The Swiss voice in the world since 1935
トップ・ストーリー
スイスの民主主義
ニュースレターへの登録
トップ・ストーリー
ディベート
すべての議論を見る
Alpine scene

氷河が解けるとどうなる?

アルプスや世界中の氷河の融解が加速している。国連は2025年を「氷河の保護の国際年」と定め、世界に氷河の重要性を訴えている。

氷河が解けるのは何も新しいことではない。1850年以来、アルプスの氷河の体積は約60%減少した。しかし驚くべきは、アルプスや地球上のあらゆる地域の「巨人」が縮小する速度だ。

連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ)の氷河学者でスイスの氷河監視ネットワーク(GLAMOS)運営委員、ダニエル・ファリノッティ氏は「氷河の後退が加速している」と話す。

国連は2025年を「氷河の保護の国際年」と定め、世界に氷河の重要性を訴える。

スイスアルプスの氷河はどのように変化した?

2022年夏に発表された調査外部リンクでは、スイスの氷河は1931年から2016年の間に体積が半減し、2016~21年の間にさらに12%減少したことが分かった。

>>ヴァレー州のゴルナー氷河が1930年から2022年にかけてどのように変化したかの画像はこちら

外部リンクへ移動

2024〜2025水文年(水文現象の1年間を区切った期間のこと)における氷河の質量損失は3%だった。特に6月から8月の高温および冬の降雪量の少なさが融解を促進した。

産業革命以前と比べ、スイスの気温は2℃以上上昇しており、これは世界平均の2倍に相当する。このペースが続けば、ユネスコ世界遺産に登録されている雄大なアレッチ氷河を含む約1500のアルプス氷河の半数が2050年までに消滅する見込みだ。

温室効果ガス排出量の削減策が講じられなければ、今世紀末までにスイスおよびヨーロッパの氷河のほぼ全てが完全に消滅する可能性がある。

気温上昇を受け、アルプスでは物や人間の遺体が発見されるケースが増えている。2022年には、50年以上氷に閉じ込められていた飛行機の残骸が発見された。雪の科学の専門家ロバート・ボロネーシ氏によれば、こうした発見は今後さらに増える見込みだ。

おすすめの記事
氷河から現れた事故機

おすすめの記事

気候変動対策

氷河の後退で蘇る50年前の墜落事故

このコンテンツが公開されたのは、 スイスの氷河ではこの夏、かつてなく珍妙な出来事が起こった。50年以上前の遺体と飛行機の残骸が解け行く氷から出現したのだ。専門家ロベルト・ボロネージ氏は、今後数年はこうした発見が増え続けると予告する。

もっと読む 氷河の後退で蘇る50年前の墜落事故

地球温暖化による氷河の融解は、ほぼ未知の細菌やウイルスを環境に放出している。これらの微生物は、プラスチック汚染から抗生物質耐性まで、いくつかの主要な地球規模の問題に対処する手助けとなる可能性がある。

ある研究グループがスイスアルプスのローヌ氷河で初めてこれらを研究している。詳細は以下の動画で紹介している。

>>氷の中の細菌とウイルスーー以下の動画では、氷河微生物の採取方法と、それらを保存することがなぜ重要なのかを紹介しています。

地球の氷河の状況は?

氷河の後退はアルプスだけではない。地球上のほぼ全ての氷河が薄くなり、融解の速度が加速している。

世界氷河監視サービス(WGMS)が2024年2月に発表した研究外部リンクによると、2000年から2023年の間に、世界の氷河(グリーンランドと南極の大陸氷床を除く)は質量の5%以上を失った。

スイスとヨーロッパアルプスの氷河が最も深刻な打撃を受け、2000年以降で39%の質量を失った。コーカサス、北アジア、米国の氷河も著しく減少している。極地の氷河でさえ融解の影響を受けている。

気温上昇は、これまで不可解なほど安定していたりわずかに成長していた地域でさえ氷河融解を加速させている。この「パミール・カラコルム・アノマリー」と呼ばれる特異な現象について、スイスの研究プロジェクトが解明を進めている。

おすすめの記事
タジキスタンの河川 水位監視ステーションを設置

おすすめの記事

気候変動対策

パミールの「解けない」氷河、スイス研究チームが謎に迫る

このコンテンツが公開されたのは、 中央アジアには、地球温暖化の影響を受けていないように見える氷河がいくつも存在する。氷河の面積は安定して縮小しないどころか、むしろ増えている。この特異な現象の原因を探るべく、スイスの研究チームが調査に乗り出した。

もっと読む パミールの「解けない」氷河、スイス研究チームが謎に迫る

氷河はどのように監視されているのか?

