高学歴の外国人労働者 ボランティア活動に情熱を注ぐ
人の往来の自由に伴い、スイスでは高学歴の外国人労働者が増加している。こうした労働者の配偶者などが、ボランティアとして社会的活動に参加し、最終的に正規の仕事に就けるケースが目につくようになった。
「ボランティアで働きたいと言ってくる人に、いつもノーと言い続けるわけにはいかなかった」と、チューリヒ州のスイス赤十字内にボランティア活動部を組織したフーバート・カウシュさんは、背景をこう説明する。
外国人労働者といっても、「短期就労の外国人労働者(Expats)」は、一般に短期間、多国籍企業に雇われる高学歴の人達を指す。最近こうした人の配偶者などで、ドイツ語やスイスドイツ語はうまく話せないが、社会的活動に参加したいと望む人が増えてきた。
その結果、チューリヒ州の赤十字は、こうした人達を対象に基金の資金稼ぎを手伝ってもらう計画を立てた。2011年末に創設されたボランティア活動部は、2012年5月で5000フラン(約48万5000円)を集めた。
例えば、ヴィンタートゥール市のインターナショナルスクールと協力。生徒が何キロメートルも歩き、親や知り合いはその褒美にお金を与え、それを募金にするやり方をボランティア活動部は組織した。2013年にもいくつかの企業で、社員が山歩きをし同様の方法で募金を募る計画を立てている。
シェンゲン協定の「人の往来の自由」に伴い、外国人労働者のタイプが変わってきている。
バーゼル市の外国人労働者融和政策担当者は、「バーゼル市に到着する外国人労働者の6割が高学歴の持ち主。4割が低い資格か資格なしの労働者だ。以前は後者の方が圧倒的に多かった」と話す。
「短期就労の外国人労働者(Expats)」という表現は、多国籍企業に短期就労の条件でスイスに来る外国人労働者を指す。一般に高学歴の持ち主。
短期就労の外国人労働者は、会社が家賃、学費、休暇費用などを負担する優遇が一般的だった。しかし、近年経費節減の傾向にある。
自国でもボランティアの経験
違う募金の仕方もある。昨年のクリスマスイブに、アイルランド人のハゼルさんとオランダ人のアリジャンさん(2人とも30代)は、ヴィンタートゥール市の店でプレゼントの包装を手伝う仕事を、やはりチューリヒの赤十字のボランティアとして行った。
アリジャンさんはドイツ語がよくできるがハゼルさんはできない。お客はそれに気づいたのだろうか?「あまり気にしていなかったようだ」と微笑みながらハゼルさんは答える。結局、数百フランの収入になり、それは赤十字の「健康と社会援助」プログラムに使われると、コーディネーションを行ったアンドレア・ラムザイアーさんは話す。
それに、「大成功だった。店も大喜びだったし、お客も2人が行っているサービスの目的を説明するポスターをじっくり読んでくれていた」
チューリヒに到着して間もないこの2人が、まず赤十字の戸を叩いたのはごく自然な行為だった。「赤十字は国際的に本当によく知られている。スイスに来る高学歴の外国人労働者は、自国でも赤十字で働いた経験を持つ人が多い」とラムザイアーさんは付け加える。実際、アリジャンさんは、アムステルダムで高齢者を対象ににした赤十字の支援に携わっていた。
一方、画家のハゼルさんは、夫に付いてチューリヒに来る前はアイルランドの小児科の病院でボランティアとして働いていた。「ボランティアは、人と出会える絶好のチャンスを与えてくれる」と、自分の経験からこう強調する。
スイス統計局によれば、スイスでは約4人に1人(150万人)が少なくとも最低一つはボランティア活動を行っている。
ボランティア活動参加者を男女別にみると、スイス人男性は女性より多い(男性は男性全体の28%、女性は20%がボランティアに参加)。
ボランティア活動を行う人が多い地域は、州ごとにかなり異なる。ドイツ語圏の州の方が、フランス語圏やイタリア語圏の州の割合より多い。
さらに、自治体別では都市より人口1000人以下の自治体の方が、ボランティア活動に参加する人の割合が多い。
チューリヒの赤十字によれば、英語を母語にする人は、村レベルの自治体でボランティア活動を見つけるのは、時に難しい。理由は、伝統的な規則がありそれに適合しない場合があるためだ。
ボランティアから正規の職へ
ところで、ボランティア活動は、社会的繋がりを広げるだけではなく、職探しを助けてもくれる。バーゼル市役所は、このことに気づきプロジェクト「バーゼル・コネクト(Basel Connect)」の一環として、高学歴の外国人のためにボランティア活動を推進し始めた。
オランダ人のリーネッケさんも、夫に付いてバーゼルに来た1人。ドイツ語をすでに流暢に話すリーネッケさんは、こう言う。「11カ月前にスイスに到着した。ボランティアは社会に融和する素晴らしい方法だと思い、すぐに色々な所に申し込んだ。でも、スイスドイツ語(特にバーゼルの方言)ができないと難しいと断られた」
外国人融和政策を推進する組織責任者の1人は「初期には、こうした外国人を偏見の目で見る傾向があったと思う。しかし今は違う」と弁解している。
リーネッケさんは、結局ロナルド・マクドナルド基金でボランティアとして働き始めた。同基金は、入院中の子どもに両親が付き添えるよう支援するものだ。ついで、精神障害を持つ人を助ける基金に移り、ついにはそこで正規の職を得ている。
こうした体験からリーネッケさんこう言う。「もし本当にその仕事に情熱を傾けられ、そのことを周りに示すとことができたら、また、もし問題があっても事を荒立てず、自分が全部理解できないということをそのまま受け入れるなら、多くの道が開ける。スイス人はボランティアとして始めた私たちのプロジェクトに、しばしば高い興味を示してくれ、また外国人が社会参加することに好意的だからだ」
スイス社会に溶け込むのに適した手段
チューリヒの市役所もまた、こうしたボランティア職の問い合わせの多さに圧倒され、新しく専用のサイトを立ち上げた。「今ではさまざまな企業がコンタクトしてきて、英語を母語にするボランティア希望者を受け入れるために、何か良いアイデアがないかと質問してくる」と関係者。例えば、老人ホームのレストランで「アングロサクソンの日」といった企画でボランティアが料理を作るといったアイデアだ。
前述した、クリスマスプレゼントの包装をしたボランティアのメンバーに、ルーマニア人のエレナさんがいる。エレナさんは「友達は皆スキーに出かけたけど、私は何か人の役に立つことをしたいと思い、赤十字に応募した」と話した。
「外国人でボランティアの希望者は、役に立ちたいという強い意志がある」と赤十字のカウシュさんは強調する。さらにこう続ける。「彼らは自分が社会から得たものを、社会にお返ししたいという倫理観に支えられている。自立しているし自分で色々企画もできる。特に職業的にアクティブな若者は、コンタクトを取るのも上手だ。それに、ボランティアの仕事はスイス社会に溶け込むのに適した手段だと確信している」
(仏語からの翻訳・編集 里信邦子)
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