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日本のインフレ目標達成には利上げが必要 コロンビア大教授

ステファニー・シュミット・グローエ氏とファビオ・カネッジ氏
コロンビア大のステファニー・シュミット・グローエ教授(左)とファビオ・カネッジ氏 Live Fabrik GmbH

米コロンビア大学のマクロ経済学教授、ステファニー・シュミット・グローエ氏は世界有数のインフレ研究者だ。最近の論文では第二次世界大戦前のデータを使いながら、今のインフレがどのくらい長期化するかを考察した。

ドイツ人経済学者ステファニー・シュミット・グローエ氏は30年以上前から米国のインフレを研究してきた。ベルン州ゲルツェンゼーにあるスイス国立銀行(中銀、SNB)の研究所で、日本や世界の物価の見通しについて見解を聞いた。

2008年から続く悪循環

中央銀行の仕事は教科書通りに見れば単純だ。インフレの行き過ぎが予想されれば、中銀は政策金利を引き上げる。

すると銀行からお金を借りた時の利子がかさむことになるため、建設業界などへの発注が減る。やがて企業は値上げをしにくくなり、インフレ率が抑えられるという仕組みだ。

インフレ率が低すぎると、中銀は逆に政策金利を引き下げる。これにより貯蓄した時の利息が減るので、人々はお金を貯めずに使ってしまおうとする。そうなれば、企業は値上げしやすくなる。

だがこうした利下げによる景気刺激効果には限界がある―これがシュミット・グローエ氏が直近の論文で導いた結論だ。金利がゼロに近づくほど、中銀は限界にぶつかりやすいという。

金利が「低すぎる」水準まで下がることはありえない。銀行預金でマイナスの金利がつく、つまり預金者が銀行に金利を支払わなければならないとしたら、誰も銀行に預けたりなどしない。お金を引き出してタンスにしまっておけばいいだけだ。これはまさにスイスで証明された。

いわゆる金利の下限のために中銀がさらなる刺激策を打てなくなると、インフレ率は中銀の目標を下回ることがよくある。

その結果、人々の物価見通し「予想インフレ率」が下方修正される。悪循環の末、超低金利とインフレ率低下の均衡から抜け出せなくなる。これが2008~21年にスイスとユーロ圏で生じた流れだ。

超低金利日本

今はスイスとユーロ圏で再び金利が上昇しているが、日本では状況が大きく異なる。1996年以降、政策金利が0.5%を超えたことはない。2013年に2%のインフレ目標を掲げたが、実際のインフレ率は平均でわずか0.2%だ。

学術界では長い間、日本がインフレ率をどのように高めることができるかという問題に大きな関心を注いできた。

シュミット・グローエ氏の導き出した答えはかなり明快だ。日銀は長い時間をかけて利上げすれば、インフレ率はすぐに再び目標に近づくだろうとみる。

その理屈はこうだ。見た目の金利である名目金利は、インフレ率と実質金利に分解される。教科書的には中銀は実質金利に影響を与えられるとされるが、実は何らかの経済ショックがあった時に短期的な影響しか与えられない。長期的に影響を及ぼせるのは名目金利の方で、これを上げることでインフレ率が追いついてくるといういわゆる「ネオ・フィッシャー理論」に基づく考え方だ。

この作戦が実際に機能するかどうかは大きな議論の余地がある。だがシュミット・グローエ氏は自身が日銀総裁ならこの実験を実行してみると断言した。「市場とのコミュケーションの仕方次第だ。今こそ正常化のタイミングであり、次なるショックに備える必要がある、と説明すべきだ」

現在のインフレは続くのか?

低インフレの問題はあまり語られなくなった。むしろ懸念されるのはその逆で、日本以外の国では物価の急上昇が問題化している。

米国では最大9.1%、ユーロ圏では10.6%、そしてスイスでも昨年のピーク時には3.5%のインフレ率を記録した。その後中銀の利上げが奏功して大幅に低下しつつあるが、警戒を緩めるには程遠い。

シュミット・グローエ氏は直近の論文で、インフレ率の先行きを検証した。それ自体は多くの研究者が試みていることだが、同氏は第二次世界大戦前や約20カ国の戦後のデータにまで遡った。

1945年以降、インフレが大規模かつ持続的に急増したのは1970年代だけだった。だが1900年まで遡ると、1945年までにインフレが短期的に急騰していた期間もあった。

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独語からの翻訳:ムートゥ朋子

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