外国人料金、関税、ビットコイン…スイスのメディアが報じた米国のニュース
スイスの主要メディアが11月20~26日に報じたアメリカ関連ニュースから①米国立公園、外国人料金を設定②関税を一部撤廃③ビットコイン業界の「救世主」から「重荷」へ、の3件を要約して紹介します。
アメリカの国立公園と食べ物が(ほどほどに)大好きな筆者は、高級志向のようです。来年から、アメリカの人気国立公園の年間パスの外国人料金は3倍になり、関税の影響で一部の食品の価格が高騰の一途を辿っています。ただし、スイスメディアによれば「大混乱」に陥っている暗号通貨は、今のところ持っていません。
米国立公園、外国人料金を設定
グランドキャニオン、イエローストーン、ヨセミテなど、アメリカで最も人気のある国立公園は、外国人の入園料金を2026年1月1日から80ドルから250ドル(約3万9000円)に引き上げます。
フランス語圏のスイス公共放送(RTS)は25日、トランプ政権は「米国人を優先したい」と述べたと報じました。
米内務省は、「アメリカ人家庭を第一に考えた、居住者重視の新しい料金体系」を発表しました。最も訪問者数の多い11の国立公園の年間パスの料金を、外国人観光客は250ドルに引き上げ、アメリカ市民・永住者は80ドルに据え置きました。年間パスを持たない外国人観光客は、通常の入場料に加えて、新たに1人あたり100ドルの追加料金を支払うことになります。
同省は「アメリカ居住者は引き続き手頃な価格で入場できるが、非居住者はアメリカの公園の維持管理を支援するため、より高い料金を支払うことになる」と説明しました。RTSは、これらの公園のいくつかはユネスコ世界遺産に登録されていると指摘しています。
フランス語圏の大手紙ル・タンは26日、アメリカの観光業界は「共和党の政策の影響で、海外旅行者の減少に数カ月前から苦しんでいる」と伝えました。同紙によると、米国旅行協会は2025年の外国人観光客数が2024年比で6.3%減少すると予測しています。(出典:RTS外部リンク、ル・タン外部リンク/フランス語)
関税を一部撤廃 食品価格高騰で
ドナルド・トランプ米大統領は、特定の食料品価格の上昇を受け、わずか数カ月前に課した関税の一部を撤廃することを決めました。
ドイツ語圏のスイス公共放送(SRF)が取材したニューヨーク大学のジョセフ・フーディー経済学教授は「特定の製品や日常の経験は、私たちに特別な影響を与える。人々は店頭で牛乳やステーキの値段を目にする。電気代や家賃の上昇も目にする。それが不安をもたらす」と語りました。「生活費が賃金よりも速いペースで上昇しているのを見ると、誰が責任を負っているのか疑問に思うものだ。それはもちろん、権力者だ」
SRFは、トランプ氏が住宅価格の高騰という問題を長らく「民主党の詐欺」とレッテルを貼りながら、具体的な説明をしていないことを指摘しました。しかし今、ホワイトハウスは対処を急いでいます。7月に導入されたばかりのコーヒー、牛肉、様々な果物など、ブラジルからの輸入品に対する40%の追加関税を撤廃します。
SRF経済編集部のマティアス・ハイム記者は、アメリカではここ数週間から数カ月、食料品をはじめ一部の製品価格がで急騰していると解説しました。その例として、バナナは1年で7%、コーヒーはほぼ20%も値上がりしたことを挙げました。「したがって、トランプ大統領が特にこれらの製品への関税を撤廃するのは偶然ではない」
ハイム氏は、関税がこれらの価格上昇にどのような影響を与えたかは不明だと話しました。特にコーヒー、そしてカカオは、様々な生産国における不作の影響で、最近世界的に価格が上昇しているといいます。「その影響はスイスでも見られ、チョコレートは著しく値上がりしている。しかしアメリカでは、これらの要因に関税が加わり、価格の上昇幅が大きい」
では、経済の実態はトランプ政策の影響を受けているということなのでしょうか?ハイム氏は「全くその通り。ただし、トランプ氏はそれをはっきりとは認めない」との見方です。米政府は関税を撤廃する理由を、国内では全く生産されていない製品については、国内の生産者を関税で保護する必要はない、などと説明しています。ハイム氏は「しかしながら、食料価格の上昇は、原則として必ず現政権に跳ね返ってくる」とズバリ。これはトランプ氏の前任者であるジョー・バイデン氏も学ばなければならなかった教訓だと指摘しました。
SRFは、一部関税を撤廃したという事実は、大統領就任以来の課題である経済が「2026年の中間選挙でブーメランになる可能性がある」ことをトランプ氏が認識していることを示唆する、と総括しました。(出典:SRF外部リンク/ドイツ語)
ビットコイン業界の「救世主」から「重荷」へ
ドイツ語圏の大手紙NZZは、トランプ米大統領は暗号資産(仮想通貨)業界の大いなる支持者だと自称しながら、その不安定な行動によって同業界にますます害を与えていると伝えました。
同紙は25日の社説で「ドナルド・トランプ氏は選挙運動中、仮想通貨業界を温かく見守っていた。しかし今、彼は仮想通貨業界に苦戦を強いている」と書きました。
10月の第1週、ビットコイン相場は史上最高値の12万6000ドルに到達。しかし10月10日にトランプ氏が中国に対する新関税の導入を示唆すると、あらゆる金融市場が動揺するなか、暗号資産には「最悪の事態」をもたらした、とNZZは位置づけました。「それ以来、市場は混乱状態にある」。26日現在、ビットコインは8万8000ドルを下回る水準で推移しています。
「大統領選挙運動中に共和党に数百万ドルを動員した、財政的に強力な暗号資産業界にとって、これは苦い出来事だ。トランプ氏は、敵対的なバイデン政権の軛から業界を解放した救世主というより、むしろ重荷になりつつある」
NZZは、トランプ一家の「怪しい」仮想通貨ビジネスも下落要因の一つだと書いています述べた。「仮想通貨セクターへの私的な投資によって、トランプ氏は歴史上前例のない利益相反を容認している」。NZZは、トランプ一家が今年1~6月に仮想通貨関連で約8億ドルの利益を得たと推定するロイター通信の報道を引用しました。外国人投資家が大統領への好意として購入できる仮想通貨「トランプ・コイン」の発行や、マネーロンダリングで投獄されていた仮想通貨取引所バイナンスのチャオ・チャンポン元社長に恩赦を与えたことを挙げています。バイナンスは恩赦の直前にトランプ一家の経営する企業と大規模な取引を行っていたとされます。
「暗号資産業界は米政府によるあらゆる規制緩和を歓迎しているものの、トランプ氏の日和見主義的な行動が新たな風評リスクに晒されていることを認識している。業界は汚いイメージを払拭したかった。それを定着させたくなかったのだ」
NZZは、暗号資産業界が共和党から「解放」されるべき時が来たと結論付けている。「すべての暗号資産企業が一体となって一つの産業を形成している。これは政治的なプロジェクトではない。トランプがいなくても、この業界は明るい未来を秘めている」(出典:NZZ外部リンク/ドイツ語)
次回の「スイスのメディアが報じた米国のニュース」日本語版は12月4日(木)に配信します。
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