米国のベネズエラ攻撃、スイスの石油取引業者が商機探る
トランプ米政権によるベネズエラ攻撃とニコラス・マドゥロ大統領の拘束で、同国の世界最大の石油埋蔵量が再び注目されている。石油の重要な商品取引ハブであるスイス国内のトレーディング企業が、その動向を注視している。
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第1次ドナルド・トランプ政権は2019年、ベネズエラ国営石油会社PDVSAを制裁対象に指定した。それ以来、スイスの石油取引業者は制裁に従うか否かの選択を迫られてきた。一部の例外を除き、ベネズエラとの取引は事実上途絶えている。
しかし、米軍によるマドゥロ大統領拘束、そしてトランプ大統領が「深刻な損傷を受けたインフラ再建」に米石油産業が投資すると発言したことを受け、トレーダーたちは、豊富な石油資源を擁するベネズエラとの取引再開の可能性を注視している。
エネルギー取引企業は、世界最大のハブ拠点であるスイス(主にジュネーブとツーク)に集結する。これらの企業が見据えるのは、ベネズエラの石油が再び世界市場にとって重要になるかどうかではない。いつ、どのような政治的・法的状況下で重要になるか、だ。
スイスは世界有数の商品取引・金融センターとして、特に石油・ガス分野で強固な地位を築く。同分野では世界貿易の約35%を占める(推定)。ロンドンと並び、ジュネーブとツークは欧州の原油・石油市場の中核を担う。
世界有数の独立系商品取引業者であるビトル、トラフィグラ、ガンボー、マーキュリアなど複数の企業がスイスに本社を置く。シェル、BP、トタルエナジーズ、サウジアラムコ・トレーディング・カンパニーなど、多くの石油大手や国営生産企業もスイスにトレーディング部隊を置く。
これら本社や取引部門を擁するスイスは世界市場における石油の価格設定、資金調達、物理的流通の中核拠点となっている。トランプ氏がベネズエラの石油の将来について大胆な約束を掲げる中、この役割は重要性を増している。
トランプ氏は、数千万バレルの石油がアメリカに移送され、米石油企業が1年半以内に現地生産を開始すると主張している。この目標が達成可能かどうかは、まだ不明だ。
スイス貿易・海運協会(Suissenégoce)のフロランス・シュルシュ事務局長は「我々には未来を予見する水晶玉はない。状況が変わる可能性は大いにある」と語る。
燃料価格の抑制、米軍によるベネズエラ沖の船舶監視、形式上の制裁続行下で、マドゥロ政権の突然の崩壊は世界的な影響を伴う戦略的議論を再燃させた。
制裁対象の産油国はいかにして世界市場に復帰するのか?資本はどれほど迅速に回帰するか?そして長らく世界の石油流通で中核的な仲介役を担ってきたスイスのトレーダーは役割を果たせるのか?
シュルシュ氏は、11月の米中間選挙の結果もベネズエラ統治に大きな影響をもたらす可能性があると指摘する。
「投資の是非については、短期的には商品取引における事業面への影響よりも『進行中の情勢変化の』政治的影響の方が大きい。商品取引業者は多額の資本を投入する前に確実性を求めるが、現時点ではその確実性は存在しない」
ベネズエラの原油確認埋蔵量は推定3000億バレル以上と、世界の総埋蔵量の17%を占める。世界最大規模の埋蔵量を誇るが、長年の不適切な管理と汚職により生産量は激減。トランプ政権介入前時点で1日当たりわずか100万バレルに落ち込み、ウゴ・チャベス前政権時の生産量の3分の1以下、世界の石油地図上ではほぼ無視できる水準となっている。
動向を注視
トランプ氏はベネズエラの石油部門の近代化に向け、米石油会社が投資することを望んでいると述べた。5日には専門家が少なくとも1000億ドル(約14兆円)と試算する費用を補填するため、政府補助金を提供する可能性も示唆した。アメリカは既に、特に粘度が高く精製コストが高い「ヘビー・サワー」と呼ばれるベネズエラ産原油を精製できる能力を持つ。
しかし、各国に精製所や貯蔵ターミナル、パイプラインなどエネルギーインフラを所有するスイスの大手トレーダーの一部は、ベネズエラ情勢を注視していく姿勢を示している。例えば商品取引会社のビトルとマーキュリアは、長年アメリカで物理的資産を保有してきた。
ジュネーブ大学で商品取引を教えるジャコモ・ルチアーニ講師は、安定した政治環境が整い投資が流れ始めるまで「数カ月から数年」かかる可能性はあるものの、「商社は資金調達を前倒したり、少数株主として出資したりすることでこれらのプロジェクトの資金に参画する役割を果たせる」と話す。他地域で既に採用されているモデルだという。
ルチアーニ氏は、ベネズエラの膨大な確認埋蔵量は、探査リスクを回避したい投資家にとって重要な誘因となると強調した。新たな石油事業に参入する際の重要な判断材料となる。
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引き金になる?
