スイスの軍事費は1990年以降、国民総生産(GDP)比で減少を続けている
© Keystone / Alessandro Della Valle
スイス全州議会(上院)は2日、軍事費を現在の56億フランから2030年までに70億フラン(約9500億円)に引き上げる予算案を可決した。
このコンテンツが公開されたのは、
国民議会(下院)は先月可決済み。2030年までに少なくとも国内総生産(GDP)の1%に達する見込み。
今回の引き上げは、冷戦終結後の軍縮の流れに逆行している。軍事費は1990年から2019年の30年間で、GDP比1.34%から0.67%に減った。
しかし、ロシアによるウクライナ侵攻で、スイス国内でも国防に関する議論が高まりを見せたことが政治潮流の転換点となった。ヴィオラ・アムヘルト国防相は2日の審議で、軍事費増額により「以前予見されたよりも早い段階で、防衛組織の能力のギャップを埋めることができる」と述べた。
増額分は軍の予算と概括され、毎年国会の承認が必要になるが、現時点では具体的な使途は明かされていない。しかし、アルムヘルト氏は、陸軍の老朽化した装備の交換や、新しいサイバー防衛メカニズムへの投資が必要だと主張している。
左派の反対
左派政党の議員は、予算増額が医療や社会サービスなど他の分野の支出不足につながることを懸念し、反対票を投じた。また、予算の使い道が明確でないことを指摘する声も挙がった。
それに対し賛成派は、軍への投資は国防に不可欠であり、無条件に軍にお金を与えるものではないと答えた。急進民主党(FDP/PLR)のティエリー・ブルカート党首は、むしろ軍に「計画通り進めるための安全保障」を今後数年にわたり与えるものだと述べた。
スイスでは、米ロッキード・マーティンのF-35A戦闘機購入が依然として論争の的になっている。スイスの有権者は20年9月の国民投票で、計60億フランの戦闘機購入計画を超僅差で可決した。連邦政府は戦闘機の調達計画を迅速に進めたい考えだが、左派を中心とした反対派はF-35Aをスイスのニーズに合わない不要な攻撃機と考え、国民投票の再実施に向けて署名活動を行っている。
(英語からの翻訳・大野瑠衣子)
おすすめの記事
スイス・ゲスゲン原発、定期検査後に稼働再開できず
このコンテンツが公開されたのは、
スイス北部デニケン(ソロトゥルン州)のゲスゲン原子力発電所が2カ月近く、発電を停止している。給水配管システムに過負荷がかかっている可能性があり、安全性が証明されるまで発電を再開できていない。
もっと読む スイス・ゲスゲン原発、定期検査後に稼働再開できず
おすすめの記事
欧州人権裁判所、スイスは「セメンヤさんの権利を侵害」
このコンテンツが公開されたのは、
欧州人権裁判所(ECHR)大法廷は10日、スイスが女子陸上五輪金メダリストのキャスター・セメンヤさん(南アフリカ)の権利を侵害したとする2023年の判決を支持した。
もっと読む 欧州人権裁判所、スイスは「セメンヤさんの権利を侵害」
おすすめの記事
スイスの抗生物質開発企業、塩野義と研究・ライセンス契約を締結
このコンテンツが公開されたのは、
抗生物質の開発に特化するスイスの新興バイオ企業ビオヴェルシス(BioVersys)は2日、日本の塩野義製薬と共同研究・独占ライセンス契約を結んだと発表した。
もっと読む スイスの抗生物質開発企業、塩野義と研究・ライセンス契約を締結
おすすめの記事
スイス公共放送協会、大規模な組織再編計画を発表 人員削減も
このコンテンツが公開されたのは、
スイス放送協会(SRG SSR)は政府の予算削減を踏まえた組織再編計画を発表した。4言語圏の放送局のスポーツ、ドラマ、制作、配給、人事、財務、ITサービスなど各部門を縦割りで再編成する。
もっと読む スイス公共放送協会、大規模な組織再編計画を発表 人員削減も
おすすめの記事
スターリンクの衛星アンテナ設置に反対運動 スイス南部
このコンテンツが公開されたのは、
米宇宙企業SpaceX(スペースX)が運営する通信衛星「Starlink(スターリンク)」のアンテナ40基をスイス南部の村に設置する計画に対し、反対する声が上がっている。
もっと読む スターリンクの衛星アンテナ設置に反対運動 スイス南部
おすすめの記事
スイスでは現金のチップが主流
このコンテンツが公開されたのは、
スイスのレストランでクレジットカードやスマホ決済が普及しているが、チップは今も現金で払うのが主流だ。消費者の多くは、チップが確実にスタッフの手元に入るようことを重視している。
もっと読む スイスでは現金のチップが主流
おすすめの記事
プラタナス、猛暑でも冷却効果 スイスの研究
このコンテンツが公開されたのは、
スイスの研究所が新たな研究結果を発表し、プラタナスは猛暑でも冷却効果を発揮することが分かった。樹木の冷却効果は30~35℃で限界に達するという既存の仮説を覆す結果が出た。
もっと読む プラタナス、猛暑でも冷却効果 スイスの研究
おすすめの記事
スイス国立銀行、政策金利ゼロに引き下げ
このコンテンツが公開されたのは、
スイス国立銀行(中銀、SNB)は19日、政策金利を0.25%引き下げて0%にすると発表した。
もっと読む スイス国立銀行、政策金利ゼロに引き下げ
おすすめの記事
欧州外相、ジュネーブでイラン外相と核協議へ
このコンテンツが公開されたのは、
メディア報道によると、ドイツ、フランス、英国の外相は20日、スイス・ジュネーブでイラン外相と核協議を行う見通しだ。
もっと読む 欧州外相、ジュネーブでイラン外相と核協議へ
おすすめの記事
スイス議会、超富裕層への相続税案を否決 対案なく国民投票へ
このコンテンツが公開されたのは、
スイス上院は17日、超富裕層の相続に相続税を課し環境保護の財源にする案を否決した。
もっと読む スイス議会、超富裕層への相続税案を否決 対案なく国民投票へ
続きを読む
おすすめの記事
中立国スイスは欧州の集団防衛に加わるのか?
このコンテンツが公開されたのは、
ウクライナ戦争を背景に、スイスでは軍事協力体制の強化を求める声が強まっている。世界に知られる中立姿勢をどこまで曲げるべきか、国民の間で議論が湧く。
もっと読む 中立国スイスは欧州の集団防衛に加わるのか?
おすすめの記事
スイス、F-35A戦闘機購入へ
このコンテンツが公開されたのは、
戦闘機の調達計画を進めていたスイス連邦内閣は30日、米ロッキード・マーティンのF-35A戦闘機36機、米レイセオンの地対空ミサイル・パトリオット5基を購入すると発表した。
もっと読む スイス、F-35A戦闘機購入へ
swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。
他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。