緑の党がさらに失速 移民問題再燃で保守派優勢
22日投開票のスイス連邦議会総選挙に向けた最新の世論調査によると、緑の党の支持率は10%を割り込んだ。移民問題が再び関心を集めてきたことを追い風に、保守右派はさらにリードを広げている。
環境政党は欧州各国で苦戦しており、スイスも例外ではない。スイス公共放送協会の委託を受けて世論調査機関ソトモが11日発表した第4回「選挙バロメーター」によると、前回2019年の総選挙で大勝した緑の党(GPS/Les Verts)と自由緑の党(GPL/PVL)は今月22日投開票の選挙では大敗を喫すると予測される。
緑の党の予想得票率は9.7%と、前回選挙での得票率を3.5ポイント下回る。これにより、同党は前回選挙で増やした議席の半分を失うことになる。中道・自由緑の党もマイナス1ポイントと失速する。
ソトモの政治学者ミヒャエル・ヘルマン氏は、環境政党の敗北は避けられないとしつつも、「両党は依然として史上2番目に良い得票率を得るだろう」と述べた。
緑の党から流れた票の受け皿となっているのは社会民主党(SP/PS)だ。バロメーターによれば、社会民主党の予想得票率は前回を1.5ポイント上回る。ソトモの政治学者サラ・ビュティコファー氏は「緑の党と社会民主党は連通管のような関係にある。一方が勝てばもう一方が負ける」と説明する。
政治的には対極にある保守右派の国民党(SVP/UDC)は史上3番目の好成績を収める見込みが大きい。予想得票率は前回を2.5ポイント上回る28.1%となった。
中央党(Die Mitte/Le Centre)と急進民主党(FDP/PLR)の第3党争いもなお勝敗がつかない。中央党の予想得票率は14.3%、急進民主党は14.1%と、9月の第3回調査と同様にほぼ拮抗している。7人の閣僚から成る連邦内閣(連邦政府)は上位3政党から2人ずつ、第4党から1人選出する慣行「マジック・フォーミュラ」があるため、この第3党争いの結果は内閣の構成に大きな影響を与える。
国民党の躍進と緑の党の大敗は議会が「やや右傾化」することを象徴する、とソトモは分析する。ただ同時に左派・社会民主党の増勢とリベラル右派・急進民主党の失速も予想されるため、2015年ほど顕著な右傾化は起こらないという。
2023年10月22日投開票の連邦総選挙に向けた世論調査「選挙バロメーター」はスイス公共放送協会(SRG SSR、SWI swissinfo.chの親会社)の委託を受け、世論調査会社ソトモが実施。調査期間は9月22日~10月5日。公共放送協会のポータルサイトまたはソトモのウェブサイト上で、有権者3万1850人から回答を得た。
「保険料ショック」の影響
先月26日に2024年の医療保険料の大幅な値上げが発表されたのを受け、有権者の関心事項の順位が入れ替わった。スイスが直面している主要な政治課題に「医療保険料」を挙げた人は回答者の51%と、前回調査の39%から激増した。ヘルマン氏は「社会問題に取り組む社会民主党を利する」と分析する。
欧州全体で難民問題が再燃するなか、「移民」問題も前回調査より関心度が上がった。回答者の35%はこれがスイスの直面する3大課題の1つだと考えている。調査結果はテーマ設定が有権者の選択に直接的な影響を与えていることも示す。ビュティコファー氏は「この変化は、国民党が勢力拡大した理由を説明する」と話す。
緑の党の支持率低下とは裏腹に、有権者は気候変動を重大問題と考えている。ただその重要性は低下しつつあり、主要政治課題に挙げた人は36%と、前回総選挙直前の42%を下回る。
「地球温暖化が4年前よりも深刻化しているのに、有権者が投票先を決めるうえでの関心は低下している。人々はもはやこの問題に太刀打ちできない、スイスには解決能力がないと考えているのかもしれない」(ヘルマン氏)
在外スイス人の見方
国外に住むスイス人は、国内居住者ほど政治的課題を重視していない。在外スイス人は基礎医療保険への加入義務がないため、保険料の値上げを重要課題とみなす人は論理的には少ない(37%)。年金改革についても同様だ。
在外スイス人が注目するのは外国との関係だ。「独立・主権」や「対EU関係」が関心事項尾上位に上がる。
独語からの翻訳:ムートゥ朋子
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