スイスは世界の氷河監視において中心的な役割を担っている。

1986年以来、チューリヒ大学に拠点を置くWGMSは、30年以上にわたって連続測定データが存在する基準氷河群外部リンクから、質量と体積の変化に関するデータを収集している。これらの氷河は地球上の多様な地理的地域と気候条件を代表している。

監視サービスはさらに、第二の氷河群外部リンクに関する情報も収集している。合計で、約30カ国にまたがる130以上の氷河(スイス国内の約20氷河を含む)の変化を観察している。

以下の記事は、世界中で氷河がどのように測定されているか、そして研究者たちが直面する課題について解説する。

おすすめの記事

氷河がなくなると世界はどうなる?

氷河は20億人以上に飲料水を提供している。景観を形成し、スイスやボリビアのような山岳国の文化的アイデンティティにも貢献する。科学にとっては、気候変動に関する貴重なデータ源となる。

気候変動による後退は、特にアジアやラテンアメリカの下流域コミュニティの水供給を脅かし、農業や水力発電に悪影響を及ぼす。氷河の融解は土砂災害や洪水のリスクを高め、海面上昇の一因となる。

スイスでは、アルプスの氷河融解により洪水・土石流・地滑りなどの自然災害リスクが増大している。氷河内に形成された湖が突然谷へ流れ出し、村やインフラを破壊する危険性がある。また氷と永久凍土層が薄くなるにつれ、山岳地帯の不安定化が進んでいる。

おすすめの記事
ムットホルン山小屋と青空

おすすめの記事

気候変動対策

永久凍土融解で危機感が高まる山岳地帯 進む調査と対策

このコンテンツが公開されたのは、 永久凍土融解は地盤を不安定化させ、山岳地帯のインフラにも影響を及ぼす。世界最長の山岳永久凍土の観測記録を誇り、永久凍土研究を先導するスイスは、ヒマラヤ山脈などの同様の危機にさらされている地域の調査・対策にも取り組んでいる。

もっと読む 永久凍土融解で危機感が高まる山岳地帯 進む調査と対策

スイスでは、危険とされる氷河は常に監視されている。ヘリコプターによる飛行調査や陸上調査のほか、最新のテクノロジーも使われる。高解像度カメラやレーダー、音響センサー、氷の振動探知機、衛星画像などにより、小さな動きまで記録することが可能になった。

おすすめの記事
gente che osserva un ghiacciaio da una capanna alpina

おすすめの記事

重点的な監視が行われるスイスの「危険な」氷河

このコンテンツが公開されたのは、 スイスに氷河は数多くあるが、そのうち60カ所はアルプスの村や道路、鉄道の安全を脅かす可能性が高い。世界で最も古く、最も発達した監視ネットワークを誇るスイスでも、今月3日にイタリア北部のドロミテ山塊で起きたマルモラーダ氷河の崩壊のような災害を予測するのは不可能に近い。

もっと読む 重点的な監視が行われるスイスの「危険な」氷河

氷河の融解に伴い、スイスのある主要な貯水池が危機にさらされている。ここは、国内人口の60年分に匹敵する飲料水がある。

スイスの人口が1千万人に増えたとしても、十分な水は確保できる。だが局所的・一時的な水不足は避けられず、スイスは全国的な干ばつ対策を進めている。

おすすめの記事
干上がったブルネ湖

おすすめの記事

気候変動対策

水が豊富なスイスで渇水対策が必要な理由

このコンテンツが公開されたのは、 雪崩、洪水、熱波など、スイスは様々な自然災害の警戒システムを持つが、渇水への対応は遅れている。渇水はなぜ起こるのか。予測は可能なのか。渇水リスクが高まる中、スイスでも対策が進んでいる。

