バーゼル美術館に展示されているアンリ・ルソー「詩人に霊感を与えるミューズ」、1909年。
© Keystone / Georgios Kefalas
バーゼル美術館は16日、アンリ・ルソーが1909年に描いた「詩人に霊感を与えるミューズ」の返還要求を拒否すると発表した。現在「公正かつ公平な」補償に向け、元の持ち主の相続人と交渉を進めている。
このコンテンツが公開されたのは、
同館は1940年にシャルロット・フォン・ヴェスデレン伯爵夫人(1877~1946年)からこの作品を購入した。2021年に夫人の相続人が弁護士を通じて美術館に返還を求めたのを受け、美術館の美術委員会が入手経緯を調査した。調査結果を2022年6月に弁護士に報告すると、相続人側は改めて作品の返還を求めたという。
美術館外部リンクによると、フォン・ヴェスデレン伯爵夫人によるルソー作品の売却は、スイスで「略奪品」の売却として扱われる事案の1つ。1933~45年の間にナチスドイツの迫害から亡命した移民による販売は略奪品として扱われ、スイスでも多くの事例がある。
経済的理由の売却でも「略奪」に
ユダヤ人のシャルロット・フォン・ヴェスデレン伯爵夫人はナチスドイツから逃れ、この絵を売った時はスイスにいた。直接の売却理由は経済的なものだが、ナチスの迫害がなければそうした状況に陥らなかった。
美術委員会の報告書は、売却価格が「低額、あるいは不当に低かった」と結論付けた。「仲介業者と美術館館長は少なくとも2万フランが適切であることを知っていた」にもかかわらず、美術館は1万2000フランまで買い叩いた。
1940年当時、公開市場では最高6万フラン、最低でも4万フランで取引されていたとみられる。
「公正・公平」な解決策
美術館は、同作品には賠償の権利がないとみるが、ワシントン原則に従った「公正かつ公平な解決」に向けた交渉を提案している。美術委員会のフェリックス・ウールマン委員長はスイスの通信社Keystone-SDA/ATSに対し、交渉は「妥当な」金額の補償を目指し既に始まっているが、その金額は機密扱いだと語った。
バーゼル美術館と同美術委員会は、ナチスによって没収された美術品に関するワシントン原則を遵守する。略奪品をめぐる紛争は同原則に従って裁かれるべきで、略奪品の返還は可能だがあくまで例外だと主張する。本件の場合、そのような例外は「明白でも正当化されるものでもない」と強調した。
英語からの翻訳:ムートゥ朋子
おすすめの記事
スイス・ニトヴァルデン準州の小学校、スマホ禁止へ
このコンテンツが公開されたのは、
スイス中部ニトヴァルデン準州は5日、スマートフォンをはじめとするIT機器の小学校での使用禁止を発表した。授業目的や緊急時などを除き、全面的に学校でスマホが使えなくなる。
もっと読む スイス・ニトヴァルデン準州の小学校、スマホ禁止へ
おすすめの記事
ジュネーブ国連職員約500人が予算削減に反対するデモ
このコンテンツが公開されたのは、
メーデーの1日、ジュネーブで国連欧州本部職員500人近くが国連の緊縮財政に反対する異例のデモ活動を実施した。
もっと読む ジュネーブ国連職員約500人が予算削減に反対するデモ
おすすめの記事
バーゼルで「カラオケ路面電車」走行 欧州歌合戦に合わせ
このコンテンツが公開されたのは、
5月11~17日の欧州国別対抗の音楽祭「ユーロヴィジョン・ソング・コンテスト(ESC)」開催中、バーゼルでは「カラオケ・トラム(路面電車)」が運行する。ビンテージ車両で90分間かけて街を走る間、乗客は無料で歌い踊ることができる。
もっと読む バーゼルで「カラオケ路面電車」走行 欧州歌合戦に合わせ
おすすめの記事
ジャッキー・チェンさんに名誉豹賞 ロカルノ映画祭
このコンテンツが公開されたのは、
第78回ロカルノ国際映画祭で、香港出身の俳優ジャッキー・チェンさん(71)に生涯功労賞である「名誉豹賞」が贈られることが決まった。
もっと読む ジャッキー・チェンさんに名誉豹賞 ロカルノ映画祭
おすすめの記事
グミベアが躍る「ロボケーキ」大阪・関西万博スイス館で展示
このコンテンツが公開されたのは、
動くクマのグミ、チョコレート味の電池――大阪・関西万博のスイス館では、ロボット工学者とパティシエ、ホテリエが合作した「ロボケーキ」が展示されている。
もっと読む グミベアが躍る「ロボケーキ」大阪・関西万博スイス館で展示
おすすめの記事
スイス外相、大阪・関西万博で結束と対話をアピール
このコンテンツが公開されたのは、
日本を公式訪問中のスイスのイグナツィオ・カシス外相は22日、2025年大阪・関西万博のスイス・ナショナルデーのオープニングセレモニーに出席し、結束と対話を呼びかけた。
もっと読む スイス外相、大阪・関西万博で結束と対話をアピール
おすすめの記事
フランシスコ教皇死去、スイス大統領が哀悼
このコンテンツが公開されたのは、
スイスのカリン・ケラー・ズッター連邦大統領は、21日死去したローマ教皇フランシスコに哀悼の意を表した。
もっと読む フランシスコ教皇死去、スイス大統領が哀悼
おすすめの記事
WEFのクラウス・シュワブ会長が辞任
このコンテンツが公開されたのは、
世界経済フォーラム(WEF)は21日、創設者で会長のクラウス・シュワブ氏が同日付で辞任したと発表した。
もっと読む WEFのクラウス・シュワブ会長が辞任
おすすめの記事
スイス外相、日本と中国を訪問
このコンテンツが公開されたのは、
イグナツィオ・カシス外相は日本と中国を公式訪問する。
もっと読む スイス外相、日本と中国を訪問
おすすめの記事
TIME誌、スイス人弁護士を「最も影響力のある100人」に選出
このコンテンツが公開されたのは、
米誌タイムズの「2025年最も影響力のある100人」に、弁護士コーデリア・ベール氏がスイス人女性では唯一ランクインした。ベール氏は気候訴訟で異例の勝訴判決を勝ち取った人物だ。
もっと読む TIME誌、スイス人弁護士を「最も影響力のある100人」に選出
続きを読む
おすすめの記事
全て「略奪された美術品」?非西欧圏の芸術がたどった道のり
このコンテンツが公開されたのは、
欧州以外の国が原産の芸術作品は、どのような経緯で欧州に持ち出されたのだろう。その究明は、必ずしも容易ではない。キュレーターのエスター・ティサ氏に聞いた。
もっと読む 全て「略奪された美術品」?非西欧圏の芸術がたどった道のり
おすすめの記事
植民地時代の略奪美術品、「返還問題は尽きない」
このコンテンツが公開されたのは、
アフリカのベニン王国から略奪された美術品が、スイスの美術館でも数十年前から展示されていたことが、先月発表された報告書で明らかになった。美術館側は返還に対して前向きだ。
もっと読む 植民地時代の略奪美術品、「返還問題は尽きない」
おすすめの記事
ナチス略奪美術品の返還作業 スイスの歩みは遅く
このコンテンツが公開されたのは、
ナチスに略奪された美術品の出所確認を美術館に求める「ワシントン原則」。スイスも署名しているが、国内での作業の進み具合はまちまちだ。
もっと読む ナチス略奪美術品の返還作業 スイスの歩みは遅く
swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。
他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。