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マクドナルドで仮想通貨決済も ルガーノ市の挽回策「プランB」

ルガーノ市
© Keystone / Jean-christophe Bott

ソーシャルメディアでは今週、スイス南部ルガーノ市(ティチーノ州)のマクドナルド店舗で仮想通貨ビットコインやテザーでの支払いができると話題になった。同市とテザー社が二人三脚で取り組むフィンテックプロジェクト「プランB」とは何か?

ルガーノ市と米テザー社が共同運営する「プランB財団」が4日、ビットコイン(BTC)やテザー(USDT)、ルガーノ市独自の仮想通貨LVGA外部リンクでの支払いを市内に正式導入すると発表外部リンクした。現時点でマクドナルドやアートギャラリーなど12店舗で使用できる。2023年末には2500店舗以上で使えるように加盟企業を増やしていく。

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プランBは、新興ブロックチェーン企業を誘致し、企業や住民が暗号通貨を受け入れやすくすることを目指す官民共同プロジェクトだ。

スイスではツークやチューリヒ、ヌーシャテルなど他の都市でもブロックチェーン産業の育成に成功している。ツーク拠点の投資コンソーシアム「クリプト・バレー・ベンチャー・キャピタル(CV VC)外部リンク」によると、21年末時点で全国に1千社以上のブロックチェーン企業があり、6千人以上の雇用を生んでいる。

ルガーノ市はこれまでに企業向けブロックチェーンスキームと、市内で使えるトークンポイント「LVGA」を立ち上げてきた。そしてさらに大きな一歩を踏み出そうとしている。

テザーのパオロ・アルドイーノ最高技術責任者(CTO)は「世界のブロックチェーン産業のハブは5~6カ所になると我々は見る。エルサルバドル、マイアミ、ドバイ、シンガポールが台頭してきたが、欧州には今のところ真に重みのあるハブがない。欧州のまさに中心地にある多文化都市として、ルガーノがそれになるかもしれない」と語る(「クリプト・バレー(暗号の谷)」を名乗るツークは異論を唱えるかもしれないが)。

ルガーノ市は「恐れていない」

テザーは米ドルに連動する仮想通貨(ステーブルコイン)で、時価総額は682億ドル(約9兆8800億円)に上る。だがここに至るまでに、規制上問題に直面してきた。

米商品先物取引委員会(CFTC)外部リンクは21年10月、テザー社と姉妹会社の仮想通貨取引所ビットフィネックスに対し、4250万ドルの罰金支払いを命じた。テザーが法定通貨に裏付けされているとの主張は虚偽に当たるというのが理由だった。だがステーブルコインの裏付けとしている金融資産を同社がどう監査するかについては疑問符が残った。マネーロンダリング(資金洗浄)対策を担う国際枠組み「金融活動作業部会(FATF)外部リンク」は、ステーブルコインは不安定であり、金融システムに深刻な脅威をもたらす可能性があると指摘している。

だがルガーノ市のミケーレ・フォレッティ市長は動じていない。今年3月のプランBのお披露目会見で「ビットコインや仮想通貨、ブロックチェーンと言った言葉を多くの人が恐れているが、ルガーノはそうではない」と言い切った。

フォレッティ氏は後に、スイス第3の金融都市であるルガーノは、過去数年間に数多くの銀行スキャンダルが起こったと筆者に話した。「伝統的な銀行業界を巡る評判には問題が後を絶たない。私の見解では、プランBのレピュテーションリスク(評判を落とす恐れ)はここ最近の銀行業界よりも低い」

アルドイーノ氏によると、テザー社は2014年の創業以来、監査と透明性を改善するために尽力してきた。同社はCFTCに対して罪を認める義務はなかった。「ルールを破りたくはない。イノーベーションを起こすとき、画期的なプロダクトが既存の法律で完全にカバーされるとは期待できない。我々は間違いを犯したがすぐに修正した。この空間で健全なアクターになれるよう最善を尽くす」

潤沢な予算

ルガーノ市はビットコインやテザー、LVGAでの税金や他の公共サービスの支払いを可能にすることをスイスの金融規制当局から許可されている。市の財政に仮想通貨が組み込まれるわけではなく、仲介事業者を介して法定通貨のフランに換金する。ツーク州やキアッソ、ツェルマットでも既に採用されている方式だが、ルガーノ市はより広範な納税・公共サービス料金で仮想通貨での支払いを可能にすると豪語する。

例えば駐車違反の罰金や下水道税、墓地税、パスポートの発行料、文化・レジャー施設の入館料、市場への出店料などだ。

プロモーションには多額の予算がつきものだ。プランBはブロックチェーン企業の誘致予算として最大1億フラン、企業への仮想通貨導入支援として300万フランを用意した。

予算は全て、テザーとインド拠点のブロックチェーン企業ポリゴン(Polygon)が中心のおと民間提携企業が出資する。

テザーとビットフィネックスはスイスでの拠点開設を検討中だ。だが金融、規制、コンプライアンスの専門家が潤沢に存在するスイスで、人材発掘に苦労している。このためスイスの大学で学生約500人に奨学金を給付してブロックチェーンの研修受講を促す。奨学金の総額は明らかにしていない。

地元企業に導入を促すカギは

プランBの成否はルガーノ市内の企業や市民の反応にかかっている。これまではビットコイン・スイス(Bitcoin Suisse)と決済インフラのワールドライン(Worldline)が運営する仮想通貨決済システムをごく少数の小売業者が導入するに過ぎなかった。

ビットコインの場合、自分の保有分で来週買えるものが買い物かご1つ分なのか、半分になるのか2つ分になるのかは誰にも分からない。一方ステーブルコインであるテザーは、購買力を一定に保つように設計されている。人々がテザーを信頼することを前提に、この安心感が企業での導入を促す可能性がある。

ルガーノは暗号資産国家を目指すスイスの他地域に比べて後れを取っている。プランBはこの後れを取り戻すための加速装置の役割を期待されている。

ビットコインやテザーはルガーノの法定通貨?

そうではない。ビットコイン(やその他の仮想通貨)やユーロ(など外国の法定通貨)で商品やサービスの対価を支払うことは、取引相手がこの支払い方法を受け入れる限り、違法ではない。

だがそれは仮想通貨や外国通貨がスイスの法定通貨であることを意味しない。この法的な区別を決められるのは連邦当局だけで、州当局ではない。スイス連邦はスイスフランを唯一の法定通貨と定めている外部リンク

例えばスイスのレストランでビットコインやユーロで支払いたいと頼んだ場合、レストランは自由に承諾・拒否できる。だがスイスフランで支払いたい場合はレストランには同意する義務があり、この支払いを拒否することはできない。同じことが全ての商取引、納税、公共サービスの支払いに当てはまる。

英語からの翻訳:ムートゥ朋子

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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