多国籍企業の贈賄事件から利を得るスイス国家 是正手段は
スイスの多国籍企業が外国での贈賄事件で得た違法利益が、最終的にスイスの国庫に流れ込むことがある。これを是正することは、スイスの評判を高めるだけでなく、実利にも結び付くはずだ。
1980年代にスイスの銀行がフィリピンのフェルディナンド・マルコス元大統領の汚職による富の隠し場所として利用されていたことが明らかになって以来、歴代のスイス政府は、スイスが世界中の汚職から利益を得ているという歴史的認識を払拭するために懸命に取り組んできた。
そのなかで、スイスは何度も高い倫理基準を公に設定してきた。過去30年の世論のメッセージ外部リンクは明らかで、「外国公務員の汚職から生じた資産を保全することは不道徳であり、外部リンクスイスは汚職で得た資金を望んでいない外部リンク」というものだ。これを国際的な公式見解とするため、スイスは国連、経済協力(OECD)、欧州評議会が取り決めた汚職防止に関する複数の重要条約に批准した。国内では、2021年に連邦内閣(政府)が初めて「汚職防止戦略」を策定した。
スイスは、自主的に課した基準を目に見える形で強化してきたことは称賛に値する。スイスの金融機関に流れ込んだ汚職収益を摘発し、返還するという実績を確実に積んできた。スイスはこれまでに外国の公務員と関係のある不正収益 20億ドル以上を押収し、本国に送還している。外部リンクこれは、驚くべき額だ。
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だが、これでスイスが責務を果たしたと論じるのは誤りだろう。こうした努力と進捗にもかかわらず、スイスは依然として、少なくとも国際汚職の一種「外国贈賄」から多大な利益を得ていることは疑いようがない。
収賄国の国民が犠牲に
スイス連邦当局は2011~24年の間に、スイス企業(またはスイスで事業を展開する国際企業)が関与する14件の外国贈賄事件を非司法手続きにより終結させた。
こうした事件では、グレンコア外部リンクやオデブレヒト外部リンク、KBA NotaSys 、Alstom外部リンク といった企業は外国公務員の絡んだ汚職計画から巨額の利益を得ていたことが判明した。これらの企業は司法手続きを終結させるため、14件で総額約7億3000万フラン(フラン建てで5億8612万8983フラン、ドル建てで1億7969万4819ドル)に上る不正利益をスイス国庫に納付するよう命じられた。
表面上は、これは確かに正当な結果のように見える。企業は不正行為で摘発され、不正利益が強制的にスイス政府に納付されたことで、違反企業が犯罪から利益を得ることはなかった。
だがこの単純な分析は、ある重要な点を見落としている。不正利益の源泉はスイスではなく、コンゴ民主共和国、赤道ギニア、モロッコ、ブラジルといった低・中所得国だ。例えば国有財産が低すぎる価格で売却されるなど、具体的な損害額が明らかになったケースもある。そうでないとしても、公的機関への信頼の低下、外国投資の阻害、経済発展の阻害など、国家(および国民)への無形の損害を与えたことは間違いない。
つまりは、不正利益の没収を通じて、スイス国庫がスイス関連企業による国際汚職から多大な利益を得たことになる。さらには、この利益が外国に不利益をもたらしているという批判にも直面する。
不正資金がスイスにとどまる背景
前述の通り、スイスは他の形態の不正利益の分配・返還という点では確かな実績がある。例えば、ウズベキスタンには国連基金を通じて過去3年間で4億4400万ドルの汚職利益を返還した。この基金は国民に直接的な利益を還元するために特設されたものだ。
残念ながら、外国贈賄の利益の分配を定めた没収資産の分配に関する連邦法外部リンクは、図らずもこの種の事案への適用を阻む制限を内包している。具体的には、関係国が司法手続きにおいてスイスに協力した場合でない限り、スイス政府は犯罪収益の分配に関する協定を外国と交渉することを許す。
この制限は国際協力を促進するために盛り込まれたもので、理解はできる。しかしながら外国贈賄事件において、スイス当局が他国の協力を模索・要求することは稀だ。
