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同意なき性交、判断基準めぐり割れる意見

プラカードを持って抗議する女性ら
バーゼルの強姦事件の判決に抗議し「明示的同意の原則」の導入を要求する女性ら Keystone / Martial Trezzini

人権団体アムネスティ・インターナショナル・スイスが19日公表した調査結果で、スイス人の約半数が、明示的な同意があった性的行為以外を処罰対象にするべきだと考えていることが分かった。同意のない性交は既に13カ国で犯罪として認められているが、スイスでは判断基準をめぐり意見が割れている。

現在のスイスでは、性交に同意しないというだけでは強制性交にはあたらない。現行法では、暴力や脅迫によって強要された性交のみを強制性交とみなすからだ。そのため、スイスでも刑法見直しの機運が高まっている。しかし、アムネスティから委託を受けた世論調査会社gfs.bernが実施した調査外部リンクで、判断基準をめぐり国民と議会の意見が割れていることが分かった。

調査によると、スイス人回答者の約45%が、性的暴力から身を守るための最適な判断基準として、「『イエス』という意思表示があった場合のみ」合意が成り立つとする「明示的同意の原則」を支持した。

つまり、はっきりと同意を示さない相手と性交を行った場合、強制性交とみなされる可能性がある。

一方、「『ノー』という意思表示があった場合」のみ不同意とする「不同意の原則」を支持したのは、全回答者の27%にとどまった。これは、被害者が「ノー」という不同意を示した場合を刑罰の対象とする。

また、現行法が適切だと考えている回答者は13%だった。回答者の約15%は「無回答」や「意見なし」を選んだ。

根強く残る問題行動

調査によると、「明示的同意の原則」はとりわけ女性、若年層、LGBTIQ(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー、インターセックス、クィア)から高い支持を受けている。自分たちが性的暴力の危険に最もさらされていると考えているグループだ。

また回答者の81%が「相手の同意に配慮している」と答えた。刑法改正には至らずとも、スイスの大多数が既に明確な同意のもと性生活を送っていることが分かった。

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しかし同調査の共同著者であるクロエ・ヤン氏は、問題行動・態度は、主に男性に根強く残っていると指摘する。例えば、ほぼ5人に1人は、過去に1度得た同意が現在も有効だと考えており、10人に1人は、特定の状況下では相手の同意なしに性交してもよいと考えているという。

議会は「不同意の原則」を支持

アムネスティは既に2019年、16歳以上の女性の5人に1人が合意のない性的行為を受けたことがあるという調査結果を公表し、広がる性犯罪に警鐘を鳴らした。

今回の調査では回答者の58%が、連邦議会による刑法改正が必要だと答えている。

アムネスティのディレクターを務めるアレクサンドラ・カール氏も、「性犯罪に関する刑法は、性暴力の危険に最もさらされている人々の現実とニーズに基づくものでなければならない。スイスには『同意の原則』に基づく刑法改正を期待している」と賛同する。

だが連邦議会は、カール氏の期待通りには進んでいない。議会の法務委員会外部リンクおよび連邦内閣外部リンクは、「同意の原則」ではなく「不同意の原則」の導入を目指す。国民議会(下院)は夏会期中に意見を表明する予定だ。

「不同意の原則」は最新の科学的研究外部リンクを考慮していない。被害者は7割のケースにおいてショック状態にあり、抵抗不能だったことが分かっている。

「明示的同意の原則」は、ドイツ、ルクセンブルク、ベルギー、英国、スウェーデンなど13カ国で既に認められている。スイスの刑法改正は性暴力の撲滅につながるのか?アムネスティで女性の権利を専門に担当するシリエル・ユグノー氏は、「これまでのところ、これらの新しい法律の影響を調査した研究はほとんどない」と言う。

しかし、スウェーデンで行われた大規模な調査外部リンクでは、合意形成の導入がもたらすプラスの効果が評価されたと言う。「2018年の新法施行後、苦情を申し立てる人が大幅に増えたことなどが明らかになっている」(ユグノー氏)

(英語からの翻訳・大野瑠衣子)

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