
ジャパン祭りに永井豪、二次元の愛、川上未映子、日本旅行… スイスのメディアが報じた日本のニュース

スイスの主要報道機関が9月24日~30日に伝えた日本関連のニュースから、①ジャパン祭り、過去最多の来場者 永井豪も登場②日本でじわり広がる「二次元の愛」③作家・川上未映子の魅力④日本旅行で感じるギャップの3件を要約して紹介します。
季節は秋本番。スイスでは朝晩の冷え込みを感じるようになりました。今週は文化の秋にふさわしい話題を3本集めました。
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ジャパン祭り、過去最多の来場者 永井豪も登場
毎年、スイス南部のベリンツォーナで開かれるジャパン祭り(Japan Matsuri)が今年も9月20、21日に開催され、大きな成功を収めました。オンラインメディアblue Newsイタリア語版によると、12回目を迎える今年は2日間で過去最多の約1万9000人が来場。ヨーロッパ各地から多くのファンが集まり、日本文化への関心の高まりが改めて示されました。
今回の目玉は、「デビルマン」「マジンガーZ」「キューティーハニー」などで知られる漫画家・永井豪さんの参加です。めったに日本国外に出ることはないという漫画界の巨匠の登場は開催前から大きな話題となっていました。
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マジンガーZやグレンダイザーなどロボット漫画・アニメの金字塔を打ち立てた永井さんは、イタリア語圏スイス公共放送(RSI)のインタビューで「人間同士の戦争や対立を描きたかった。だから自分の作品に出てくるロボットやメカは、私たちすべてに内在する葛藤を象徴している」と自らの創作物に込めた思いを語りました。
漫画とアニメの違いについても触れ、「漫画は一人の作家が創作する作品だが、アニメはスタッフ全員で作り上げるもの」とコメント。最初のヒット作となった「ハレンチ学園」については自身の学生時代からインスピレーションを受け、「生徒たちの学校に対する恐怖心を払拭する」ことを狙った作品だったと語りました。
創作の源については、日本の伝統からダンテ「神曲」など西洋文学に至るまで幅広く影響を受けていると紹介。最後には 「戦争を終わらせることのできるスーパーロボットを作れたら素晴らしい」とも語りました。(出典:blue News外部リンク、RSI外部リンク/イタリア語)
日本でじわり広がる「二次元の愛」
フランス語圏日刊紙ル・タンは、フランス人人類学者アニエス・ジアール氏の新刊「Les Amours artificielles au Japon(仮訳・日本の人工的な愛)」をもとに、日本でじわりと広がる「二次元の愛」について伝えました。
8年にわたる調査をまとめたジアール氏の新刊は、アニメやゲームなどバーチャルキャラクターとの恋愛や結婚、つまり「二次元の愛」を選ぶ人々を紹介。背景には経済停滞や少子化により、伝統的な結婚や恋愛関係が難しくなっている現象がある、と説明しています。
その姿は多様で、ホログラムの「愛妻」と一緒に暮らせる「Gatebox」や、鉄道をモチーフにしたキャラクターと鉄道駅を旅するゲーム「駅メモ!」などがあります。2018年には初音ミクと結婚式を挙げた近藤顕彦さんが多くのメディアに取り上げられました。
記事では、女性たちも「推し」と結婚するなど仮想恋愛を楽しみ、女性たちが晴れの日を迎えられるよう「ソロウェディング」を企画する企業もある、と紹介。こうした「二次元の愛」は単なる逃避ではなく、時に古典的な家族観や性別役割に対する一種の抗議ともいえる、と説明しました。
ジアール氏によれば、「この現象は日本に限らず、人類の歴史に常に存在してきた」もの。ただ、日本ほど巧みにこうしたフィクションの炎を現実に組み込む国はない、と記事は結んでいます。(出典:ル・タン外部リンク/フランス語)
作家・川上未映子の魅力
ヨーロッパでも人気の作家・川上未映子さんは現在、新作「黄色い家」をひっさげ欧州各地で講演会を行っています外部リンク。ドイツ語圏の日刊紙NZZ日曜版は、女性の生きづらさや社会の不平等を描く作家として国際的に高く評価される川上さんの魅力に迫りました。
NZZの記事はまず、川上未映子さんの生い立ちを紹介しています。川上さんは大阪の貧しい家庭に育ち、10代で工場に勤めて家計を支えました。その後、ホステスや歌手といった仕事を経験し、2007年に小説「乳と卵」で芥川賞を受賞します。
女性の生きづらさや格差社会を鋭く描く川上作品は国際的にも高い評価を受け、現在では20以上の言語で世界中の読者に親しまれています。ヨーロッパの講演会では作中に登場する歌を突然披露するなど、率直で人懐っこい面がある一方、インターネット上での中傷や危害予告にさらされながらも、それに屈することなく、自らの意見を発信し続ける芯のある作家だと紹介しています。
記事は、息の詰まるような、しかし軽やかな文体の川上作品に、無駄な描写はひとつもない、と続けます。日本的な「かわいらしさ」や美化された幻想を描くことなしに、現実の孤独や格差、ナイーブさ、生への渇望を同時に息づかせることのできる作家だと評価しました。(出典:NZZ外部リンク/ドイツ語)
日本旅行で感じたギャップ
円安の影響もあり、ヨーロッパでかつてないほど人気を集める日本旅行。ドイツ語圏のNZZマガジンは、ラファエラ・ロートゥ記者の体験記をコラムにして掲載しました。
日本のミニマリズムや清潔さ、最新技術と伝統の共存が、現代の旅行者が求める「洗練」と「特別感」を満たしてくれるのだろうと、期待に胸を膨らませて飛行機に乗ったロートゥ記者。しかし、日本に到着するとその期待は見事に打ち砕かれたといいます。東京にあるのは、チューリヒでも見たことがあるようなおしゃれな街角ばかり。秩序立った社会の仕組みやフレンドリーすぎるともいえる接客の背後には、どこか「自分は外部の人間」という感覚や、完全には溶け込めない距離感が生まれたといいます。
「フロントの女性は声を不自然に高くしていて、親切にしてくれているのか、からかわれているのか判別できなかった。(中略)新幹線で大声を出したときに浴びた視線…。日本では誰もが、自分の立ち位置を正確にわかっている。地下鉄を待つときでさえ、どこに並ぶべきか線が引かれている。けれど観光客の自分だけは、どこにも属していないような感覚に襲われた」
「日本は、私たちには決して奥まで見通せない、美しい舞台のように感じられる。本当は旅先で、その裏側に触れたいと願っていたはずなのに」 (出典:NZZマガジン外部リンク/ドイツ語)
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次回の「スイスメディアが報じた日本のニュース」は10月8日(水)に掲載予定です。
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校閲:宇田薫

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