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カンボジアで活躍中 スイス人小児科医の抵抗

契約を結ぶ相手が腐敗している政府であれば、取り決めが反故にされるのは明らか。病気の子供達は今すぐ援助が必要。 Keystone

ベアット・リヒナー氏はカンボジアで小児科病院を経営するスイス人医師。病院の運営費は寄付金のほかスイス政府の援助などで賄われてきた。しかし、政府は同氏のプロジェクトは援助資金を受ける条件を満たしていないと判断し、今年予定されていた援助金の支払いを停止した。

これに対し同氏は、資金援助を担当する連邦外務省の開発協力局宛てに公開書簡をしたため、速やかに援助金が支払われるよう要請している。政府が求める援助を受けるための条件にカンボジアの実情はまったくそぐわないというのが、その主張である。

開発途上国援助を目的にカンボジアで小児科病院を経営するベアット・リヒナー氏には本年、連邦政府から、前年より1割増の257万フラン(約2億4,000万円)の援助が約束されていた。ところが、23日付の大衆紙ブリックの報道で援助金支払いは停止すると言い渡されていたことが明らかになった。昨年のリヒナー氏のカンボジアでの活動をスイス政府が調査した結果、カンボジア政府との正式契約が結ばれておらず、援助金を受ける条件が満たされていないというのである。連邦外務省の開発協力局のヴァルター・フスト局長は「リヒナー氏の小児科病院は、カンボジア政府の健康保険制度にしたがって運営されていかなければならない。対政府との契約が重要である」と指摘した。

リヒナー氏の公開書簡

 リヒナー氏は1993年からカンボジアに小児科病院を建設し、子供達の治療にあたっている。スイス政府は、開発途上国援助計画の一環として、これまでリヒナー氏の小児病院計画に援助をし続けてきた。

 このほどの政府の援助金停止に対しリヒナー氏は、ミシェリン・カルミ・レ外務大臣へ公開書簡を送り、ブリック紙上で公開した。「カンボジアは2003年7月28日以降、無政府状態にある。政府との契約と言うが、誰を指して政府と言うのか」と書簡はカンボジアの事情を訴えている。カンボジアの政府機関は腐敗しており、健康保険局と契約しても、反故にされるだけで、「事情を知らない開発協力局の定める条件を満たしていないからといって、援助を停止するのは嫌がらせに等しい」と反発している。

 これに対して前出のヴァルター・フスト局長は、「政府は政府の条件を満たすプロジェクトを支援している。長期的に違法であると判断されるかもしれないものに税金を使うことはできない。リヒナー氏の病院を除いて、政府支援を受けているすべての援助計画は条件を満たしている」と反論する。

スイス国民が支持する小児科医

 カンボジアでの治療活動が称えられ昨年初頭、リヒナー氏はスイス・ドイツ放送の「今年のスイス人賞」を受賞し、本年には、スイス・フランスおよびスイス・イタリア放送でも同じ賞を受賞したほど、スイス国民の支持を得ている医者である。

 リヒナー氏はチェロ奏者でもあり、チャリティーコンサートで集めた募金もカンボジアの病院の運営に充てられている。昨年の募金額は1億2,500万フラン(約106億2,500円)だった。新しい病院の建設が予定されており、そのためリヒナー氏は8月末までに2,000万フラン(約17億円)必要という。

スイス国際放送 エリザベス・メーン (佐藤夕美 (さとうゆうみ)意訳)

開発協力局がカンボジア小児科病院援助をストップ。
小児科病院の新築で8月末までに2,000万フラン(約17億円)が必要。
カンボジアへの援助額は今年1割増の予定だった。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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