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超長期金利、レアアース、キーブン…スイスのメディアが報じた日本のニュース

植田和男日銀総裁
6月15日、金融政策決定会合後の記者会見に臨む植田和男日銀総裁。会合では長期金利の上昇を踏まえ、国債購入の減額ペースを縮小した EPA/FRANCK ROBICHON

スイスの主要報道機関が先週(6月16日~22日)伝えた日本関連のニュースから、①長期金利上昇 背景にある「パラダイムシフト」波紋を呼ぶ日本金利の罠③米中レアアース戦争 日本が示す自立の道スイス製シューズ 日本価格の謎、の4件を要約して紹介します。

超長期金利の上昇と政府・日銀の動きを注視する解説記事がドイツ語圏メディアに2本掲載。約3年ぶりゼロ金利に引き下げたスイス中銀との対比もあり、スイスでの債券市場への関心の高さがうかがえます。スイス製品の価格の「逆転現象」には、経営者自身も驚きの声を上げています。

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長期金利上昇 背景にある「パラダイムシフト」

日本債券市場で30~40年物国債の利回りが上昇し、政府・日銀が対応を迫られています。スイス・ドイツ語圏の大手紙NZZは、その背景には外国人投資家の保有比率の上昇という「パラダイムシフト」があるとして、日本の財政債務に警鐘を鳴らしました。

超長期金利の上昇の引き金になったのは、米ドナルド・トランプ大統領の関税政策への不安に伴う米国債の利回り上昇だと記事は指摘します。加えて日銀が17日に国債購入額の減額ペース縮小を決めたことで「長期国債への注目度が高まり、債務危機に対する懸念を再燃させた」と読み解きました。

日銀の購入ペース縮小幅は2000億円と「一見するとわずか」ですが、「この措置の重要性は計り知れない」と記事は続けます。「先進国で最も債務を抱える日本において、日銀による国債購入は経済に資金を注入し金利を低く抑える重要な手段となっている」ためです。

財務省も国債発行計画の調整に動いていますが、根本問題である財政債務の解消には至っていません。大和総研の末吉孝行主席研究員はNZZに、「財政再建に向けた政治運動は近年停滞している」とコメント。景気や金利の先行きによっては政府債務が国内総生産(GDP)比300%を超す可能性もあるとの試算を披露しました。

こうした財政懸念が超長期金利の上昇を招いていますが、英経済コンサル会社オックスフォード・エコノミクスは「市場のボラティリティ(変動率)の高さ」や「投資家構造の変化」も日本国債の重荷になっていると指摘します。記事は超長期債の一部では外国人投資家の保有比率が50%を超えていることを挙げ、「外国人投資家は日本の投資家よりも財政問題に敏感であるため、リスクプレミアムはさらに上昇する可能性がある」とまとめました。(出典:NZZ外部リンク/ドイツ語)

波紋を呼ぶ日本金利の罠

日本の長期金利の上昇について、ドイツ語圏の経済誌フィナンツ・ウント・ヴィアトシャフト(FuW)は「世界の金融市場への影響」という視点で解説記事を掲載しています。

「日本の金利動向は、一部のトップ・ストラテジストの頭痛の種となっている」。記事はこう指摘し、その理由を2点挙げました。1つは、日本の投資家が為替リスクを伴う米国債を手放し、巨額のリパトリエーション(資金の本国送還)が国際市場に大波乱をもたらす可能性です。

もう1つは、金利差を活用する「キャリートレード」の終焉です。低金利の円(とスイスフラン)を借りて米ハイテク株など利回りの高い資産に投資するキャリートレードの魅力が低下し、リスク証券の上値を重くしています。さらに円高の進行が「金利差ビジネスからの利益を食いつぶしている」と言います。

超長期金利の上昇が財政債務の悪化に拍車をかける悪循環ですが、記事は「市場が30年来のデフレ心理から脱却しつつあることは、株式に好影響を与えている」とも指摘。企業収益や企業統治(コーポレートガバナンス)の改善と相まって、日本株は好調。著名投資家のウォーレン・バフェット氏も日本の商社5社に注目していることを紹介しました。(出典:フィナンツ・ウント・ヴィアトシャフト外部リンク/ドイツ語)

