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人手不足と過酷な労働環境でスイス医師らが悲鳴

病院
ローザンヌ大学病院(CHUV)で一息つく医療従事者 © Keystone / Gaetan Bally

スイスの医師を対象に行われた調査で、ストレスの増加、患者の待ち時間の延長、スタッフ不足への懸念といった傾向が浮き彫りになった。 

スイスの医療制度は世界トップクラスで、かつ最も高額だ。しかし人口増と高齢化社会によって限界が見え始めている。医師たちはこの重圧にどう対処しているのだろうか。スイス医師会(FMH)の委託で、研究機関gfs.bernは今年5〜6月、医師1700人に聞き取り調査を実施した。 

スイスは「劇的な」医師不足に直面 

調査に協力した医師の約3分の2(精神科領域では73%)が、有資格者スタッフの不足は「かなり深刻」または「非常に深刻」な問題だと答え、その数値は上昇傾向にある。医師不足は過去10年間安定していたが(調査は2011年から毎年実施)、2020年以降は医師らの回答に2つの傾向が見られる。1つは医師の採用がより困難になってきていると感じていること、もう1つは、病院や診療所で十分なケアを行うのに必要な医師が確保できないという懸念が高まっていることだ。 

FMHは今週発表した声明で、国内では現在、医師約5000人と看護スタッフ約1万5000人が不足していると述べた。国内の教育システムは毎年1300人の有資格医師を輩出することを目標とするが、医療専門家は、特に団塊世代が退職する中でこの数字は不十分だと指摘する。FMHのイヴォンヌ・ギリ理事は今月始め、「劇的な」状況が生まれつつあると語った。 

外国人スタッフに依存 

しかし、これもまたスイスが抱える贅沢な問題なのだろうか?少なくとも現時点で、机上ではそれほど悪い状況には見えない。経済協力開発機構(OECD)によると、2021年のスイスの人口1000人当たりの医師数は4.4人で、先進国の中では上位に位置している。看護師は人口1000人当たり18.4人と、フィンランドに次いで世界で2番目に多い。 

しかし社会の高齢化と団塊世代の退職を乗り越えるには、移民や越境労働者に頼らざるを得ない。医師のほぼ10人に4人が外国人で、その半数強がドイツ人だ。FMHのヤナ・シロカ氏は今週、ドイツ語圏の日刊紙NZZに「いつまでも外国人労働者で空きを埋めるわけにはいかない。高い給料で労働者を引き抜くことは倫理に反する」と語った。 

ストレスと過労で辞職 

急性期医療に携わる医師の約83%が、人手不足が心身の健康に悪影響を及ぼしていると回答した。ストレスで同僚が辞職したと答えたのは70%近くに上った。急性期医療従事者では11%、一般開業医では25%が、今後数年のうちに医師を辞めるつもりだと答えている。後者の多くは退職によるものだが、前者は仕事量の多さと長時間労働が主な理由だ。 

この世論調査では正確な労働時間については尋ねていないが、医療界の過酷労働は今に始まった話ではない。2020年の調査では、半数以上の医師が法定労働時間の上限である週50時間を超えて働いていた。だがgfs.bernの調査によれば、事務作業の負担増が目立っている。1日のうち事務作業などに費やす時間は過去10年間で25分増加し、2.5時間だった。 

患者へのサービスは良いが、待ち時間は長い 

スイスの医療保険の値上がりに対する批判はあるものの、スイスの医療制度そのものは世界トップクラスだ。専門知識や医療機器も一流だと医師たちも答えている。しかし、質を不安視する声はわずかに増えた。精神科領域ではそれが顕著で、質が「良い」または「非常に良い」と答えた医師の数は、2020年の78%から2023年には57%に減少している。 

患者の待ち時間も長くなっている。急性期医療に携わる医師の74%がこれを認め、一般開業医では70%、精神科医では84%がそう答えた。特に病院が顕著だ。急性期医療やリハビリテーション治療では、患者は通常1カ月以内に予約を取ることができるが、精神科医療ではもっと時間がかかる。一方、医師は、このような待ち時間が回復に影響を及ぼすことはあるが、回復を妨げることはまれだとしている。 

解決策は見つかりにくい 

gfs.bernの調査では、問題の解決策については詳しく触れていない。しかし、回答者は近年の医療改革の目玉だった2019年の外来診療プロセス強化と入院患者の負担軽減については概ね肯定的だった。しかし、自身の専門分野に改革がもたらす影響となると、満足度は低下した。 

FMHは引き続き、開業医・専門医養成を強化するため投資拡大を推し進める。だがこれは特効薬ではないという。FMHのフィリップ・エギマン副会長は今週、フランス語圏日刊紙ル・タンに「事務負担の軽減とワークライフバランスの改善が優先課題だ」と語った。エギマン氏はまた、医療費増加の責任が医師にあるという主張に対し、医師の仕事に対する社会的認識がもっと高まってほしいと語った。 

英語からの翻訳:宇田薫 

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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