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国連人権理が中国を審査、試されるグローバル・サウスの連携

国連人権理事会のUPR(普遍的・定期的レビュー)の審査期間中、国連欧州本部前で抗議活動を行う中国の少数民族ウイグル人とチベット人。2018年、ジュネーブにて撮影
国連人権理事会のUPR(普遍的・定期的レビュー)の審査期間中、国連欧州本部前で抗議活動を行う中国の少数民族ウイグル人とチベット人。2018年、ジュネーブにて撮影 © Keystone / Salvatore Di Nolfi

ジュネーブの国連人権理事会で、中国の人権状況が国際社会から検証されている。オブザーバーたちは今後2週間、どの国、特にグローバル・サウス(新興国・途上国)の国々が、中国新疆ウイグル自治区における人権侵害の疑いに関する2022年の国連報告書に焦点を当てるのかを注視するだろう。

中国が、国連加盟国が人権状況を調査する第4回普遍的・定期的レビュー(UPR)による審査を受けている。約5年ごとに実施されるこの審査は、各国の人権状況が国際社会により評価されることを保証する唯一の仕組みだ。

期間は22日から来月2日。全国連加盟国193カ国は、人権状況の改善を促す勧告を中国当局者と共有する機会を得られる。だが勧告には拘束力がなく、履行するかは中国政府の裁量に委ねられる。

2018年の前回UPR以降、状況は大きく変わった。過去5年間で中国政府はチベット自治区、香港、新疆ウイグル自治区における抑圧的な政策に関し、国連、専門家、NGOからの批判を浴びてきた。

ジュネーブ拠点のNGO、人権のための国際サービス(ISHR)で中国・中南米諸国を担当するプログラムマネージャーのラファエル・ビアナ・ダビッド氏は「UPRは中国、特にウイグル自治区における人権問題に対する国際的な懸念の熱量を知る重要な試金石となるだろう」と話す。

同氏はウイグル自治区におけるイスラム教徒の少数民族に言及した。同自治区についてはミチェル・バチェレ前国連人権高等弁務官が任期終了直前の2022年8月に公表した報告書で、中国政府による抑圧的な政策が強調されていた。

バチェレ氏は報告書の内容に反対する国々(主に中国)と公表を求める関係諸国からの圧力を受け、公表が長らく遅れていた。報告書は、中国政府によるウイグル人の処遇は「人道に対する罪」に相当する可能性があると結論付けた。中国の外交官が「違法で無効」と主張するこの評価は、国連機関で公式に議論されたことはない。

「国連加盟国がUPRの報告書の勧告に同調することは重要だ。これは報告書が国連機関により発行されたあらゆる文書と同様に重要だというだけではなく、正当であると国際社会に喚起するからだ」とダビッド氏は話す。

先進民主主義国を中心とするグループは2年前、人権理事会で報告書に関する討議を試みた。だが47カ国で構成される人権理事会は投票の末、僅差でこれを否決した。

政治的影響力

一部のアナリストは、世界情勢が変化し、4回目のUPR実施を迎えるにあたって中国が強気の姿勢に出ているとみる。特に中国と経済的な結び付きが強く、国連の場で中国と対立し関係の悪化を恐れるグローバル・サウス諸国(例えば中国が提唱した広域経済圏構想、一帯一路など)からの批判は封じ込めが可能とみられるためだ。

ジュネーブ拠点のシンクタンク「ユニバーサル・ライツ・グループ」のディレクター、マーク・ライモン氏は「近年の中国の覇権と影響力の伸長は著しい」と指摘。中国が「非常に防衛的な戦略」から脱却し、「非常に積極的かつ建設的なプレーヤー」としての地位を獲得したことで、アフリカ諸国、中南米諸国と西側の民主主義諸国の間で「心をつかんでいる」との見方を示す。

例えば国連理事会では、フランスや英国などの国々を対象とした植民地主義に関する決議案を取り下げ、不平等に関する対立を軽減する決議案の推進に成功した。

一方、中東での戦争は、一部の西側諸国が人権に関してダブルスタンダードを適用していることを浮き彫りにした。ライモン氏は「北欧で起きたイスラム教の聖典コーランが焼却された事件への対応など、他の問題と同様、グローバル・サウスの国々は激しい憤りを感じている」と話す。また、UPRの実施にあたり、中国の地政学的な敵対国が「比較的弱く」見えるのに対し、中国は非常に強気で臨んでいるように見えるとも付け加えた。

だが人権NGOは、ウイグル自治区に関する国連の報告書の主要な調査結果について加盟国が発言し、適切な勧告を行うことを望んでいる。ISHRのダビッド氏は「中国政府はUPRを、自国を支持してくれるか、対決するかのどちらかの過程として捉えようとしている。だがこれは誤ったアプローチだ。UPRはまさにそういった二極化や政治化に対処するために創設された」と言う。

ロイター通信は22日、中国の在ジュネーブ国際機関代表部が各国代表部に送付したメモを通じ、中国政府が非西側諸国に対し、同国の人権状況を前向きに評価するよう働き掛けていたと報じた。外部リンク

審査は変化につながるか?

UPRで提示された勧告は、実際に具体的な政策に変化をもたらすだろうか?「もし中国政府が問題の存在を認めようとしなければ、審査は建設的な役割を果たさず、変化を促す勧告は実行されないだろう」とダビッド氏は予想する。

2018年の審査では、中国政府は346の勧告のうち、284を受け入れた。中国外交部の楽玉成外務次官(当時)は当時の理事会の演説で、この過程を「順調で成功した」ものと評価した。

だが加盟国からの勧告は内容が精査されず、各国はいかなる措置であっても自由に提言ができる。UPRは各国が国際舞台で注目を集める機会でもある。

例えば2018年、中国寄りのハンガリーはグループの特定はしなかったものの、中国は「脆弱なグループの権利擁護を続けている」と支持した。中国の同盟国であるイランは、中国は「自国の政治体制と自国民が選んだ発展の道を守る」と断言し、中国共産党の声明に同調した。

「各国は国連の人権関係機関が発行する膨大な量の文書に基づいた勧告をするべきだ」とダビッド氏は主張する。「だが必ずしもそうではない。一部の国は他国を動員し、時には自国に友好的な勧告を行うように圧力を加えるなど、政治的資本を用いる」

しかし、もし適切な状況下であれば、国際舞台での支持を得られないと認識した場合、中国は人権政策の改善の圧力を感じるかもしれない。「これは西側諸国だけではなく、グローバル・サウス諸国の政府が行う勧告の強さによるだろう」とダビッド氏は言う。

中国政府が勧告の実施を拒否すれば、同国が国連の人権関係機関に協力していないという見方が裏付けられる可能性がある。米ワシントン拠点のNGO「中国人権擁護者ネットワーク」のレニー・シア氏とウィリアム・ニー氏はニュースサイト、ザ・ディプロマットで「このような証拠は国連人権理事会が、ウイグル自治区の調査や、中国の加盟国としての適性を問う投票を実施する際の参考材料となり得る」と主張した。

ライモン氏は「UPRが今日どれほど有効であるかについては、本当に疑問がある」ことを認めている。以前の審査では、実施がより容易な措置を扱う勧告が出されていた。だが最近は、提案は当該国が望まない変化を求める傾向がある。「UPRは無意味ではないが、中国や米国などの重要な国が関係すると、政治的な舞台になりつつある」

編集:Virginie Mangin、英語からの翻訳:吉田公美子、校正:宇田薫

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