もっと読む 水が豊富なスイスで渇水対策が必要な理由

水力発電と農業に新たな活路を開く方法として、氷のない山間部に多目的貯水池を作るという案もある。ETHZとスイス連邦森林・雪氷・景観研究所(WSL)の予測外部リンクによると、氷河が完全に融けると、アルプス山脈に683の湖が新たに誕生する可能性があるという。

ヴァリス(ヴァレー)州では雪解け水を既存の貯水池に集めるスイス独自のプロジェクトが計画されている。この水は夏の間、ブドウ畑や畑のかんがいに使用される。

おすすめの記事
ザルゲッシュ村(フランス語でサルケネン)は、スイスでも有数のワイン産地だ

おすすめの記事

気候変動対策

水不足解消を探るスイスのワイン産地

このコンテンツが公開されたのは、 スイス南部のザルゲッシュ村で今行われている水不足解消プロジェクトは、干ばつに見舞われやすい地域に希望をもたらすかもしれない。

もっと読む 水不足解消を探るスイスのワイン産地

さらに問題なのは、スイスアルプスから何百kmも離れたヨーロッパの状況だ。雪解け水や氷河が減少し、スイスが発電のために多くの水を確保しようとすれば、ヨーロッパの大河川(ローヌ川、ライン川、ドナウ川、ポー川)の流量が夏に大幅に減少する可能性がある。

>>スイスの氷河がなくなったら世界はどうなる?

以下の記事は、水利用をめぐる紛争を回避するために、相反するニーズをどのように調整するかを解説している。

おすすめの記事
アルプスの滝

おすすめの記事

気候変動対策

欧州の水問題、衝突は回避できるか

このコンテンツが公開されたのは、 欧州の主要河川に豊富な水を供給するスイスアルプス。だが地球温暖化によりその量は減少し、将来は水の奪い合いになる可能性が高い。

もっと読む 欧州の水問題、衝突は回避できるか

アルプスの氷河を守るには?

スイスの名を世界に知らしめたこの重要遺産を維持するため、研究者たちが時間との戦いに着手した。スイス東部グラウビュンデン州のモルテラッチ氷河では、人工雪で氷河を保護するプロジェクトが始まった。成功すれば、ヒマラヤやアンデスにも活用できるシステムだ。

おすすめの記事
アレッチ氷河

おすすめの記事

気候変動対策

融解を食い止めろ!人工雪でアルプスの氷河を救う

このコンテンツが公開されたのは、 アルプスの氷河が気候変動の影響でますます減少している。氷河の命運を神に委ねる人々がいる一方で、テクノロジーの力で後退を食い止めようと試みる研究者もいる。

もっと読む 融解を食い止めろ!人工雪でアルプスの氷河を救う

アルプスでは氷河の融解を遅らせる防水布の利用が増えている。氷河の上に敷かれたUV加工の白い布は太陽光を反射し、その下にある雪と氷の保護に役立つ。スイスの研究によると、このジオテキスタイルは局所的には効果的で収益性も高いが、大規模な利用は現実的ではなく、費用対効果も低い。

だが温室効果ガス排出量が増え続ければ、科学になすすべはなくなる。スイス国民は2023年6月、2050年までの排出量を実質ゼロ達成を義務付ける気候変動法を国民投票で可決した。

世界で最も影響力のある気候研究者、ヨハネス・オルレマンズ氏はこう警鐘を鳴らす。「アルプスの氷河の一部でも保存したいなら、化石燃料の時代を終わらせるしかない」

おすすめの記事
氷河

おすすめの記事

気候変動対策

「氷河を救うには、地球温暖化を止めるしかない」

このコンテンツが公開されたのは、 長年にわたる氷河と氷床に関する研究をたたえ、オランダの気候学者ヨハネス・オルレマンズ氏(72)に賞が授与された。インタビューでは、人工雪でスイスの氷河の融解を遅らせる試みについて語った。

もっと読む 「氷河を救うには、地球温暖化を止めるしかない」

人気の記事

世界の読者と意見交換

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部