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蚊に刺されなくなる日

ハマダラカ ( Anopheles、アノフェレス ) のメスが人の血液を吸って寄生虫マラリア原虫を媒介する。血液を吸うとき、ほかの蚊はほぼ水平状態であるのに対し、この蚊は頭を下げ後部を高く持ち上げ、体を斜めに保つのが特徴 Keystone

蚊が人間の体臭や汗に魅かれ人に近づくことは分かっていたが、今回ヌーシャテル大学動物生理学科の研究グループはそのメカニズムを解明した。

このコンテンツは 2010/03/19 15:25

実は、蚊の触角内のタンパク質が人間の汗などの分子とピタリと融合して触覚内を移動。その後この分子が嗅覚神経を刺激するため蚊がヒトに近づくのだ。次の課題は汗に取って代わり蚊を引き付ける物質の究明だ。

マラリア撲滅のために

「蚊が人間の汗や体臭よりもっと魅力的な物質に魅かれそれを吸いこんだら、匂いで満腹状態になりヒトには寄りつかなくなる。こうした反応を起こさせる物質をこれから探求していく」
とヌーシャテル大学動物生理学科のトマス・クレーバー教授は話す。最終的には、植物性油などの中から蚊の触角内にあるタンパク質と「融合力が良すぎる位に良い」物質を見つけ、その化学合成物を大量生産して、スプレーなどにする。

この研究は、1年前にスタートしたヨーロッパ10カ国とアメリカが参加するマラリア撲滅のための「マラリアを媒介する昆虫の嗅覚に関する欧州研究ネットワーク ( ENAROMaTIC ) 」の一環で進められている。

ヌーシャテル大学の同研究課はヒトの血液を吸う昆虫、マダニや蚊を専門に100年前から研究を続けており、昆虫が血液をなぜ吸うのかというメカニズムや吸われないための予防も研究してきた。

蚊がヒトに近づくメカニズム

3月5日にオープンアクセスの科学雑誌「プロス・ワン ( PloS One ) 」に掲載された論文には、蚊の触覚内にあるタンパク質が、ヒトの汗や体臭が含む脂肪の分子とピタリと融合し、その分子が触覚内のほかのタンパク質に伝えられる、最終的にこの分子が嗅覚神経にサインを送るため、蚊がヒトに近づくというメカニズムが発表されている。

このメカニズムがヌーシャテル大学の研究がスタートして僅か1年という早さで解明されたのは、2004年にノーベル賞を受賞した研究「RNA干渉」の発見のお陰だという。人体の6割はタンパク質で構成されているが、細胞内のDNAにある遺伝子情報は、これらのタンパク質を作るための設計図の役割をする「mRNA ( messenger RNA ) 」に転写され、この設計図によってタンパク質ができる。RNA干渉とは、そのタンパク質合成をほかのmRNAが阻害する現象を指す。

具体的に今回の研究では、ヒトの体臭とピタリと融合する蚊の一つのタンパク質 「タンパク質 OBP1」に焦点を合わせ、その合成を促すmRNAと同じmRNAの短くしたものを蚊の体内に注入すると、これがもともとあるmRNAと融合して、タンパク質OBP1の合成を阻害してしまう。

こうしてタンパク質OBP1がなくなった蚊は、ほかの匂いには反応しても、タンパク質OBP1と結び付く匂いにはまったく反応しなかった。

1980年代頃から、蚊がヒトに近づくのは、触覚内のタンパク質が体臭や汗と結び付くからではないかとの予測はあったが、今回一つのタンパク質を消去することで、初めてこの事実が証明されたことは大きな成果だという。

蚊を引き付ける主な物質は10種類

「体臭や汗と直ちに結び付くタンパク質は約70種類ある。つまり蚊が反応する匂いも70種類あるということだ。しかし、ヒトの汗、体臭など蚊の接近に関係する重要な物質は約10種類に絞られる」
とクルーバ氏は言う。

蚊が匂いに魅かれヒトに接近するメカニズムが分かった今、次のステップは、この蚊にとって「魅力的過ぎるほどに」タンパク質との融合性が高い10種類の匂いを自然界の植物油などの中から探し出す作業だ。

このプロセスには、アメリカの研究チームが貢献した。まず、蚊の触角内の一つのタンパク質を人工的に作り、それに色を付け、さまざまな匂いや匂いに近いほかの物質を混ぜる。タンパク質の色が変わった場合、混ぜた物質が融合する物質だと判断でき、求める適合物質の選別が行われた。

こうした方法で今後探し出される、蚊を引き付けるおよそ10種類の物質は、化学合成物として大量生産され、スプレーや蚊帳などに取り付けられる。すると蚊はそちらの方に引きつけられ、まったくヒトを刺さなくなると期待されている。

ただマラリア撲滅については
「もちろん、この物質を生産するだけでうまくいくとは思っていない。マラリアに対する子ども用のワクチンが今度タンザニアで試験的に使われるが、そうしたさまざまな方法が組み合わさって成功する」
とクルーバ氏は慎重だ。

スイスがこうした研究に参加したのは、スイスの大手医薬品会社「ノバルティス ( Novartis ) 」がマラリアのワクチン開発を行っているという背景や、また経済的にもアフリカ諸国のマラリア撲滅に協力できるだけの資金があるからだという。

里信邦子( さとのぶ くにこ) 、swissinfo.ch

マラリア

マラリアは、熱帯・亜熱帯地域に広く分布する感染症で、世界100カ国以上の国で流行している。
全世界で、1年間に100万人以上が死亡し、そのほとんどはサハラ以南のアフリカ地域。アジアでも、インド、スリランカ、パキスタン、インドネシア、マレーシアなどで流行している。
先進国では過去の感染症になりつつあるが、海外旅行者の発症も年間で1万~3万人程度いる。
マラリアは、マラリア原虫による感染症。マラリア原虫を媒介するハマダラカのメスに吸血されることで感染。
原虫の種類によって、熱帯熱マラリア、三日熱マラリア、四日熱マラリア、卵型マラリアの4種類に分類される。
スイスでは、第2次大戦以前まで存在した。特にティチーノ州の兵隊たちの間に流行した。現在でもイタリアなどから感染が起こる可能性がわずかながらある。

( 出典 : 厚生労働省検疫所のマラリアのサイト及び世界保健機構WHOなど)

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マラリアを媒介する昆虫の嗅覚に関する欧州研究ネットワーク ( ENAROMaTIC )

アメリカを含むヨーロッパ10カ国が協力し、マラリア撲滅に協力する。
目的は、ハマダラカのメスが人間の体臭を感知するメカニズムを解明し、吸血させないようにすることで、マラリア原虫の媒介を妨げること。
2009年にスタートし、4年計画で進められている。

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