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国民の6割がボランティア活動に従事するスイス

大車輪に乗る体操選手の演技
6万5000人の体操選手と30万人の来場者を集めた2025年スイス連邦体操フェスティバル(ローザンヌ)も、ボランティアの存在なしには成り立たない Keystone / Jean-Christophe Bott

スイスでは3人に2人が何らかのボランティア活動に携わる。さらに、ボランティアを行う人々は政治参加も熱心であることが最新の調査で分かった。

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スイス公益協会(SGG/SSUP)が25日発表した調査「ボランティアモニター外部リンク」(5000人が回答)によると、スイスでは6割超が何らかのボランティア活動に携わっている。多くはスポーツクラブに参加したり、政治職に就いたり、自分の世帯以外の人々を世​​話・支援したりする。

報告書によると、国際比較においてスイスは「ボランティア活動のレベルが高い」。ノルウェー、デンマーク、スウェーデン、オランダと並び、スイスは「公式・非公式のボランティア活動の両方において、ヨーロッパで主導的な地位を占めている」という。

単純比較は難しいが、日本のボランティア参加率は約17%だ(内閣府2022年度調査)。まちづくり、まちおこし活動(25.6%)が分野別で最も多い。

ボランティア活動と直接民主主義

調査を主導したアンドレアス・ミュラー氏は「ボランティア活動は至るところにある」と語る。「社会の結束に貢献していることは確実だ。だがスイスの興味深い点は、民兵制度や直接民主制への参加とのかかわりだ」。調査は、ボランティア活動を行う人々は政治への参加度も高いことを浮き彫りにした。

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「ボランティアモニター」は、ボランティア活動のなかでも公式のものと非公式のものを区別した。前者はスイス国内9万の協会や非営利団体への参加、社会奉仕活動などが含まれ、43%の人が1年間にこれらの活動に従事した。

後者は近所の人の手助けや親戚のケア、散発的なボランティア活動が該当し、スイス国民の51%が参加した。全体ではスイス人口の64%が公式・非公式、あるいは両方のボランティア活動に携わる。

「一応安定」では不安

「ボランティアモニター」は5年に1度発行される。新型コロナ危機を経て、人々のボランティア活動にどのような変化があったかが注目されていた。コロナ禍で団体活動は時として深刻な制限を受けた一方、モニターによると「スイス中に連帯の波が押し寄せた」。

調査手法が変更されたため、前回のモニターとの単純比較は難しい。ただ全体としては、前回モニターと同様の状況が示された。

スイス公益協会のミュラー氏は、それが「民主主義の観点から」満足のいくものなのかどうか疑問視する。「一応安定している、というのは良い兆候ではない。むしろ、ボランティア活動が増えた方が良い」。さもなくば長期的には社会の結束が崩壊する恐れがあるという。

政治と社会への信頼の向上

ボランティアモニターは、ボランティア活動と「社会とつながっているという実感」との間に強い相関があることを示す。ボランティア活動に参加する人は、地域、居住地、スイスとの繋がりをより強く感じるという傾向がある。

ボランティア活動を行う人は、仲間や政治制度に対してより高い信頼感を抱く。

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ボランティア活動に熱心な人は「妥協の文化」をより深く理解し、政治的な無力感も少ない。多文化・多言語、連邦制、直接民主制が根付くスイスでは、社会や政治の意思決定プロセスにおいて異なる利害を持つ人々が合意形成を図る「妥協の文化」が浸透している。また公的社会奉仕活動を行った人の55%は「政府の行動に発言権がない」という命題に否定的だ。ボランティア活動を全く行っていない人では36%にとどまった。

「どんな小さな貢献も社会にとってプラスになる」とミュラー氏は指摘する。孤立はコミュニティの利益にはならない。サッカークラブの練習を指導することでさえ、社会の結束を強めることにつながるという。

国際比較は困難

しかし、国外の調査では、スイスのボランティア熱の様相は異なる。

ボランティアモニターは、スイスが2017年の欧州価値観調査でノルウェーに次ぐ第2位に入ったことを強調する。しかし2022年の欧州所得・生活状況統計ではスイスは4位で、ボランティア活動に当たる人は25.7%にとどまる。

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ただミュラー氏は、この数値の低さをさほど問題視していない。調査によって、「ボランティア活動」や「仕事」の定義は異なるからだ。

「スイス、特にドイツ語圏では、市民社会が自らの課題を解決するという考え方が一般的だ。だが一部の国では、国家が別の役割を果たす」

スイスで近所の子どもたちのベビーシッターを無償で引き受ける人たちは、非公式のボランティア活動を行っている。一方、フランスのような国では、低月齢から利用できる安い託児所が増えている。「論理的に言えば、近所同士の助け合いの必要性は減っている。しかし、だからといって社会的なつながりが弱まっているわけではない」

ミュラー氏は、スイスは現在、ボランティア活動とは何か、そして国家がそれをどのように促進すべきかという大きな政治的議論に直面しているとみる。11月には、すべてのスイス国民に社会奉仕活動または兵役を義務付ける案が国民投票にかけられる。「賛成するにせよ、義務化によって自発的な活動が阻害されることを懸念するにせよ、スイス国民は根本的な議論に直面している。民兵原則とは何か、そしてボランティア活動とは何か?」

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編集:Reto Gysi von Wartburg、独語からの翻訳:ムートゥ朋子、校正:宇田薫

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