中国漁船、原子力潜水艦、低成長… スイスのメディアが報じた日本のニュース
スイスの主要報道機関が2月11日~17日に伝えた日本関連のニュースから、①中国漁船の船長逮捕 今後は?②日本は原子力潜水艦を導入するのか?③低成長で高市政権への圧力高まる④成長余地のある日本株、の4件を要約して紹介します。
今週はドイツ語圏の大手紙NZZの台北特派員パトリック・ツォル記者の分析記事2本が登場。東京やシドニーへの駐在経験もありインド太平洋地域の地政学に詳しいツォル氏は、日本をとりまく外交・防衛環境をどう見ているのでしょうか。
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中国漁船の船長逮捕 今後は?
水産庁が12日、長崎沖の排他的経済水域(EEZ)を航行していた中国漁船が停船命令に従わなかったため、その船長を漁業主権法違反の疑いで現行犯逮捕しました。14日に釈放しましたが、スイス・ドイツ語圏の大手紙NZZは「これは外交危機をエスカレートさせるか?」との見出しで警鐘を鳴らしています。
記事は2010年にも尖閣諸島付近で日本の巡視船に衝突した中国漁船の船長を逮捕した事例を紹介。尖閣諸島は「日本が実効支配しており、中国は領有権を主張している」と位置付けたうえで、「この事件をきっかけに、領有権紛争がさらに激化した」と伝えています。中国はレアアースの対日輸出を停止し、日本のハイテク産業に打撃を与えました。
12日の事件が起きた場所は領土問題こそないものの、「日中関係の微妙な時期に起きた」。昨年11月の高市早苗首相の台湾有事発言以来、中国は再び経済圧力を強めています。しかし高市氏は対中強硬姿勢を崩さず、それが奏功して衆院選で圧勝を収めたと記事は説明しました。
「この事件が二国関係に大きな影響を与えるかどうかは、まだ分からない」。記事は今のところ中国政府からの反応は「慎重」であると伝えています。(出典:NZZ外部リンク/ドイツ語)
日本は原子力潜水艦を導入するのか?
昨年連立を組んだ自民党と維新の会は、原子力を念頭に「次世代の動力」潜水艦の保有を排除しないとの立場です。NZZは日本の防衛専門家に取材し、日本で議論が始まったことの背景と課題を整理しています。
記事はハドソン研究所の長尾賢氏の分析を引用し、原子力潜水艦が日本の「第二撃能力」構築において不可欠なプラットフォームであると強調しています。原子力潜水艦は隠密性が高く、敵の先制攻撃を受けても生き残り、反撃する能力を持つため、日本の安全保障戦略において極めて重要な役割を果たすと見ています。従来のディーゼル電気潜水艦よりも多くのミサイルを搭載できるという点も利点だとしています。
NZZは笹川平和財団の山本勝也主任研究員にも取材し、原子力潜水艦の「高速で長距離を潜航できる能力」が、日本の地理的特性、特に多数の遠隔離島を防衛する上で「きわめて重要」だと分析しています。同紙は、日本の海上自衛隊が伝統的に日本海や東シナ海など西側に焦点を当ててきたものの、中国海軍の急速な発展により「この戦略は見直す必要がある」と指摘。従来の潜水艦では中国の空母や原子力潜水艦を長距離にわたって追跡することが困難であるとみています。
しかし記事は、原子力潜水艦の導入には「莫大な費用」と「法的障壁」が存在することを強調しています。最新のバージニア級原子力潜水艦が約45億ドルと、日本の最新鋭潜水艦の約7倍の費用がかかることを挙げ、防衛予算上「他のプロジェクトを延期せざるを得なくなる」と指摘。また、1955年の原子力基本法が原子力の利用を「平和目的」に限定していることや、広島・長崎の経験や福島第一原発事故による国民の原子力アレルギーが根強いことを指摘しました。
また「米国の支援が不可欠」とも指摘。原子力の民生利用という点ではオーストラリアよりは優位にあるものの、「アメリカからのノウハウ移転に依存することになる」と結論付けています。米国の専門家ブレント・サドラー氏は日韓の共同建設を提唱していますが、NZZは「両国間の信頼関係は弱すぎる」とする長尾氏の見解を紹介。技術的な課題だけでなく、複雑な地政学的・歴史的背景を抱えていることを示唆しました。(出典:NZZ外部リンク/ドイツ語)
低成長で高市政権への圧力高まる
内閣府が16日発表した2025年10~12月期の国内総生産(GDP)速報値は前期比0.1%増と、市場予想の0.4%増を下回りました。スイス・フランス語圏の大手紙ル・タンは、これにより高市早苗首相への圧力が強まっていると報じています。7~9月期の0.7%減から回復してはいるものの、「年末にかけてのパフォーマンスの低さは、今後の見通しが暗いことを示唆する」とみています。
高市首相は、就任直後に大規模な景気刺激策を発表しましたが、インフレを背景に今のところ消費は依然として低迷しています。キャピタル・エコノミクスのアナリスト、マルセル・ティーリアント氏のコメントとして、企業投資や公共支出も落ち込んでおり、「この低成長がさらなる財政出動を促す可能性がある」と伝えました。
ただし大規模な財政出動に対して、債券市場からは懸念する声が上がっています。スイスの銀行UBSも「財政政策の有効性、債務増加とインフレのリスクに対する懸念は依然として残っている」と警告。記事はアメリカの関税や対中関係の緊迫も重なり、「日本経済には新たな暗雲が立ち込めている」と報じました。(出典:ル・タン外部リンク/フランス語)
成長余地のある日本株
衆院選の与党大勝後、堅調な動きを続ける日本株式市場。スイス・ドイツ語圏の金融紙フィナンツ・ウント・ヴィアトシャフト(FuW)は、ある数字をもって日本株には「まだ成長の余地が残されている」と指摘しています。
その数字とは、「上場企業のうち、単一セクターで収益を上げている企業の比率」。米投資銀行ジェフリーズが算出したもので、アメリカでは68%、ヨーロッパでは65%に上る一方、日本は37%にとどまっています。
この数字について、FuWは「他の地域では多くの企業が合理化を進める一方で、日本ではなお動きの鈍いコングロマリット(複合企業)構造が蔓延している」と読み解きます。この点で、日本企業は「運営体制に大きな潜在性がある」と指摘しました。(出典:FuW外部リンク/ドイツ語)
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次回の「スイスメディアが報じた日本のニュース」は2月25日(水)に掲載予定です。
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校閲:大野瑠衣子
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