スイスでは3月に事実上の緊急事態宣言が出され、行政機関である連邦内閣が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策の意思決定権を独占している。立法機関の連邦議会は春期議会を打ち切ったが、間もなく政治の舞台に戻って来る。
このコンテンツが公開されたのは、
5月初めに開かれる新型コロナウイルス臨時議会で、国民の代表たちが再び意思決定権を握る。連邦内閣が緊急措置として決めた政策も、修正することができる。
法律上はいずれも正当性があった。感染症法は、連邦内閣に緊急命令権を与えている。連邦内閣は同法に基づく「異常な状況」を宣言でき、その時点から議会の関与を受けずに統治することが可能になる。連邦内閣は3月16日に「異常な状況」を宣言し、食料品店・薬局など一部を除く商店や飲食店の閉鎖を決めた。
おすすめの記事
おすすめの記事
スイスの「緊急事態」法制
このコンテンツが公開されたのは、
新型コロナウイルスの拡大防止策として、スイス連邦政府は13日、全国の小中学校を休校にし、100人以上が集まるイベントや施設の営業を禁止した。こうした措置は国民生活に多大な影響を与え、経済損失も免れられない。感染症の拡大を防ぐために、スイス当局はどこまで強権を発動できるのか。
もっと読む スイスの「緊急事態」法制
新型コロナウイルスはスイスの民主制度に大きな打撃を与えた。民主主義の必須条件であるチェック&バランス原則や権力の分立、相互監視システムが1日にして効力を失った。議会が自主的に閉会を決めたのは、上院、下院両方の議場が2メートルの社会的距離(ソーシャルディスタンシング)を取るには小さすぎたからだった。
だが危機対応が議会の手を離れて1~2週間もすると、政治学者や一部の議員らから閉会に対する批判の声が出てきた。
立法府は今、こうした打撃から立ち上がり、スイス民主制における政治機関としての役割を取り戻そうとしている。5月4~8日、首都ベルンの大展示場「ベルンエキスポ」でパンデミックを議題にした臨時議会が開かれる。広々とした展示場では議員同士が十分な距離を取れる。
上下両院は臨時議会で、連邦内閣が決めた緊急融資策に必要な予算を承認し、緊急命令として取られた措置を検証。必要があれば修正する。
臨時議会は実に異例尽くしだ。246人の上下院議員が決めた内容は、通常と異なり、法案に対して国民が異議を唱えるレファレンダムの対象にならない。つまり、議会の決定が即発効し、執行に移される。
議会・内閣の緊急権が並行
連邦の法律家たちは「異常な状況」における役人の役割を説明してきた。連邦憲法によると、行政機関と立法機関はそれぞれが並行した権限を持つ。つまり両機関とも緊急事態に指令を発することができるのだ。だが「議会の決めた措置は、連邦の決めた措置に優先する」。
両院の事務局やさまざまな委員会はこれまで、並行・複線的な強制権が生じないよう連邦内閣と対話を重ねてきた。この数週間、行政・執行機関のメンバーの会合が増え、説明要求事項のリストはどんどん長くなった。
各委員会はそれぞれの業務を再開し、多くの勧告を出している。これらに沿って、誤り・不当とみなされる連邦内閣の決定は修正される。
連邦内閣は既にいくつかの修正を決めた。例えばロックダウンによる直接の影響を受けていない個人事業主にも、収入補償を拡大したことだ。スーパーでの食料品以外の商品の販売を解禁する日を延期したのも一つの例だ。当初は27日のロックダウン解除第1弾で解禁するとしていたが、専門店が不利にならないよう、専門店の営業再開と同じ5月11日に延期した。
そのほかの修正案はまだ保留中だ。保育園や家庭内保育事業への助成、2020年の人道支援予算の1億フラン増額、2700万フランの観光業支援、失業保険の追加費用の補てん策などだ。
山積みの提案
各委員会のメンバーは、早期の経済再開に向けて猛プッシュをかけた。連邦内閣に対し、閉鎖された店舗の営業再開を前倒しするよう求めている。公的機関が少しずつ通常業務に戻れるよう体制を整える必要もある。それには、連邦内閣が各州により大きな自由を与えなければならない。
さらに突っ込んだ議案もある。連邦の操業短縮制度を使って補償を受けた企業に対し、今年と来年は株主への配当を禁止する、という案だ。そのほかにも、規約で保険金の支払いを「エピデミック(地域的流行)」に限り、「パンデミック(世界的流行)」を対象外とする保険会社にも、保険金の支払いを命じる案が出ている。
強硬手段も
以上は連邦議会が臨時議会の間に審議したい議案のごく一部でしかない。過半数の賛成を得れば、連邦内閣はそれに応じて決定事項を修正しなければならない。
今までのところ、議会委員会が独自に、つまり連邦内閣と並行して緊急指令を発した例はない。だが上院の経済委員会(WAK)は、議案が否決されれば緊急指令権を発動する意向を示している。
おすすめの記事
おすすめの記事
スイスのコロナ情報 マスク義務再開はなし
このコンテンツが公開されたのは、
