「子守り要員」を超えた祖父母の存在意義

スイス政府は新型コロナ危機の間、祖父母は孫の世話をしないように勧告している。スイスの社会学者フランソワ・ヘプフリンガー教授は、接触禁止は短期間なら耐えられるが、長期的には特に健康で活動的な祖父母に抵抗される、と指摘する。

このコンテンツは 2020/05/15 09:30
フランソワ・ヘプフリンガー教授(1948年生)は社会学の名誉教授で、特に世代間関係に詳しい。2016年には著書「Grandparenthood in Change-New Relationship Patterns in Modern Society(仮訳:変容する祖親性―現代社会における新しい関係パターン)」が出版された © Keystone / Gaetan Bally

swissinfo.ch:近年、祖父母の重要性が高まっていると思いますか?

フランソワ・ヘプフリンガー:祖父母は昔から重要だった。歴史的に分析すると、乳幼児の死亡率は、元気な祖母がいる農村部の家族の方が、祖父母のいない家族よりも低かった。新しい現象としては、学校の休み中など祖父母による無償の育児の重要性が認識・議論されるようになったことだ。スイスの祖父母による無償の育児は、年間80億フランに相当すると推計されている。

swissinfo.ch:それはスイスに特徴的な現象ですか、それとも他の西欧諸国でも同じでしょうか?

ヘプフリンガー:どの国でも祖父母と孫の間の接触は増える傾向にあり、祖父母の役割は欧州全体で重みが増している。育児において祖父母の持つ重みや幼い孫に対する祖父母の経済支援の大きさは、国によって異なる。スイスに特徴的なのは次の2点だ。第一に、例えば南欧や東欧に比べて孫と同居する祖父母がずっと少ない。第二に、移民の流入が多いスイスでは多くの子供は祖父母が国外に住んでいる。祖父母による育児の頻度でいえば、スイスは欧州で中程度にあり、南欧より少し少なく北欧より少し多い。

swissinfo.ch:祖父母の重要性が高まっている理由として何が考えられますか?

ヘプフリンガー:主に二つの理由がある。第一に、過去数十年に起こった経済不安―金融危機や急速な社会の変化、そして今の新型コロナ危機をきっかけに、家族の間の絆や支援の重要性が高まる。若者の失業率が高い国で特に顕著で、幼い孫を育てるのに祖父母の年金だけが頼りというケースもあった。スイスでも、都市でも農村でも祖父母を含め家族は非常に重要だ。

第二に男性も女性も年をとっても、例えば定年退職後も健康で活動的なままであることが多くなった。どのデータを見ても、健康でアクティブな高齢の祖父母は、明らかに若年層と良好な関係を築いていることが分かる。最近の研究では、アクティブな祖父母は健康を維持するだけではなく、そうではない祖父母に比べて主観的に「自分は若い」と感じる傾向があることも分かった。祖父母は自分の孫と接すると、世の中の変化に追いつきやすく、新しい成長にも前向きに対処できる。

swissinfo.ch:今、たくさんの祖父母が孫の面倒をみてはならない、長く触れ合ってはいけないという事実に苦しんでいるようです。政府の勧告に従っている人は多いのでしょうか?

ヘプフリンガー:祖父母の大多数は勧告を一時的なものだと考え、これまでのところ勧告を守っている。現在、ロックダウン(都市封鎖)の緩和で大きな不安を抱えている。接触禁止は短期的には許容できるが、長期間なら特に健康でアクティブな祖父母に抵抗される。家庭生活への国家の介入はいつも微妙な問題であり、長期的にみると多かれ少なかれ効果がないことはこれまでの経験が示している。

スイスで新型コロナウイルス対策を取り仕切る連邦保健庁のダニエル・コッホ氏が「祖父母が孫を再び抱き締められる」としたインタビューや記者会見の発言は、BBCCNNORFなど世界中で報じられた。

方針転換の根拠となったのは、小さい子供はウイルスが体内に侵入するための首・咽頭の結合スペースが少ない、とする4月21日発表の研究だ。今は「子供は新型コロナにはかかりにくい」との見解だ。

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swissinfo.ch:スイス政府が抱擁を許可したのは、祖父母を落ち着かせるためだったのでしょうか?孫との接触禁止が長引けば、祖父母が「反乱」すると恐れたのでしょうか。

ヘプフリンガー:連邦政府の勧告で問題なのは、すべての祖父母を十把一絡げに65歳以上の高リスク群に含めてしまったことだ。だが実際は、乳幼児の孫を持つ祖父母の大半が65歳よりずっと若い。初孫が生まれる時の女性の平均年齢は、現在54〜56歳だ。むしろ孫の世話と自分の仕事との両立の方が、健康リスクよりも問題になることが多い。

swissinfo.ch:スイスでは、たとえば親が離婚した後に祖父母が孫を訪問する権利を立法化するための政治的な動きがありました。これは祖父母の役割の変化や重要性の高まりを映しているのでしょうか。

ヘプフリンガー:米国などでは祖父母に、孫を訪問する権利がある。理論的には歓迎されるだろう。だが実際にはこうした権利の実現は難しいかもしれない。家族間の対立を国家が介入して解決することはほとんどできないからだ。離婚によって母方の祖父母との交流が増え、父方の祖父母との交流は途切れる傾向がある。

祖父母の存在を評価するときに重要なのは、特に未成年の子供が要る場合、これが3世代の関係であるという事実だ。孫と良好な関係を築けるかどうかは、大人になった自身の子供と良い関係を築いているかに大なり小なりかかっている。今、高齢者が昔に比べて大人になった自身の子供と良い関係にあるという事実は、孫世代との関係もまた強めている。こうした変化の背景にあるのは、権威主義的な子育てがもてはやされなくなり、すべての世代が同じ目線でオープンに付き合えるようになったことがある。

※インタビューは書面で実施されました。

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