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参政権を比較する


市民の発議権 スイスと欧州での共通点と相違点は?



Bruno Kaufmann




米欧の環大西洋貿易投資協定(TTIP)の撤回を求めた欧州市民イニシアチブ(ECI)に326万人の欧州市民が署名した (Stop TTIP)

米欧の環大西洋貿易投資協定(TTIP)の撤回を求めた欧州市民イニシアチブ(ECI)に326万人の欧州市民が署名した

(Stop TTIP)

基本賃金、動物保護、社会保障、基本権。スイスや欧州の市民がこうした様々なテーマの政策について共同決定できるのは、発議権があるおかげだ。今、そんなスイスや欧州で未来の直接民主制に向けての見直しが始まっている。

 欧州連合(EU)は2012年4月1日以降、スイスに少し近づいたと言える。4年前のこの日から、EU加盟28カ国の5億人の市民はEUの政策決定のプロセスに直接参加できるようになったのだ。この欧州市民イニシアチブ(ECI)と呼ばれる市民の発議権は、超国家的な直接参政権だ。

 欧州もスイスも、この制度の導入の背景には、政治共同体としてのまとまりを揺るがす社会的な対立があった。スイスでは、1880年代にスイス中央部のカトリック教の州が統合する際に対立が起こった。また欧州では、1990年代にデンマークやアイルランドといった国が国民投票で協定改正を否決したという事実を受け、参政権の強化を求める欧州市民の声が高まった。

 ECIは導入から4年が経ち、今ようやくスイスの直接参政権と比較することが可能になった。ECIもスイスの参政権も、少なくとも「社会の少数派が多数派に対し疑問を投げかけ、その答えを得る権利を持つべき」という考えに基づいている点では共通している。そういう意味で、EUもスイスも、市民の発議権は少数派のための政治的な権利であり、あらゆるテーマに関して「下から」提言をする権利と言える。発議の内容が多数派の意見に合うか合わないかはお構いなしという点も同じだ。

可決された国民発議は過去4年で3件のみ

 数値にも類似点が見られる。スイスで過去4年間に登録された国民発議は合計94件。そのうち28件は規定の18カ月間のうちに10万人分の署名を集めることができなかった。8件は発議者が取り下げ、国民投票にかけられたのは26件。実際に国民と州によって可決されたのは「高額報酬制度反対イニシアチブ」(13年)、「性的虐待者の再就職禁止」(14年)、「大量移民反対イニシアチブ」(14年)の3件のみだ。

 現在、連邦議会と政府で審議中の国民発議は14件。国民発議が同時に15件も出ていたピーク時と比べ現在は4件のみで、それもまだ署名を集めている段階だ。

 この制度では、市民からの発議が氾濫するという批判が絶えないが、現時点のスイスでその心配は無用と言える。

 面白いことにEUも状況が似ている。こちらは過去4年間に56件の市民発議が立ち上げられた。しかしそのうち20件は当局(欧州委員会及び欧州司法裁判所)が署名集めを認めなかった。16件は十分な署名が集まらず不成立。ECIの成立にはEU加盟国の少なくとも7カ国を含む市民100万人分の署名を12カ月以内に集める必要がある。また、8件は発議者が自ら取り下げ、欧州委員会の審議にかけられたのは水に対する権利(13年)、幹細胞研究の制限(14年)、動物実験の禁止(15年)の3件のみだった。また、EUもスイスと同様に、現在署名運動が行われている市民発議は4件のみ。12年、13年には一時期、10件以上もあった。

おぼつかないEUの制度

 いずれも発議に対する世間の関心が薄れてきているのは確かだ。ただしその理由はスイスとEUでは全く異なる。これはこの直接参政権の効力と機能がスイスとEUでは全く違うためだ。スイスの国民発議は、国民の意見を反映する手段として発展し、法的効力を強めていったが、ECIはまだ成熟していない。例えばスイスでは過去4年間に、保守派の国民党といった政党も政治的にインパクトを与える道具として国民発議を度々利用し、ある程度の成果を得た。それに対し欧州では、この新しい超国家的な市民の権利で一体何ができるのか、まだEU市民がきちんと把握していない状態だ。

 そのため、スイスと欧州の両方で市民の発議権の今後について見直しが始まったのも不思議ではない。スイスの課題は、国民発議の質と有効性、そして民意の実現化だ。それに対し欧州の課題は、EU当局と市民を直接つなぐこの権利を強化することだ。先日ブリュッセルで開催された年次の「欧州市民イニシアチブデー」では、EU6機関のうち4機関(欧州議会、オンブズマン、経済社会評議会、及び地域委員会)がEUにおける直接民主制の根本的な改革を訴えていた。

 しかし欧州理事会(加盟国)と欧州委員会はこれを拒否。大半の機関と異なり、ECIの改善には全く興味を示していない。

 スイスでも政府や連邦議会の一部で同じような動きがあった。第2次世界大戦の混乱期が過ぎたころ、連邦政府の全権委任を終わらせ従来の直接民主制を取り戻すには、市民が国民投票を主導する必要があった。政府や代表者らはそのような国民投票を拒否していた。

政府への提言にとどまるも、今後の可能性を持つ「ECI」

 とはいえスイスの国民発議は、現時点でのECIと比べ、はるかに効力のある参加型民主主義の制度だ。ECIは「法の改正を求める提言」に過ぎない。だが同時に、超国家的レベルで行使できるECIは、現代の直接民主制が持つ可能性を切り開くものだ。

 過去4年間の「発議の氾濫」が収まった今、この政治的手段の長所と短所を見つめ直し、これまでの経験から学ぶことが求められる。そうすれば、スイスとEUの直接参政権が今後も民主主義を強化するための基準となり模範であり続けられるからだ。


(独語からの翻訳・シュミット一恵 編集・スイスインフォ)

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