スイスは4月1日、新型コロナウイルス感染症に対する全国的な感染対策を全て撤廃した。秋冬の感染再拡大が懸念される中、スイス公衆衛生当局はマスク義務の再開は必要ないとしている。
もっと読む スイスのコロナ情報 マスク義務再開はなし
(独語からの翻訳・ムートゥ朋子)
続きを読む
おすすめの記事
新型コロナの経済損失は最大350億フランか
このコンテンツが公開されたのは、
新型コロナウイルスによる店舗の営業停止などで、「最も楽観的なシナリオ」に基づいた場合でも国内の産業生産に220億フラン(2兆4200億円)の損失が生じると、エコノミストが試算した。3~6月では最大350億フランに上る可能性があるという。
もっと読む 新型コロナの経済損失は最大350億フランか
おすすめの記事
スイスのコロナ対応 企業に無利子で融資
このコンテンツが公開されたのは、
スイスは新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による経済危機から国内の中小企業を救うため、50万フラン(約5700万円)まで無利子で融資する制度を設けた。スイス国立銀行(中央銀行、SNB)も銀行を後方支援する枠組み「COVID-19リファイナンス・ファシリティー(CRF)」を立ち上げた。
もっと読む スイスのコロナ対応 企業に無利子で融資
おすすめの記事
スイスの4.7兆円経済対策に不満の声
このコンテンツが公開されたのは、
スイス連邦政府がまとめた420億フラン(約4兆7千億円)の緊急経済対策は、新型コロナウイルスに苦しむスイス経済の救済には不十分だ、との見方が経済界やエコノミストの間で広がっている。年末までに3倍の額の財政出動が必要だとの試算もある。
もっと読む スイスの4.7兆円経済対策に不満の声
おすすめの記事
スイスの病院が資金難 新型コロナ
このコンテンツが公開されたのは、
スイス国内で、新型コロナウイルスの影響により複数の病院が財政難に陥っていると独語圏の日曜紙ゾンタークス・ツァイトゥングが報じた。病院は財政支援のほか、緊急性のない手術を禁止する政府の措置を撤回するよう求めている。
もっと読む スイスの病院が資金難 新型コロナ
おすすめの記事
スイスのアーティスト向け助成 イベント中止の補償も
このコンテンツが公開されたのは、
音楽家やデザイナーなどスイスでアートを仕事にする人々は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行により減った収入の一部に対する補償を申請できる。
もっと読む スイスのアーティスト向け助成 イベント中止の補償も
おすすめの記事
スイス、失業対策を強化 派遣社員も対象に
このコンテンツが公開されたのは、
スイス連邦政府が新型コロナ危機を受けた経済・金融支援を拡充している。8日は失業を防ぐための短間勤務補償制度の対象拡大や手続きの簡素化を発表した。無利子融資策も倍増。一方、債務取り立て手続きの留保は16日までとし、延長しないと決めた。
もっと読む スイス、失業対策を強化 派遣社員も対象に
おすすめの記事
スイス、3段階でロックダウン解除 まずは生活密着サービス
このコンテンツが公開されたのは、
スイス連邦政府は16日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を防ぐための行動制限を解除する出口戦略を発表した。通常通りスイス観光を楽しめるようになるのは、夏以降になりそうだ。
もっと読む スイス、3段階でロックダウン解除 まずは生活密着サービス
おすすめの記事
介入の手を伸ばす中国、スイスの村にも
このコンテンツが公開されたのは、
新型コロナウイルスと戦う欧州各国に中国から続々と支援物資が届いている。だが欧州では中国への警戒感も漂う。中国がコロナ危機を利用して欧州で影響力を高めようとしている疑念があるからだ。中国が明らかに介入してくるケースは多いが、あまり注目を浴びない。先月初めにもスイス・ヴォー州に中国が介入してきた。
もっと読む 介入の手を伸ばす中国、スイスの村にも
おすすめの記事
仏のコロナ患者受け入れ 支援に動いたスイス
このコンテンツが公開されたのは、
フランス北東部の病院で新型コロナウイルス感染症患者が急増し、地元当局がスイスにSOSを出した。現在、スイスの病院ではフランス側の患者約50人を受け入れている。
もっと読む 仏のコロナ患者受け入れ 支援に動いたスイス
おすすめの記事
スイス慈善団体「幸福の鎖」 コロナ危機で寄付呼びかけ
このコンテンツが公開されたのは、
スイス公共放送協会(SRG SSR)の慈善団体「幸福の鎖」は16日を「連帯の日」と定め、新型コロナウイルス感染拡大で大きな打撃を受けた人を支援する募金活動の締めくくりとする。
もっと読む スイス慈善団体「幸福の鎖」 コロナ危機で寄付呼びかけ
swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。
他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。