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クレディ・スイス危機の責任は誰に? くすぶる当局批判

フラン紙幣を取引する手
クレディ・スイスの終焉は、取り付け騒ぎの収集がつかなくなったことが決定打となった Keystone / Martin Ruetschi

スイス金融当局は先月、クレディ・スイスの買収に至るまで過程を検証する報告書を発表した。不始末の責任は誰にあるのか?

2023年3月のUBSによるCS緊急買収は、安全神話に守られていたスイス金融業界のイメージを失墜させる大惨事となった。

2008年の米リーマン・ブラザーズの破綻に比べれば被害は小さかったが、多くの不愉快な疑問を業界に突き付けた。

最も重要な疑問は、なぜ警告信号が見逃されたのかということだ。なぜたった1週間で緊急買収にまで発展したのか?UBSが今後経営問題を抱えたらどうなるのか?

swissinfo.chはこれらの問題に関する証拠を精査し、CS危機における主な「容疑者」の役割を調べた。

容疑者たち

誰もが同意できることが1つある。それはCSの歴代経営者が破綻に至るまでの数年間、ずさん経営を続けてきたということだ。

相次ぐ不祥事や事業不振で投資家の信頼を失い、2022年秋から2023年春にかけ、壊滅的な取り付け騒ぎが発生した。

だが「Too big to fail(大きすぎて潰せない)」銀行の秩序維持に責任を負う国家主体はどうなのだろうか?スイス金融市場監督機構(FINMA)、スイス国立銀行(SNB、中央銀行)、財務省、議員らに非はないのか?

規制当局

FINMAは昨年12月、CS危機を総括する長文の報告書外部リンクを発表した。その内容は次のように要約できる。「我々はできる限りのことを行ったが、真の効果をもたらすためには我々の権限はあまりにも限られていた」

FINMAは罰金を科したり悪役の氏名を公表したり、過剰な報酬の抑制や銀行幹部を懲戒したりする権限を繰り返し要求してきた。

だがロイター通信はFINMAにも非があると報じている。報道によれば緊急買収が決まる約半年前、 FINMAは SNBが提出したCSの国有化案に拒否権を発動していた。

FINMAはその真偽について直接答えていないが、年末の報告書の中で考え方の手がかりをいくつかほのめかしている。

報告書は「一般的に言えば、政府が課す措置よりも民間の解決策の方が望ましい」と述べている。なぜなら、民間ルートは「より適切で、より的を絞った、より適切なもの」だからだ。

だが最終決定は連邦内閣(政府)に委ねられ、連邦内閣は別の道を選択した、と説明した。

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ロイター以外の一部のメディアもまた、 FINMAのマレーネ・アムシュタート理事長が独裁的で、職員に対して過度に厳しいと批判している。2021年に就任したアムシュタート氏は、複数の職員を辞職に追い込んだことでも非難されている。2021年にマルク・ブランソン氏、CS買収から半年後にはアーバン・アンゲルン氏と2人のCEOが辞任した。

社内政治に何があったにせよ、権限拡大を要請中のFINMAを率いるのは暫定CEOだ。

中央銀行

SNBもまた、CSに数千億フランの緊急融資を提供し、UBSによる買収を円滑に進めるために全力を尽くしたと主張している。

他の中銀からUBS買収計画への支持を取り付けるのにも貢献した。

FINMAとは異なり、SNBは権限拡大を求めていない。むしろその逆で、トーマス・ジョルダン総裁は民間銀行の経営破綻への直接関与、特に救済策により生じる損失リスクを限定したいと考えている。

SNBのメッセージは明確だ。緊急資金は提供するが、それは民間銀行自身の資産または納税者の税金が原資とする場合に限る。

SNBは、2022年秋にCS国有化案に対しFINMAが拒否権を発動したというロイター報道についてコメントを控えた。

スイス連邦財務省

CSが買収される直前の数カ月間、2022年末まではウエリ・マウラー氏が、2023年初めからはカリン・ケラー・ズッター氏が財務相のポストにいた。

2人のうち、2016年から財務相を務めていたマウラー氏はCSの腐敗を止めることができた唯一の人物だったとして、最も多くの批判を受けてきた。

マウラー氏は連邦内閣に対し事態の深刻さを隠し続けてきたとメディアで強く批判されている。2022年11月にはCS問題を議論するはずだった会議を中止にしたとされる。

同氏は後に、情報が漏洩し信用を失うことを恐れて、2022年10月に策定した緊急救済計画の詳細を内閣で共有しなかったことを認めた。

マウラー、ケラー・ズッター両氏が2023年10月に連邦総選挙への影響を恐れ、一時的であってもCSの国有化案に反対したという報道もある。

連邦議員

連邦議会に対しては、このような大手銀行の経営危機に対処するための適切な枠組みを構築できなかった点について批判の声もある。

議会は大手銀行の資本準備金を増強するなどいくつかの措置を可決してきた。だが最も必要なときに、「公的流動性バックストップ」と呼ばれる緊急資金を提供する法規が存在しなかった。これは2023年3月に緊急時限立法によって急遽成立した。

議員らはまた、「大きすぎて潰せない」措置の策定を求めFINMAの権限を抑制しようとする銀行ロビイストの意見に耳を傾けすぎたとの批判も受けている。

協調性の欠如

危機のさなか、これらの各当事者がどのように連携したかについても疑問が生じている。

経済誌ビランツのディルク・シュッツ編集長は著書「Zu hart am Wind: Warum die Credit Suisse untergehen musste外部リンク」(仮訳:超逆風―クレディ・スイスはなぜ破綻したか)で、FINMA、SNB、財務省が「それぞれ何よりも自分たちの利益を重視していた」と指摘した。

ドイツ語圏の日刊紙ターゲス・アンツァイガーは社説でこう説いた。「CS危機は関係者が可能な限り透明性をもって対処することが重要だ。だがさらに重要なのは、次の銀行危機において責任を負うことだ。つまりFINMA、連邦財務省、SNBの間の協力関係は改善の必要がある」

スイス銀行協会(SBA)も「連邦財務省、SNB、FINMAの協力を最適化し、危機発生時の責任分担をより明確にすることが重要だ」としている。

事態が制御不能になる前に解決することが重要さを増している。スイスに残るグローバル銀行はUBSのみとなり、その資産規模は1兆6000億ドル(約237兆円)とスイス経済のほぼ2倍だ。

英語からの翻訳:ムートゥ朋子、校正:宇田薫

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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