大豆による森林破壊を止められるか

ブラジルは米国に次ぐ世界第2位の大豆生産国 Keystone / Maurilio Cheli

スイスなどに拠点を置く商社が、ブラジルの森林破壊を減らすために大豆の産地を遡って調べる「トレーサビリティー(追跡可能性)」の実験を進めている。果たしてうまくいくのだろうか?

このコンテンツは 2020/07/08 08:30

アマゾンの熱帯雨林について知っている人は多いが、セラードを知っている人はブラジル以外にはほとんどいない。この熱帯サバンナは国土の2割強を占め、アマゾンに次いで南米第2の大きさを誇るバイオーム(生物群系)には他ではみられないような約4800種の植物・脊椎動物が生息する。米国に次ぐ大豆産出国であるブラジルで、生産量の半分はこの地で育つ。スイスのグレンコアを始め多くの商社が、人や動物の食べ物のためにセラード産大豆を調達している。

だがセラードでの大豆生産により、急速な森林破壊が起きている。環境系シンクタンクChain Reaction Researchによると、大豆の生産量が2000~17年に10%増えた結果、推定283万ヘクタールの森林が破壊された。スイスのNGOパブリック・アイは商社に対し、現地への関与を踏まえ森林破壊への責任を負うよう求めている。

「農家と直接やり取りするわけではない食品企業などと比べ、商社は生産者に近い場所にいることが多い」。パブリック・アイのソフトコモディティー専門家、シルビー・ラング氏はこう話す。「どんどん縦のつながりが強くなり、多くの場合は単純なトレーダーや仲介者とみなすことはできなくなった」

セラードまたはブラジルサバンナは、背の低い草原が広大に広がり、ところどころに節くれた木が生えているのが特徴だ Keystone / Eraldo Peres

トレーサビリティーの実験

セラードは生物多様性が豊かでアマゾンよりも保護法制が緩く、作物生産の余力が大きいという条件を兼ね合わせているため、生息地が破壊されやすい。土地の所有者は敷地の最低20%を自然保護区として保存すれば、残りを大豆農地に転換することができる。

それゆえに、セラードは世界の大手商社が力を合わせ、在来植物の農地が大豆プランテーションに転換されるのを防ぐ取り組みで協力する場所としても最適だ。グレンコアやバンジ、アーチャー・ダニエルズ・ミッドランド(ADM)、カーギル、ルイ・ドレフュス・カンパニー(LDC)、中糧集団(COFCO)の加盟するソフトコモディティーフォーラム(SCF)は、セラードで森林破壊リスクの高い25自治体でトレーサビリティーの実験を行っている。これらの自治体から調達された大豆について、生産した農場が分かるかどうかを示す追跡可能率を2020年末までに95%に引き上げるのが目標だ。大豆がどの農場から供給されているかを知ることで、在来種を育てる農地が大豆畑に転じるのを監視しやすくなるとSCF参加社は期待する。

SCF加盟6社は現在、取り扱うブラジル産大豆の6割をセラードから調達している。一部の企業では、SCFが注視する25自治体からその4割を調達している。

「望むべくは、SCFの取り組みが広がるにつれ、現在の重点地域から得た教訓をセラード全体に広げたり、さらに他の地域にも適用したりすることだ」。SCFの広報、ダイアン・ホルドルフ氏はこう話す。

トレーサビリティー実験中の25のハイリスク自治体 Soft Commodities Forum

19年12月にまとめた報告書によると、6社はセラードの25自治体から調達された大豆のうち平均して75%を追跡できるようになった。カーギルの61.8%を除くと、他の企業はいずれも90%を達成している。スイスに本社を置くグレンコアは99.4%だ

大豆独特の課題 

SCFがトレーサビリティーを高めようと努力するにつれ、それを100%に引き上げることの難しさがより明らかになってきた。例えばサプライヤーに継続性がないことだ。農家がある年に大豆を卸す企業は1社のみ。翌年にはより有利な価格で販売できる企業に取引先を変えてしまうため、追跡が複雑になる。

「サプライヤーの売上高は全ての年次作物が抱える現実だ。生産者は価格動向をにらんで年ごとに何を植えるかビジネス的な決定を下せる。これは、買い手と生産者の間が長期契約になることが多いコーヒーやパーム油など多年生作物とは異なる点だ」(ホルドルフ氏)

大豆は、パーム油など他のソフトコモディティーに比べるとはるかに広い土地に小さな畑が点在する。また他の作物と一緒に輪作されることが多く、ある年に大豆が育てられた畑で、翌年には別の作物が作られる可能性がある。このため、大豆生産を衛星で監視するのも、コーヒーなどの他の作物に比べて難しく、費用がかかる。

商社が制御できない経済的要素もある。米慈善団体ザ・ネイチャー・コンサーバンシーが2019年にまとめた報告書は、大豆生産者にとっては、セラードで既に開拓された土地を購入・リースするより、自然の植生で覆われた土地を購入する方が安上がりになると指摘した。

大豆生産を拡大する場合は、長期的には既に開拓された土地の方が投資収益率は高くなる。だがセラードの大半はリース期間が5年で、長期計画は夢物語になる。現在、農家にとっては森林法で定められた2割を超えて自然保護区に定めるインセンティブがほとんどない。多くの人が考えているように、在来植物と重要な生態系を守るには不十分だ。

ホルドルフ氏は、「ブラジルが経済成長を追い求める権利と、自然の植生を保護するために必要な環境とのバランスを取るのは容易ではない」と話す。

SCFは今月、NGOソリダリダード・ブラジルと提携し、持続可能な大豆栽培を農家にとって収益性が高くなるように方策を模索すると発表した。当面の重点地域は、在来植物の変換率が高いマトピバ地域だ。

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政治の風向きが変わる

セラードに焦点を当てるにしても、自治体レベル以上に広げて監視するのは難しい。とりわけ、ボルソナロ大統領がアマゾンや国内のその他の地域を環境保護の対象から外したためだ。

ラング氏は、「多くの農家はボルソナロ氏が土地開拓を支援してくれていると信じている。2008年以降アマゾンの森林を開拓した土地で育った大豆の購入は禁止されているが、この『アマゾン・モラトリアム』を終わらせるよう農家はトレーダーに呼びかけてさえいる」と話す。

皮肉なことに、商品トレーダーがアマゾン・モラトリアムを自主的に守ったことで、大豆生産がセラードに広がってしまった。アマゾン・モラトリアムに従って起草された「セラード・マニフェスト」を承認したトレーダーは一つもない。カーギルは不支持の立場を公言している。

そのため、セラードは今後もブラジルの主要大豆生産地域であり続けそうだ。だがパブリック・アイは、商社が貯蔵や粉砕、食用油やディーゼル製品の生産からインフラ、輸出に至るまでのサプライチェーンの各段階に関与しているため、大豆農家の慣行を左右する可能性が最も高いと指摘する。

トレーサビリティーを重視するラング氏も、大豆を農場までさかのぼって追跡するSCFの作業は、最終的な戦いの半分に過ぎないと考える。

「それは主に、いかに強力な監視・修復メカニズムを作るか、結果に基づいて企業がどんな行動を起こすかに依存している」

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