米中レアアース戦争 日本が示す自立の道

中国が4月、トランプ大統領の相互関税への対抗措置として7種類のレアアース(希土類)の輸出を規制。スイスでの米中閣僚級協議で貿易制限措置の停止・解除が決まりましたが、いまだ輸出は不安定なもようです。そんななか、スイス・ドイツ語圏の大手紙NZZは「日本は自国を守る方法を例示し、そのノウハウを対米関税交渉にも役立てようとしている」と解説しました。

記事は、日本はこの貿易戦争が始まるずっと前の2010年から中国産レアアースへの依存度を90%から60%に減らし、同時に消費量も半減させたと解説します。「その結果、米産業界も日本に注目するようになった」

日本が先行・成功したのは、米国自身が1980年代にしかけた貿易戦争です。また日本は「中国がその経済力・技術力の高まりを武器に戦いを挑んだ初めての国」でもあります。中国は2010年にレアアースの対日輸出を禁止し、日本政府は消費量削減や代替材料の開発といった緊急対策を立ち上げました。

この対策には「『チーム・ジャパン』が一丸となって取り組んだ」。独立行政法人のエネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の他、トヨタ自動車、日立金属など民間企業が総出で技術開発や新しいサプライチェーン(供給網)の構築に注力。経済安全保障法の制定や第1次トランプ政権発足、新型コロナ危機がさらにこうした動きを後押ししました。

記事は、こうした日本の戦略をドイツ政府も研究していると伝えています。しかし「ドイツには真似できない要素が2つある」。1つは商社が果たした役割、もう1つは官民の協力関係です。前述のようなプロジェクトは公開入札なしで分配され、「規制の観点から言えば談合にあたり、欧州では法的に不可能」だと位置付けました。(出典:NZZ外部リンク/ドイツ語)

スイス製シューズ 日本価格の謎

日本でスイス製シューズがスイスの2倍の価格で売られているわけは?スイス東部トゥールガウ州にある健康シューズメーカー「キーブン(kybun)」の日本での販売価格の謎について、大衆紙ブリックのドイツ語版が詳報しました。

キーブンの靴は数週間前から高級百貨店の日本橋三越で販売開始。スイスで約300フラン(5万4千円)で販売している靴が、三越では2倍以上の12万円。同社のカール・ミュラー共同最高経営責任者(CEO)はSNSのLinkedInに「パートナー(三越)がこの価格を提示したとき、正直言って、言葉を失った」と投稿しています。

投稿によると、その要因は日本が課している40%の輸入関税、日本橋三越が課している約30%の「高いマージン」、さらにキーブンの求める「莫大な人件費」の3つです。キーブンでは顧客1人につき約2人の専属コンサルタントが対応しているそうです。

人件費の違いなどから、スイス製品は日本価格の方がスイスより安くなることも珍しくありません。記事によると、2015年から日本に進出している「オン(On)」は、東京で約130フランと「スイスの5分の1程度の安さ」で販売されています。

キーブンは多くのモデルをスイス国内で製造し「スイスレベルの賃金を支払っている」(クラウディオ・マインダー共同CEO)ため、「日本の店舗でもそれほど安くなることはないだろう」と記事は予想。キーブンの靴が平均月収の約3分の1に相当する高額だとしても、「Made in Switzerland」のラベルが日本人に訴求力を持つ、と同社は期待しています。(出典:ブリック外部リンク/ドイツ語)

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話題になったスイスのニュース

先週、swissinfo.ch日本語サイトでよく読まれたのは、2023年9月に配信した「スイス老舗チョコ・レダラッハに児童虐待疑惑 またもイメージダウン?」。東京にレダラッハが再上陸するとSNSで話題になったことで、同社の創業者が創立したキリスト教系の学校で児童虐待が行われていたと報じたこの記事も拡散されました。

英語サイトでは、IMDビジネススクール(ローザンヌ)が毎年発表する「競争力ランキング」で、スイスが香港・シンガポールを抑え首位を奪還したとのニュースがよく読まれました。

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校閲:大野瑠衣子

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