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プラごみ条約交渉決裂 「あらゆる試みを阻止するために来ていた」産油国・ロビイストたち

ロダンの「考える人」を模した彫刻
ジュネーブの国連欧州本部前に、プラスチック条約交渉のために制作されたカナダ人アーティスト、ベンジャミン・フォン・ウォンの作品「考える人の重荷」  Keystone / Martial Trezzini

プラスチック汚染を食い止めるために拘束力のある国際条約を作る試みは、ジュネーブでの交渉が決裂した。複数の専門家は、利益団体や石油・プラスチック生産国からの圧力を指摘している。

15日の夜明け、判決が下された。ノルウェー代表は「ジュネーブではプラスチック汚染に関する条約は締結されない」と総会で宣言した。 

4日に開会し、8月14日深夜に終了予定だった交渉は、15日午前6時まで続いた。ジュネーブに集まった185カ国の代表団は、100以上の論点が不明確なまま、妥協案を受け入れるよう迫られた。非公式会合に出席したほぼ全ての国がこれを拒否した。

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「阻止するために来た」

最大の論点は、プラスチックの生産量そのものを削減するかどうかだった。目標は、世界的な生産量上限を設定し、段階的に削減しながら製造工程で使用される有害物質の量を制限していくことだった。だがこのデリケートな問題は世界を二分し、交渉は気候変動に関するパリ条約を彷彿とさせる膠着状態に陥った。

ノルウェーとルワンダが率いる「高い野心連合」(スイスや日本も加盟)は、国連の義務に従い、製造から廃棄までプラスチックのライフサイクル全体を網羅し、2040年までに生産量を削減するという拘束力のある目標を求めた。

毎年4億トン以上のプラスチックが生産される。その半分は使い捨てで、リサイクルされるのは10%未満。残りは埋立地、土壌、海に蓄積されるか、マイクロプラスチックに分解されて生態系を汚染したり、人の血液に浸透したりする恐れがある。 

経済協力開発機構(OECD)によると、世界のプラスチック生産量は過去20年間で倍増し、2060年までに3倍に増える可能性がある。このため国連は2022年、プラスチックの生産を抑制し、廃棄物管理を改善することにより、プラスチックのライフサイクル全体を網羅する拘束力のある国際条約を締結することを決議した。

一方、サウジアラビア、ロシア、イラン、中国などの産油国やプラスチック生産国は、生産を制限せずに条約を廃棄物管理に限定することを目指した。

2024年12月の韓国・釜山会合が最終交渉となるはずだったが、これらの国々はあらゆる生産制限に反対し、大失敗に終わった。

国際環境法センター(CIEL)代表団長を務めたダヴィッド・アズレー氏は「一部の国は条約文を最終決定するためにジュネーブに集まったのではなく、全く逆のこと、つまり実行可能な条約を推進するあらゆる試みを阻止するために来ていた」と非難する。 

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アズレー氏はジュネーブでの交渉を「完全な失敗」と評した。「現状維持を望む者と、時間をかけて強化できる機能的な条約を求める大多数の間で、合意点を見出すことは不可能だ」

石油国とロビー団体による妨害

ロビー団体や産油国がかけた圧力も注目を浴びた。CIELによると、化石燃料業界と化学業界から234人以上のロビイストがジュネーブ会合に参加し、出席した代表団としては最大勢力を築いた。

うち19人はエジプト(6人)、カザフスタン(4人)、中国(3人)、イラン(3人)など、各国代表団にも加わった。米エクソンモービル、ダウ・ケミカル、米国化学工業協会など化学関連の代表者のほか、コカ・コーラやレゴも名を連ねた。

世界のプラスチック生産量
Kai Reusser / SWI swissinfo.ch

CIELのプラスチック・石油化学専門家、シメナ・バネガス氏は「こうしたロビイストは加盟国に圧力をかけ、脅迫戦術に訴え、交渉プロセスの野心を削ごうとする。そうすることで意欲的な条約の成立を妨害する」と指摘する。

交渉継続?

交渉の将来は不透明だ。スイス代表団長を務めたフェリックス・ヴェルトリ氏は、スイスインフォの取材に「一時停止」が必要だと語った。「今回は大きな失望をもたらした。私たちは今こそこの失敗の原因を深く考え、交渉プロセスを見直す必要があるかどうかを判断しなければならない。産油国は条約に強く反対しており、国際ルールを望まない米国も同様だった」 

国連環境計画(UNEP)のインガー・アンダーセン事務局長は、長く複雑な交渉に疲れた様子を見せながらも自信を示した。「失望はあったが大きな進展もあった。プラスチック汚染が止まらない限りこの取り組みも止まらないことを、誰もが理解しなければならない」

CIELのアズレー氏は、やり方を変えなければ今後の交渉は必ず失敗すると見ている。「私たちに必要なのは同じことを繰り返すのではなく、新たなスタートを切ることだ。条約支持国はこの欠陥のあるプロセスから撤退し、行動する意思のある国々が合意を主導し、今回見られたような『合意の専制』に終止符を打つ投票ルールを作らなければならない」

議長国は交渉を「終結」させるのではなく、「中断」する道を選んだ。これにより、新たな会合への道が開かれた。だがプラ問題は拡大し続け、条約締結への道は長く、多くの落とし穴が待ち構えている。

編集:Pauline Turuban、独語からのGoogle翻訳:ムートゥ朋子

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