実際には、これらの事件は主に裁判以外の手段によって解決され、企業自身が手続き中に法執行機関に直接協力し、必要な情報を提供する。その結果、外国贈賄の被害国が事件を支援する機会を与えられることはめったにない。そもそも、スイスはプロセス終結後にこれらの国と分配協定を交渉する権限を与えられていない。
さらに、損害賠償のための司法的手段も使いにくい。特に、外国贈賄自体が国家に明確に算出できる損害をもたらさず、「国民」という漠然とした被害者しかいない場合、その状況はさらに深刻です。
その結果、スイスは没収利益を保持し続けることになる。なぜなら、スイスが利益に対する支配権を放棄できる明確に定義された法的手段が実質的に存在しないからだ。 少なくともこれらの犯罪によって引き起こされた損害を是正する方法では。
法的措置が必要
基本として、スイスは、外国贈賄事件で得た利益を今後は保持しないという政策に着手すべきである。
むしろ、これらの資金がこれらの事案で外国に生じた損害に対処するために再配分されるよう、立法措置を講じるべきだ。具体的な損害に対処することを目的とした協定を結ぶ、あるいは、贈賄行為のより広範な被害者、つまり最も影響を受けた国の住民の利益のために資金が活用されることを保証するメカニズムを構築することだ。
理想的には、こうした協定には、将来の外国贈賄行為による当該国への損害を防止・抑止するための取り組み、あるいは一般的に法の支配の強化を目指す取り組みへの資金提供を盛り込むべきだ。
法制化に当たっては、外国公務員贈賄事件への協力制限を撤廃する必要もあるかもしれない。あるいは、スイス政府がこの種の事件において情報共有協定を締結することを認める新法を制定する手もある。
もちろん、分配協定の交渉は、あらゆるケースにおいて常に可能、あるいは実現可能であるとは限らない。政治状況によって困難が生じることもあり得る。また、最初の違法行為に関与した汚職勢力が政府に居残っている可能性もある。そのような場合でも、スイスは関連する不正利益を保有すべきではない。むしろ、こうしたケースにおける外国贈賄の利益も再利用できるよう、スイスは一般的な「腐敗防止基金」を法で設立するべきだ。これらの資金を、世界規模で外国贈賄や腐敗を撲滅するための取り組みに再配分するための基金とする。あるいは、他の外国贈賄事件の被害者が、被害の是正や損害賠償請求のために経済的支援を必要とする場合の支援基金にする選択肢もある。
これらの措置からは、スイス自身も恩恵を得ることを強調しておくべきだろう。国内レベルでは、法令を遵守するスイス企業のビジネス拡大につながる可能性が高い。
グラウビュンデン応用科学大学と国際NGOトランスペアレンシー・インターナショナルの調査外部リンクによると、海外で事業を展開するスイス企業の約4分の1が、汚職に手を染める競合他社にビジネスを奪われていると認識する。不正利益を、脆弱国における将来の外国贈賄の防止・抑止するための取り組みに活用することで、スイス企業がビジネスを獲得するためのより公平な競争の場が創出される。国際レベルでは、スイスは世界的な腐敗防止のリーダーとしての地位を確固たるものにするだろう。
スイスは長年にわたり、国際的な腐敗から利益を得ているという認識を払拭しようと努め、そのために重要な措置を講じてきた。しかし、できることはまだある。外国贈賄事件で得た収益の流用・再利用を可能にするための立法措置を講じることで、スイスは汚職マネーを歓迎しないという自らのメッセージを格段に強化できる。
編集:Benjamin von Wyl/ac、英語からのGoogle翻訳:ムートゥ朋子
筆者のアンドリュー・ドルンビーラー氏は「 policy brief on foreign bribery外部リンク(仮訳:外国贈賄に関する政策概要)」を出版した。
このオピニオン記事は筆者の見解であり、スイスインフォの見解を代表するものではありません。
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