ベネズエラで機が熟した際にスイスにある大手商社が何らかの対応を取るかについて、「彼らが長期的な投資を行わないなら、私は失望するだろう」と、スイスのあるトレーダーは匿名を条件にスイスインフォに語った。その間、一部の商社は将来の投資に備え、他のオフショア管轄区域に会社を設立する可能性があると語る。
石油取引部門の大部分をツーク州バールに置くグレンコアの株価は5日、米国のベネズエラ介入を受け上昇した。将来的な収益機会を見込んだ買いが入った。
トラフィグラの石油部門グローバル責任者ベン・ラコック氏は6日、ブルームバーグに対し、同社はインフラよりも物流に重点を置いており、米当局と今後協議する予定だと説明。法的条件・透明性・従業員の安全が確保されるのであれば、上流部門への投資も検討する可能性を否定しなかった。
しかしルチアーニ氏は、トランプ氏の要請に産業界が即時に反応するかは懐疑的だ。「トランプ氏の政策には当初から矛盾がある。石油生産を増やして価格を下げようとしているが、価格が下がれば投資意欲は減退する。ゼロになるわけではないが、企業はプロジェクトへの投資価値をより慎重に判断するようになる」
トラフィグラのチーフエコノミスト、サアド・ラヒム氏は、新たな投資がない限りベネズエラの生産水準は当面変わらないと予想。しかしその一方で、制裁下で石油が貯蔵施設に蓄積され続けていると説明する。「合法な石油であれば、貨物船が入港し、我々(トレーダー)がそれを移動させられる」とスイスインフォに語った。
「世界の石油需給バランスを変えることはないかもしれないが、大手で信頼できるトレーダーが、闇取引の手法を回避する形で石油にアクセスできるようになる」と付け加えた。最大の顧客である中国は、ベネズエラからの出荷を隠すため、いわゆるシャドーフリート(影の船団)などの手法を用いてきたと報じられている。
制裁順守
アナリストらは、劇的な政治的変化はあったものの、ベネズエラはスイス企業にとって依然、法的・政治的に高リスクな環境であると警告する。
2020年2月、アメリカはロシアの石油大手ロスネフチの子会社であるジュネーブ拠点のロスネフチ・トレーディングに制裁を科した。ベネズエラの国営石油会社PDVSAを支援し、船舶間の秘密裏な積み替え取引に関与したというのが理由だ。さらにその1カ月後、ジュネーブにあるロスネフチの別の子会社TNKトレーディング・インターナショナルも同様の理由で制裁対象となった。
シュルシュ氏はこうした経緯から、制裁順守するため商品取引企業の運営コストが増していると説明する。例えば保険料の上昇や法務部の人員拡充などだ。
「我々の業務はますます複雑化している。商品取引業者は行動に非常に慎重だ。不正行為の疑いをかけられる可能性があるため、法務・規制対応チームは引き続き拡大している」
編集:Virginie Mangin/ac、英語からの翻訳:宇田薫、校正:ムートゥ朋子
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