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LGBTIQの権利を守る取り組み、スイスは西欧諸国に追いついたか?

スイスで同性婚が合法に 初の同性カップル誕生

2019年に「パートナーシップ制度」に登録していたイランさんとアドリエンさんは、今月1日に家族や友人に囲まれる中、西部スイスの湖畔で正式に結婚を祝った
2019年に「パートナーシップ制度」に登録していたイランさんとアドリエンさんは、今月1日に家族や友人に囲まれる中、西部スイスの湖畔で正式に結婚を祝った Ilan & Adrien

1日からスイスでも同性婚が合法化され、ようやく大半の欧州諸国と足並みを揃えた。swissinfo.chは、結婚を決めた同性カップル2組に話を聞いた。

イランさん(30)とアドリエンさん(30)は、1日にスイスで結婚した初の同性カップルの1組だ。アドリエンさんは「新法が施行されるこの日に、あえて式を挙げたかった。この権利のために戦ってきた全ての人々に対する敬意の証として」と語る。

全ての人に認められた結婚の自由を勝ち取るまでの戦いは、1960年代~70年代に始まった長い道のりだったとアドリエンさんは振り返る。昨年9月26日外部リンクの国民投票で、スイス有権者は同性婚の合法化案を可決。スイス民法典の改正にゴーサインを出した。

アドリエンさんは「この成果を見届けずして世を去った活動家もいる。結婚式の当日は、こういった人々に対する思いもこみ上げてきた」と語る。

ヌーシャテル州のヴァル・ド・トラヴェールに暮らす2人は19年、法定婚とほぼ同等の権利を有するパートナーシップ制度への登録を済ませたが、同性婚の合法化を機にオヴェルニエの戸籍役場で婚姻に切り替えた。「パートナーシップ制度に登録したときに家族や友人を招いて盛大な披露宴を開いているので、今回のパーティーは少し控えめに」と微笑む。

平等に向けた大きな1歩

結婚の自由が全ての人に認められ、スイスは平等に向けて大きく1歩踏み出したと2人は語る。だがパートナーシップ制度は同性カップルに限定され、それが理由でレッテルを貼られることもあるとアドリエンさんは話す。

「パートナー制度に登録していると言えば、男性と一緒に暮らしていると同時に分かってしまう。それを知られたくない場合もある」(アドリエンさん)

スイスの通信社Keystone-SDA外部リンクの試算では、この2人のように新法施行を機に婚姻に切り替えるカップルはスイス国内で数百組に上る見込みだ。一方で、いわゆる結婚ラッシュが訪れることはなさそうだ。

スイスのゲイとバイセクシャル男性のための統括組織「ピンククロス外部リンク」にとって、同性婚のスタートを機に婚姻届けを出す人の大半がパートナーシップからの切り替えなのは当然の流れだという。生活を共にする上での法的な位置づけを重視するゲイやレズビアンの多くは、既にパートナーシップ制度に登録しているためだ。

家族を持つ権利

パートナーシップ制度に登録済みの人は、既に多くの点で異性婚者と同じ権利や義務が認められている。例えば共通の姓を選ぶ権利や、パートナーの遺産や年金の配分を受け取る権利などがある。

だが新法は同性婚者に新たな権利を与え、同性愛者、異性愛者を問わず全てのカップルに同等の権利を認めた。外国人のパートナーがスイス人に帰化する場合の手続きも簡素化され、従来よりも早く安価に国籍が取得できるようになった。

とりわけ大きな変更点は、同性カップルに養子縁組が許されたことだ。また、レズビアン・カップルへの精子提供も合法化され、この点に関してスイスは多くの近隣諸国から1歩抜きんでた。

パウリーンさん(左)とルシールさんは、同性婚解禁前の6月4日、無宗教式のセレモニーで結婚式を挙げた
パウリーンさん(左)とルシールさんは、同性婚解禁前の6月4日、無宗教式のセレモニーで結婚式を挙げた Alexia Linn Visual

子供を望んでいたパウリーンさん(31)とルシール・ビドー・マイヤーさん(30)が結婚を決意したのも、まさにそれが理由だ。ヴォー州ローザンヌ近郊にある緑に囲まれた小さな家のテラスで、「結婚は、私たち家族の安全を意味する」と2人は言う。

レズビアン・カップルの2人は、戸籍役場での予約が取れ次第、昨年9月に済ませたパートナーシップ登録を婚姻に切り替える予定だ。ただ披露宴は、法律の施行を待たずに開いた。「6月4日、無宗教式のセレモニーで家族や友人たちと一緒に結婚を祝った」そうだ。

同性の親を持つ家族の保護強化へ

婚姻届けが正式に受領された後、2人は子供を授かるために必要なステップを踏むべく、スイスに8カ所ある生殖補助医療外部リンクの専門クリニックのいずれかに通う予定だ。幸い、そのうちの2つは自宅から近いローザンヌにある。

法律改正前の多くの女性カップルのように、人工授精を受けるために外国に行かなくて済んでほっとしたという。「スイスでの施術は割高かもしれないが、これで長時間、場合によっては何度も外国に渡航する必要がなくなった」

こうしたロケーション上の問題とは別に、法的な保護がより充実している自国での出産を優先するという。スイスでは、2人とも子供の母親として認知される。2人は「私たちの両方が実母として認められることが絶対条件だ」と話す。

外国で人工授精を受ける場合、法的な母親と認められるのは子供を出産した生物学上の母親だけ。相手の女性は養子縁組が必要になるが、出産から早くとも1年後でなければ申請できない。「その間に何かあったら、私たちの子供は孤児になってしまう。この解決策にはそういった不備がある」と2人は指摘する。

根強く残る差別

また、結婚の権利が全ての人に認められたことは、LGBTIQ(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー、インターセックス、クィア)の人々にとって大きな1歩だが、差別はまだ残るという。2人は「LGBTIQは今もまだ影が薄い存在だ。私たちの社会は、いまだに異性愛者を優先している」と嘆く。

またアドリエンさんは、同性愛者の男性はいまだに普通に献血できないと指摘する。性交渉を12カ月間断たないと、献血ができない。

ようやく最近、改正法案が協議されてはいるが、スイス政府はここでも遅れをとっている。他の欧州諸国や北米では、既にこういった期間が短縮、あるいは廃止されている。

スイスでは、毎年約200人の赤ちゃんが精子提供によって誕生する。2001年、精子提供者(ドナー)の匿名性が廃止された。18歳以上の子供はドナーの身元や容姿に関する情報を得ることができる。

これらの個人情報は、連邦司法警察省婚姻局(EAZW/OFEC)の登録簿に記録されている。ただし遺伝性疾患などの特殊な情報は、必要に応じ18歳未満でも取得が可能。

同改正法の施行後に生まれた最初の子供たちは2019年に18歳の成年に達し、これまでに3人がドナー情報の開示を申請した。

外国の調査によると、該当する子供で生物学上の父親の特定を申請するのは1~4割にとどまる。

ローザンヌの不妊治療センター(CPMA)は18年、改正法は精子提供者の減少にはつながらなかったとした。

日刊紙トリビューン・ド・ジュネーブは、既婚のレズビアン女性にも生殖医療が開放されたことで、精子提供による人工授精の需要が倍増する可能性があると報じた。また需要の急増により、ドナー精子が不足する恐れもある。

独語からの翻訳:シュミット一恵

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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