専門家の調査で、氷河を覆う雪の量は過去10年間の平均を約30%下回っていることが分かった。地域によっては50%も不足しているという
© Keystone / Mayk Wendt
スイスの氷河モニタリングネットワーク(GLAMOS)の調べで、氷河を覆う雪の量が過去10年間の平均を約30%下回っていることが分かった。
このコンテンツが公開されたのは、
GLAMOSの代表で氷河学者のマティアス・フース氏は、ドイツ語圏の日刊紙ターゲスアンツァイガー日曜版に対し「スイスの氷河は2年連続で危機的な状況にある」と述べた。
GLAMOSは毎年4月、およそ15カ所の氷河を対象に、積雪量を測定している。今年は初めて、ヴァレー(ヴァリス)州シュトラールホルンの標高4千メートルを超える地点で測定を行った。シュトラールホルンでは、強風が氷河の上に積もった雪を吹き飛ばしてしまっていた。
フース氏は「標高4千メートルの場所でさえ、冬が終わる頃には雪がなくなっている。氷河にとっては深刻な状況だ」と警鐘を鳴らす。
調査では氷河を覆う雪の量は過去10年間の平均を約30%下回っていることが分かったが、地域によっては50%も不足しているという。
フース氏はAFP通信社に対し「今年は記録的な量の氷河が融解した2022年とかなり似た状況だ」と語った。「雪はもうほとんどなくなっている。すべての地域で2022年ほどの劇的な変化が起こっているわけではないが、平均を強く下回っているのは確かだ」
消えゆくスイスの氷河、2022年は「壊滅的」
「これらが示すのは、これから来る夏の前提条件が悪いということ。だが、今年の夏に再び記録的な融解が起こるかは分からない」。すべてはこれからの気温次第だ。
「気候変動の象徴」
氷河を覆う雪の存在は重要だ。夏の間の氷河に「栄養を与え」、氷河を覆い保護する役割を担う。
国連の世界気象機関(WMO)によると、2015~2022年までの8年間は記録上、最も気温が高かった。2022年、スイスの氷河の体積は6%以上消失し、過去最大の融解を記録した。氷河が大きく後退した理由には、冬から春にかけての積雪が少なかったこと、3月~5月に飛散したサハラ砂漠の砂が氷や雪に沈着し太陽の熱が吸収されやすくなったこと、夏の異例の猛暑で気温が記録的に上昇したことが挙げられる。
フース氏は、氷河の消滅は「気候変動の象徴」だという。スイスでは6月18日の国民投票で、気候変動対策を盛り込んだ新法への是非が問われる。「地球の気温上昇を1.5度または2度に抑えることができれば、アルプスにある氷河の体積の3分の1を保存することができる」。
英語からの翻訳:大野瑠衣子
おすすめの記事
スイス政府、相互関税で米国との協議継続を表明
このコンテンツが公開されたのは、
米国がスイスに課す39%の「相互関税」をめぐり、スイス政府は4日、米国との協議を続け「より魅力的な提案をする」と表明した。
もっと読む スイス政府、相互関税で米国との協議継続を表明
おすすめの記事
トランプ政権、スイスに39%の相互関税を発表
このコンテンツが公開されたのは、
米国はスイスに課す相互関税率を39%と発表。スイス政府は「大変遺憾に思う」と表明した。
もっと読む トランプ政権、スイスに39%の相互関税を発表
おすすめの記事
スイス銀行の顧客を騙した英国人留学生に有罪判決
このコンテンツが公開されたのは、
スイス銀行を狙った口座乗っ取り事件で、英国で刑事告訴されていた英国人学生(21)に禁固7年の有罪判決が言い渡された。スイス連邦検察庁によると、学生はスイスの銀行顧客から約240万フラン(約4億4000万円)を騙し取った。
もっと読む スイス銀行の顧客を騙した英国人留学生に有罪判決
おすすめの記事
温暖化でスイスがオリーブの名産地に?
