立銀行(中央銀行、SNB)は同日、為替操作国に認定されても金融政策を変更しないとし、外為市場に引き続き積極的に関与していく姿勢を表明した。

為替操作国に認定されたスイスは、来年米国と特別交渉に当たることになった。問題が解決しなかった場合、米国はスイスに経済制裁を与える可能性がある。

為替操作国の認定要件は▽米国との二国間貿易黒字が200億ドル(約2兆700億円)以上▽過去半年の為替介入額が国内総生産(GDP)の2%を超える▽世界全体に対する経常黒字総額がGDPの2%を超える―がある。

米財務省はまた、ドルに対して不当に通貨を切り下げている疑いのある「監視」対象国に台湾、タイ、インドを加えた。これまでの中国、日本、韓国、ドイツ、イタリア、シンガポール、マレーシアと合わせて10カ国となった。

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(独語からの翻訳・宇田薫)

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