Navigation

X 夕陽はまだ頂に照る -3-

小屋と空の間 swissinfo.ch

故国の山に帰る

このコンテンツは 2007/02/13 23:58

私は故国の山で育ち、いろいろの登山を経て、また故国の山に帰って来た。ヒマラヤを除いて、概ね戦前の登山であった。その時代は今に比べて、何処の国の人ももっと時問を多く持っていた。スピードが人々を追い捲くることなく、多くは自分のぺースを持っていた。たしかに時勢は激しく変って、世界は狭くなった。私の友人は朝食をスイスの山村にとって、夕飯はニューヨークであったと語った。人々は山に登るにもスピードに付き纏われる。そして騒音は山の奥にまで谺することが多くなった。川や谷や森をおおっていた沈黙は深く沈潜して、私たちから遠ざかってしまった。私の山旅の日は去ろうとしている。
このようなときに、私はさらに何を希望することが許されるであろうか。せめて私は、一歩退いてこの圏外に立って、去り行く山のしじまにいきづきたい。
一昨年(昭和四十一年)の秋、劒岳山麓の馬場島を訪ねた。紅葉の谷は暮れて宵闇が迫る頃、劔の頂はまだ夕陽に輝いていた。それは今日の終焉と明日への希望を繋ぐ寂光であった。

このストーリーで紹介した記事

この記事は、旧サイトから新サイトに自動的に転送されました。表示にエラーが生じた場合は、community-feedback@swissinfo.chに連絡してください。何卒ご理解とご協力のほどよろしくお願いします

共有する

この記事にコメントする

SWIアカウントをお持ちの方は、当社のウェブサイトにコメントを投稿することができます。

ログインするか、ここで登録してください。