このコンテンツが公開されたのは、
スイス西部のフランス語圏は温暖化によりオリーブの木を育てやすくなっている。生産者らは2026年には栽培本数が2万本に倍増し、南部のイタリア語圏ティチーノ州を追い抜くと見込む。
もっと読む 温暖化でスイスがオリーブの名産地に?
おすすめの記事
アルプスに新しい巨大地上絵が登場
このコンテンツが公開されたのは、
世界各地で巨大な地上絵を描くアーティストのSAYPE(セイプ)さんが、スイス南部ヴォー州のアルプス山頂に新作を完成させた。
もっと読む アルプスに新しい巨大地上絵が登場
おすすめの記事
スイス・ゲスゲン原発、定期検査後に稼働再開できず
このコンテンツが公開されたのは、
スイス北部デニケン(ソロトゥルン州)のゲスゲン原子力発電所が2カ月近く、発電を停止している。給水配管システムに過負荷がかかっている可能性があり、安全性が証明されるまで発電を再開できていない。
もっと読む スイス・ゲスゲン原発、定期検査後に稼働再開できず
おすすめの記事
欧州人権裁判所、スイスは「セメンヤさんの権利を侵害」
このコンテンツが公開されたのは、
欧州人権裁判所(ECHR)大法廷は10日、スイスが女子陸上五輪金メダリストのキャスター・セメンヤさん(南アフリカ)の権利を侵害したとする2023年の判決を支持した。
もっと読む 欧州人権裁判所、スイスは「セメンヤさんの権利を侵害」
おすすめの記事
スイスの抗生物質開発企業、塩野義と研究・ライセンス契約を締結
このコンテンツが公開されたのは、
抗生物質の開発に特化するスイスの新興バイオ企業ビオヴェルシス(BioVersys)は2日、日本の塩野義製薬と共同研究・独占ライセンス契約を結んだと発表した。
もっと読む スイスの抗生物質開発企業、塩野義と研究・ライセンス契約を締結
おすすめの記事
スイス公共放送協会、大規模な組織再編計画を発表 人員削減も
このコンテンツが公開されたのは、
スイス放送協会(SRG SSR)は政府の予算削減を踏まえた組織再編計画を発表した。4言語圏の放送局のスポーツ、ドラマ、制作、配給、人事、財務、ITサービスなど各部門を縦割りで再編成する。
もっと読む スイス公共放送協会、大規模な組織再編計画を発表 人員削減も
おすすめの記事
スターリンクの衛星アンテナ設置に反対運動 スイス南部
このコンテンツが公開されたのは、
米宇宙企業SpaceX(スペースX)が運営する通信衛星「Starlink(スターリンク)」のアンテナ40基をスイス南部の村に設置する計画に対し、反対する声が上がっている。
もっと読む スターリンクの衛星アンテナ設置に反対運動 スイス南部
続きを読む
おすすめの記事
2050年までの気候中立目指すスイスの環境新法が国民投票へ
このコンテンツが公開されたのは、
スイス有権者は6月18日の国民投票で、気候変動対策を盛り込んだ新法への是非を問われる。2050年までに温室効果ガス排出量の実質ゼロを目指し、家庭や企業への奨励予算が盛り込まれている。
もっと読む 2050年までの気候中立目指すスイスの環境新法が国民投票へ
おすすめの記事
「氷河を救うには、地球温暖化を止めるしかない」
このコンテンツが公開されたのは、
長年にわたる氷河と氷床に関する研究をたたえ、オランダの気候学者ヨハネス・オルレマンズ氏(72)に賞が授与された。インタビューでは、人工雪でスイスの氷河の融解を遅らせる試みについて語った。
もっと読む 「氷河を救うには、地球温暖化を止めるしかない」
おすすめの記事
消えゆくスイスの氷河、2022年は「壊滅的」
このコンテンツが公開されたのは、
スイスの氷河の体積は今年6%以上消失し、過去最大の融解を記録した。一方で、いくつかのメリットもあったという。
もっと読む 消えゆくスイスの氷河、2022年は「壊滅的」
swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。
他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。