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素粒子物理学 次世代加速器ILC、CERNを通り越し日本で建設か?



次世代巨大加速器ILCの完成予想図

次世代巨大加速器ILCの完成予想図

今、注目を浴びる巨大加速器「国際リニアコライダー(ILC)」。これは、ジュネーブにある欧州合同原子核研究機関(CERN)のLHCの次世代加速器として、日本での建設が有力視されている。しかし、これでCERNの存在意義が失われるわけではない。素粒子をめぐる最後の謎は、今後も国際的に解明していくものだからだ。

 ILCは計画上はすでに出来上がっている。約100の大学や研究所から千人以上の学者や技術者が10年の月日をかけて作成した計画書が、将来加速器国際委員会(ICFA)に今年6月中旬に提出された。それにちなんだ式典は、東京、ジュネーブ、シカゴという素粒子物理学の中心地でビデオ中継を通して行われた。

 全長31キロのILCは、現在稼働中の円形のLHCとは異なり、互いに向き合った二つのまっすぐな加速器で構成されている。真ん中に設置されている測定器の内部では、高エネルギーの電子と陽電子のビームがぶつかりあう。最大稼働時の衝突回数は毎秒7千回。ビームは200億個の粒子がまとまった「バンチ」と呼ばれ、髪の毛の幅よりもずっと小さい。そのため、衝突の密度が非常に高くなる。

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チェリーパイ、チェリーの種、暗黒物質

 電子と陽電子の衝突は、すでにCERNのLEPで行われている。LEPはLHCの旧モデルとして2000年まで稼働していた加速器で、衝突時のエネルギーが209GeV(ギガ電子ボルト)に抑えられていた。次世代加速器ILCでは最大稼働時に最大1000GeVが可能になる。

 しかしエネルギーだけがすべてではない。ILCの大きな利点は、はっきりした結果が得られることだ。現在のLHCでは、たくさんの小さい素粒子からできた陽子同士が衝突するが、ILCでなら素粒子である電子と陽電子が使用されるため、正確なデータが得られる。

 ある日本人物理学者が使っている人気の絵で例えて言うなら、LHCでは加速したチェリーパイ同士がぶつかる。すると生地、砂糖、チェリーがごちゃまぜになる。運が良ければ、二つのチェリーの種が互いにぶつかり合っている様子を観察できるかもしれない。一方、ILCではチェリーの種同士しか衝突しない。

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 研究者が発見したいものは何だろうか?あの有名なヒッグス粒子ではない。LHCですでに発見されたからだ。そのときのエネルギー量は126GeVだった。次世代加速器は、すでに発見されている粒子を生成できるばかりか、粒子同士の相互作用も研究できる。

 そればかりではない。「ILCの利点の一つに、ヒッグス粒子が暗黒物質へと崩壊する過程を観察できることがある」と、パリ第7大学の物理学者でILC欧州委員会メンバーであるフランソワ・ル・ディベルデールさんは話す。電子と陽電子が衝突すると粒子が崩壊し、同時にZ粒子とヒッグス粒子が生成されるが、両方ともすぐに崩れてしまう。「だが、観察できるのはZ粒子の崩壊だけ。生成される粒子の動きのエネルギーと量を測定し、それを基に、目に見えない質量を導く。エネルギーが126GeVであれば、それはヒッグス粒子が不可視の粒子に崩壊することを示す証拠になる」

 こうした研究結果が、物理学と天文学の大きな謎を解く始まりとなる。目に見える「普通」の物質は、宇宙の構成要素のたった4%に過ぎない。22%は暗黒物質、74%は暗黒エネルギーだ。暗黒物質については、それが粒子でできているという仮定を裏付ける十分な理由がある。

 しかし、暗黒エネルギーにいたっては「全くミステリアスだ」と、ル・ディベルデールさんは言う。素粒子物理学の枠でどんなに説明を試みても、うまくいかない。この謎を解明するのはILCの役割りではないが、「驚きの発見がないとは言い切れない」。

最有力候補の日本

 「新しい加速器がここで建設される見込みは絶望的だ」と、CERNのジェネラルディレクター、ロルフ・ディーター・ホイエルさんは語る。「我々はLHCで手一杯だ。ILCを妥当な期限内に建設出来る国は一つしかない。日本だ」。日本政府は十分な資金を集めるつもりだが、見積もり費用は80億フラン(約8700億円)にも上る。

 日本の候補地には東北の北上山地が挙がっている。他にはドイツ、ロシア、米国が候補にある。最終決定が下されるのは2015年。次世代加速器の運営がどのような団体に任されるのかもまだ分からない。ホイエルさんは言う。「一つだけ確かなことがある。それは、運営団体は国際的、または世界的な団体だけに限られるということだ」

CERNはCERNのまま

国際リニアコライダー(International Linear Collider/ILC)は2025~2030年の間に稼働開始できる見込み。その場合、ILCは欧州合同原子核研究機関(CERN)で現在稼働中の大型加速器LHCの後続モデルとしてではなく、LHCを補完する設備として利用される。「(素粒子の研究は)宇宙物理学に似ている。ここでは、可視化の光が観察できる望遠鏡、赤外線望遠鏡、紫外線望遠鏡、電波望遠鏡を用いて天体を観察する。全体を把握するのに、すべての装置が必要だ。我々素粒子物理学者の場合、似たような疑問を様々な加速器が検証する。ただし他の観点からだ」と、CERNのジェネラルディレクター、ロルフ・ディーター・ホイエルさんは説明する。

日本が建設候補地のILCが大きく注目されているが、CERNの今後はどうなるのだろうか?「CERNの学者や技術者にあまり変化は起きないだろう」と、ホイエルさん。「我々はここからILCの実験に参加し、データ分析を行い、次の加速器に取り組む」

実際、素粒子物理学の専門家らはすでにILCの後続加速器に着手している。加速器の技術開発だけでなく、LHCから今後15年間送られてくる実験結果の分析も担う。

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カーブではなく直線の理由

粒子はLHCではカーブで、ILCでは直線のトンネルの中で加速される。粒子がカーブで加速されると、光を放出してエネルギーを失う。加速が増すにつれ、光は強くなり、輝度は最大で太陽光の1万倍に達する。

この光の放出はシンクロトロン放射と呼ばれる。放出光は粒子の質量と反比例し、エネルギーは4剰。つまり、粒子が重くなるにつれ、カーブで失われるエネルギーは少なくなる。陽子はシンクロトロン放射で失われるエネルギーがかなり少ないため、カーブでの加速は合理的だが、陽子よりもかなり軽い電子の場合、直線的な加速器の方が効率的だ。

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(独語からの翻訳・編集 鹿島田芙美), swissinfo.ch


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